***世界が悔やむ最果て
―16―
やっと、やっと戻ってきた。
そう思う自分の前には
あたたかい壁があった
「……」
物音が聞こえ、昴治は目を覚ました。
カーテンから漏れる光は弱く、夜が明けたばかりなのだと知る。
視線を彷徨わせて、横を見たが誰もいなかった。
「……」
いたハズの場所に手を当てる。
冷たい。
「っ……」
咽喉をひゅっと鳴らし、昴治は飛び起きた。
自分の部屋。
自分以外、誰もいない。
昨晩、ぬるいモノから一つ上のセックスをした。
導いたのは昴治だった。
ベッドから降りて、落ちている服を拾って着る。
(誤解、されたか?)
そういう趣味なのだと。
今更の話で、信じてもらえないかもしれないが
同性との性の接触は好まない。
弟は、別。
眉をひそめ、息をついた。
咽喉奥が震え、自分の部屋と祐希の部屋を仕切る
アコーディオンカーテンを見る。
閉められたソレは、あの雨の日より前からあった。
「ねぇ? どうして、にいちゃんと一緒だめなの?」
「いつまでも一緒ってワケには、いかないだろ」
一つの部屋を、壁を作って二つに分けた。
昴治は立ち上がり、その壁となっているアコーディオンカーテンへ近寄る。
手を伸ばし、触れてみれば
冷たくもあたたかくもない感触が伝わった。
すぐに、開く。
薄い、壁は、此処に変わらずある。
「………」
開けて、ベッドに祐希はいるだろうか。
昴治は俯き、カーテンから手を離した。
(なに、やってんだろ。俺は)
唇だけ笑みを浮かべ、すぐに消す。
背を向け、ベッドへ倒れ込んだ。
布団を掛けずに、そのまま瞳を閉じる。
此処しか、ないのだから。
弟は戻ってくる。
この場所に。
左胸辺りが傷んだが、昴治は少しの安堵を覚えた。
やっと、戻ったのだから。
手を差し出せば、その手が伸ばされる。
強制ではなく、向こうから。
その手をとって、優しく包んでやるのだ。
それは切り裂くものだと、昴治は知らずに。
アコーディオンカーテンは、閉じたままだ。
(続) |