***世界が悔やむ最果て

―7―





鮮やかなもの。
ゆるやかに、激しく

脳に刻まれた記憶は、決して消えない過去








「にいちゃん、待って!」

後ろから聞こえる声に気にせず、昴治は走った。
泣き出しそうな声を出しながら、小さな弟は懸命に走る。

「まってよ、僕を置いてかないでよっ」

叫びに昴治は振り返らなかった。
言わずとも、弟はついてくるのを知っていたからだ。
そして手を伸ばし、腰に腕を回すのを。

「僕も、一緒に遊ぶ」

「ともちゃんと遊んでろよ」

「ヤダっ!」

何故、嫌なのか問いかけるが祐希は答えなかった。
大きな瞳には、既に涙が浮かんでいる。

「にいちゃんの、言う事、何でも聞くからっ」




一緒に いて




前は、そんなに強情ではなかった。
自分と一緒にいようとするのは、あったが、頑なに傍にいようとまでいかなかった。
だが、突然、是が非でも傍にいようとする弟の行動が目立ち始めたのは


「お父さんはね、もう家に帰ってこないの。 サヨナラよ」


父と母が離婚してからだ。
弟を煩わしく思う時が、確かにあった。
だが、それよりも強く、何とかしなければという義務感に囚われる。
自分が、何とかしなければならない。
自分の他に、誰もいないのだ。
そう、信じて疑わなかった。





「おい、あれほど電気つけっ放しはダメだって言っただろっ」

叱り付けた言葉に返って来たのは、少しの沈黙の後






「うるさいっ、アニキっ!!!」







苛立ちが、沸騰する。
憎しみが膨張する。
嫌悪が噴出する。


人間は変わるもの。
留まる事など、一つもないのだ。
云う事の聞かない弟を、尚も煩わしく思い募らせる。

仕方がない





「この偽善者がっ」





憎悪、憤怒、嫌悪、確執。
ぐるぐると転換しては、混ざり合い、また増えていく。
止めようとした。
だが、その術を昴治は知らなかった。


仕方ない

俺ハ 兄チャン ナノダカラ


小サナ ガキ ノ 反発ダ




チリチリチリチリ。
堪っていくそれを、外へと追い出すように
誰もいない部屋で思い起こしては叫んで暴言を吐き、壁を叩いた。
壁はへこむ事なく、ジンジンと拳に痛みが広がる。





ムカツク ったら












「う、あ……っ……」

吐かれる擦れた喘ぎ。
昴治は強く抱きしめられる。
粘着質な熱い液体が、後に続くように昴治の手を濡らした。
祐希の腕の中、身を動かし視線を下ろす。

「……祐希、」

「はぁ……アニキ……」

少し低い祐希の声に震えた。
手についた白濁の液に、穢れをあまり昴治は感じなかった。
その液体をピクピクと痙攣している腹筋に塗りつけるように手で撫でる。

「祐希……っ……ん……」

口付けてきた。
舌が昴治の舌を絡める。
最初とは違い、擬古地なさがなくなっていた。

「ふは……っ……祐希、」

「……こう、か……」

誘う手に抗わずに、祐希は昴治のモノを擦った。
器用に動く手は、昴治の体を震えさせる。

「はぁ、ぁ……ん…ぅ」

息が零れる。
息を荒げて、祐希の耳に噛み付いた。
同じ荒い息を吐いて、祐希が昴治の耳を舐め上げる。





今、祐希は自分の言う通りにする。
あの頃の弟だった。







胸の内で、熱の激しさに
反発するかのように痛みが膨れ上がる。



知らない事は 幸福だった






(続)

反発でございます。思春期ですね。
昴治は激情家ですが、ドライみたいな。
祐希×昴治だが、逆っぽいか???

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