***世界が悔やむ最果て
―5―
熱をぶつけあう
相手の動きを探る
余裕を見せる
静かなる戦いだ
デジタルの電子音で昴治は目を覚ます。
瞳を擦り、横たえていた体を起こした。
「………」
頭を掻いて、周りを見渡す。
散らかった部屋は自分の部屋ではない。
(俺……)
ぼうっと宙を見て、すっきりとした爽快感と何処か疲れた感覚を味わいながら
昴治は視線を落とした。
うつ伏せで、安らかな寝息を零す。
「っ」
サッと血の気が引き、そしてすぐにカッと内部から赤くなるような熱を感じた。
悲鳴を叫びそうになる口を押さえて、視線を彷徨わせながら気を静める。
記憶は鮮明に残っていた。
(どうしよう)
罪悪感や後悔からではなく、どう接すればいいのかという話だった。
そんな自分の心境に戸惑いつつ、否定する気は一向に起きない。
――そろそろ、腹くらい括れっ
腹を括ったのだろうか。
開き直ったのか、と昴治は一人、息をついた。
(でも、どうしてだ?)
自分の行動。
相手の対応。
行動の意味。
浮かぶ感情の名前。
手を伸ばして、相手の肩を撫でる。
薄暗く、少しヒンヤリとした空気が残る部屋の中で、晒される四肢は
普通に綺麗だった。
掛かる前髪を掻き分けると、鋭さのない穏やかな寝顔がある。
輪郭を辿り、ゆっくりと指を離した。
汚した手。
最後まで、してはいない。
解放を促すだけの、ぬるいものだ。
うろたえのない祐希だったが、初めてなのは鈍いと言われる昴治でもよく解った。
足りなさそうな表情をしたけれど、先を言わなかった。
多分、知らないのだろう。
上か下か、どういう風にするのか、経験こそないが知識はある昴治は
踏みとどまった。
説明するのに気が引けたのが、一番の理由。
「はぁ……」
――昴治ってば、やっぱり……
幼馴染の声が浮かび、頭をガシガシと掻く。
「ん……」
むずがるように身を縮こませ、その青い瞳が開かれる。
ぼうっと宙を彷徨う青は、いつもより幼く見せた。
彷徨った青は昴治の姿を見つけると、いつものように顰めた顔になった。
「おはよう、朝だぞ」
「………」
取り乱す事もない。
瞬いて、黒髪を掻き分けながら祐希は起き上がった。
「朝飯、なにする?」
「いらねぇ」
「飯抜くの、体に悪いぞ」
普通の会話だ。
昴治の言葉に、素気なく祐希が返す。
(普通すぎないか?? 記憶ないとか?)
(普通だな……)
内に思考を留めて、互いに見合う。
此処に憎悪はない。
だが、此処に優しい感情はない。
あるのは、冷たい欲。
言葉を音にしなかった代償。
互いの視線は、背ける事なく
何かの勝負でもしてるかのように
その後、数分見合った。
戦いだった
(続)
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