***世界が悔やむ最果て
―11―
小さい頃の弟は、自分の真似をよくしていた
どうして真似をするのか。
一度、一度だけ聞いた事があった。
弟は、何て答えただろうか?
高い陽射しがアスファルトを照らす。
霞みがかる空でも、その陽射しの強さは変わらない。
確実に、迫る遠い未来の最期。
それを告げているかのようだった。
陽射しが強い場所を避けるように、日陰を歩く。
「重くないか?」
「別に」
コンビニで買った荷物を持ったのは祐希だった。
何度も自分が持つと言ったのだが、頑固として袋を離さない。
店先で押し問答を繰り返すが、曲げる気配もなく仕方なく持ってもらった。
右手を吊るしている者が荷物を持つなど間違っていると思うのだが、
正直助かったと思う節があった。
(少し、痛む…)
右肩が少し痛んだ。
左手で持てばいいのだが、痛みは横へ広がっている。
持って歩く自信は、実はなかった。
(情けないな)
自分でも解るほど、体力低下している。
日常に害は及ぼさないと医師は言っていたが、こういう時は害だと思った。
斜め前を歩く祐希を見る。
そこには力があった。
「この辺、結構、変わったな」
「……覚えてねぇ」
「そうだな、昔だもんな」
普通の会話。
返す祐希の言葉は少ないが、リヴァイアスの時とは格段に多く話す。
微妙な距離を保ちながら。
昴治は頬にかかる、生ぬるい風に瞳を顰めて、視線を落とした。
ジーンズに黒のデザインサンダルを履いた足の動き。
その動きを見て、昴治は瞳を揺るがす。
細く長い足は、その足先は道路に引かれた白線の上。
飄々と歩く足は、白線から外れはしない。
「にいちゃん、なにやってるの?」
「ん? 線の上、歩いてんだよ」
「じゃ、僕も!」
その行為に意味はない。
弟は笑って、自分の真似をした。
嬉しそうに笑って。
白線の上を祐希は歩いていた。
途中、途切れた所は、少し大股で飛び越し次の白線の上に足をつく。
「祐希、」
日陰の中、木々の合間からの煌きの眩しさに目を細めて
瞳だけ向ける祐希を見た。
「あァ?」
「………」
普通で、自分の中にある記憶と重ねて既視感と共に
そう繋げているだけかもしれない。
「なんだよ」
「アイス、買えばよかったな」
「溶けるだろ、」
「大丈夫だろ、これくらいの暑さだったら」
けだるそうな表情になり、祐希が瞳を逸らした。
何か言おうとしたが、止めて昴治は少し歩みを速めて祐希に近づく。
足は白線の上。
無意識の内か、それとも
弟は、まだ 自分が指し示した場所にいるのか
知る由もなく、聞く術もない。
「今日の夕飯、どうする?」
昴治は、他愛のない話を、再開した。
「なんで、真似すんだよ?」
「しちゃ、ダメなの?」
「いや、そうじゃなくてさ……何でかなってさ」
弟は、満面の笑みを浮べて
昴治と同じように白線の上を歩いていた。
「にいちゃんと同じだったら、いっしょに いれるでしょ」
弟は、何と答えたんだろうか。
(続)
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