***世界が悔やむ最果て

―6―





自分との差。

変わると知っている








「減ったなぁ」

「あァ?」

三日経った。
会話が増えている。
何事もないかのように、昼間は一線を置いた距離を保ち
夜は境界線を失くす。
シャツ一枚の昴治の一言に、シャワーを浴び終えて濡れた包帯を取っている裸の祐希は
瞳を訝しげに顰めた。

「あ?」

「……」

取った包帯を洗濯カゴに放り投げて、用意されたタオルを左手で取る。
昴治は上を仰いで、そして下を見た。

「だから、減ったなぁって」

主語がない。
瞳を益々顰めて、祐希は濡れた体を拭き始めた。

「……はぁ…」

そして溜息をつく昴治は右肩を撫でる。

「……何が」

機嫌の悪い声で問われた。
昴治はぶすっとした顔を祐希に向ける。

「体重だ。解るだろ? 普通」

普通は解らない。
と、祐希は言おうとしたが面倒になり隅にある服へ手を伸ばした。
トランクスをはいて、ズボンを履き終えるとブツブツと昴治が話し出す。

「3キロも減った」

体重計に乗っているようだ。
祐希は視線を落とし、そのデジタル表示の数字を見る。

56キロ

少ない。
元の体重なのだろう、プラス3キロでも少ない。

「オマエは?」

「…………」

主語がない。
会話から察してやり、祐希は視線を斜め上に仰いだ。
昴治に視線を戻し、左手を伸ばす。
トンッと胸を押すと、昴治はよろけながら体重計から離れた。
無言で、そのまま祐希は体重計に乗る。

75キロ

「……うわっ」

「………」

表示された数字を見て、昴治は目を丸くして祐希を見上げた。
兄が考えているのだろう事が解り、腕を組んで不機嫌な顔を益々と不機嫌にさせる。

「腹の肉、触るか?」

思った事を匂わす言葉を祐希は言った。
昴治は言葉に視線を彷徨わせて、口を開く。

「別に、太ってんのかななんて思ってないぞ」

上擦った声で言われても、真実味はない。

「贅肉より筋肉の方が重いんだ、貧弱」

水を含んで濡れたタオルを洗濯カゴに放った。
明らかに怒った顔を向ける兄から、祐希は視線を逸らす。

「悪かったな」

怒った声色を聞きながら、祐希は体重計から降りた。

「1.5」

祐希を過ぎて、洗面所から出ようとした昴治の耳に入った。
その数字の意味が解らず、昴治は振り返る。

「1.5……食えばいい」

瞳を瞬いて、昴治は細めた。
食が小さくなった事を、祐希が気づいているのに少々の驚きを覚える。
それを昴治は態度に表さず、溜息をついた。

「肉をか?」

「アンタ、好きだろ」

「好きというか、普通だけどな」

祐希と瞳が合う。
相手の言う通り、どちらかというと昴治は肉料理は好きだった。
食べる量が少ないので一向に増えはしないのだが。
目の前の弟は、


――お肉、嫌い……


小さい頃の声が脳裏で響く。
ハンバーグやミートボールなどのミンチ肉は大丈夫なのだが、
他の肉は嫌いだと言っていた。
幼い自分は、どちらも変わらないと言い切っていたが。

今も、同じなんだろうか?

(同じ……な、ワケない)

好き嫌いは、成長していくにつれて変わるもの。
味覚もそうだ。
昴治は笑みを浮べて、ゆっくりと唇を開く。



「じゃあ、今日の夕飯はハンバーグだな」



少しだけ、弟は瞳を見開いて、そして無愛想な表情に戻り一つ頷いた。








(続)
事後、体を洗った後の会話……(爆)
男の方の体重基本が理解していないので
結構、適当でございます。はい。
まぁ、祐希は重いって感じで。
余談ですが、イクミの方が重いです。
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