***世界が悔やむ最果て
―17―
誰かが、声を上げた
それを聞いて、其処から駆けた出す
「やっぱり、痒いか?」
新しい包帯に換え、ぐるぐると巻きながら昴治は
祐希に聞いた。
ソファに寄り掛かっている祐希は眉を顰める。
「腕、腕だよ。洗ってないだろ」
「……そうだな」
包帯を巻いている昴治の手を祐希は見て、
瞳を細めた。
「通気性のいいヤツにすれば、マシになるかな?」
「あんま大差ねぇだろ、」
「少しは変わるんじゃないか?
まぁ、そういうのあるか解らねぇけど」
何とか包帯を巻き終え、腕を軽く撫でる。
石膏テープの硬さは、生身のあたたかさを伝えてはこない。
瞳を上げれば、祐希と瞳があった。
その眼光の鋭さは弱まっているように見える。
「昼飯、」
「あ? もう、そんな時間か??」
言われて、壁に掛かっている時計を見た。
時刻は午後の一時に差しかかっている。
「スパゲティで、いいな」
「ああ」
不平を言わず頷いた祐希に、昴治は微笑んだ。
「じゃ、早速……あ、ナポリタンだからな」
「ああ」
背もたれに深く祐希は身を預ける。
昴治の言葉に頷き、瞳を閉じた。
「アニキ、早く作れよ」
「解ってるって、ちょっと待ってろな」
祐希に背を向け、昴治は台所へと行く。
唇には笑みが浮かび、確かに昴治は満たされていた。
何とも言えない、感情が胸を締め付けながらも包み込んでいる。
「………」
祐希は台所へ行く、兄の背を見て
すぐに瞳を逸らす。
ソファの上に放り出されている左手は白くなるほど強く握られていた。
それを見る度、確認させられる
自分では、ないんだと。
声が聞こえて、幼い少年は駆けた。
友人の声を気にせずに、その声主の前に立つ。
「どうしたんだ? ゆうき」
「……なにも、言ってないよ」
「そうか?」
俯く小さな弟に、聞こうとしたが友人たちの声が聞こえて
弟から昴治は瞳を背けた。
「なんか、あったら言えよ」
兄の言葉に、弟は一つ頷いた。
それを見て、そのまま昴治は弟から離れて行った。
「……」
もう、泣いてもダメ
もう、我が儘言ってもダメ
もう、ずっと傍には、いてくれない
「………」
胸元に両手を当て、強く祐希は手を握り締めた。
少女のような可愛らしい顔が歪む。
「……にいちゃんっ」
押し殺すような声は小さく震え、遠くで友人と遊ぶ昴治には
全く聞こえはしなかった。
かなしみ は 憎悪 に変わった
それは降り重なる一つだった
(続) |