***世界が悔やむ最果て
―9―
熱い、ソレに名を付けるのならば。
何と言うか?
夜中、昴治は目を覚ました。
理由は右肩の鋭い痛み。
突然痛み出す、それは、どうしようもなかった。
右肩を撫でて、昴治は痛みが過ぎるのを待つ。
「……ん……」
肩からタオルケットが滑り落ち、隣りに眠る相手の姿を見た。
(ずっと、一緒に寝てんな……祐希と)
何日過ぎただろうか。
毎日、毎日、ぬるいセックスをして眠りにつく。
行為に関して祐希は何も言わず、そして従順だった。
最初は初めてだからと考えていたが、そうでもないようだ。
何故?
疑問は音にはならない。
音にする言葉を思いつかず、思い浮かんだとしても
音にする勇気はなかった。
昴治は瞳を顰めて、痛みの引いた右肩から手を離す。
醜く引き攣れている肩の傷。
それを舐める、唇はやわらかい。
「……」
今日は自分の方の部屋。
カーテンを閉めていても、祐希の方よりは若干明るい。
晒されている肢体がよく見えた。
綺麗に、整っている。
肌は程よい色合いで、吸い付くような滑らかさは、いつまで触っても飽きない。
顔も、体も、自分とは違い、至高作品のようだ。
女子にもてるハズだと、昴治は納得する。
比べて、兄である自分はどうだろうか。
平凡の中の平凡。
触れて、いいんだろうか
昴治はクツリと笑みを零し、眠る祐希の頬に触れた。
(今更……だよな)
後悔ではない。
渦巻いているのは、別のモノ。
何度も何度も問いかけるのは、相手ではなく自分自身へだ。
そう、何故、自分は 触れよう としたのか
答えはあった。
認めたくないと思う内面で、やはり自分は認めていた。
何より、自分は初めの頃、思ったのだ。
恋スル 少女ノ ヨウ
冗談では済まされない。
笑い飛ばせる話ではない。
昴治は祐希から手を離し、ゆっくりと横になった。
少しだけ祐希から離れる。
近づき過ぎるのは、何故か気が引けた。
先ほどまで、あんな近くまで近づいたのにだ。
この微妙な距離が心地良い。
(俺は……)
寝る前は思考が深くまで沈む。
相手の寝息に、安堵を覚えて、尚も沈んだ。
過去が反芻されて、それでも、変わらないモノに瞳を閉じる。
言葉で、もし表すのならば、何だろうか。
音にはしない事を前提に、昴治は沈みながら考えた
弟が、 好き
凡庸な言葉で表せば、多分それだ。
だが、その考えもまた凡庸だった。
(続)
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