***世界が悔やむ最果て
―4―
羨ましいと、思ったのは初めてではない
もう、何度も感じている
人には、できる事とできない事がある
死に物狂いで努力しても然り
服を脱ごうと言い出したのは昴治だった。
一瞬の沈黙の後、祐希は静かに脱ぎ出す。
リヴァイアス、一度目の時は共同入浴だった。
嫌でも、さすがに下半身はないが上半身は同性の体を見る事となる。
予想通り、他の者より貧弱な体に、少し落ち込む節はあったが見たいと思う事はまずなかった。
「ああ……」
感嘆の息を零していた。
小さい頃、共に入浴などしたが、その時とは格段に違う。
均整のとれた体。
細身なのだが、無駄なくついている筋肉。
胸が早鐘を打つ。
「アニキも、」
「え? あ、いいのか……?」
綺麗なモノではない。
自分から相手に脱げと言っておきながら、昴治はまだ脱いでなかった。
恥ずかしいという感覚などなく、劣等の意識が強い。
「……」
右手が伸びかけ、少し祐希は眉を顰めて
左手を伸ばした。
寝巻きのボタンを一つ外される。
「自分で、脱ぐからさ」
言ったものの、祐希の手は離れない。
昴治は有言実行で、祐希よりも先にボタンを外そうとした。
二人で服を脱がす様は、何とも可笑しな光景である。
するりとシャツが落ちて、見えた右肩に祐希の咽喉が鳴ったのを昴治は気づいた。
確かに見れるモノではない。
ケドルド状に凹凸があり、少し変色しているのは
この薄暗い部屋の中でも解る。
古傷となった一文字の痕も、よく映えていた。
昴治は、相手の揺らぎに気づかないフリをして右肩を手で覆うとする。
「祐希?」
薄暗い中、映える肢体が動いて
右肩に唇を寄せられた。
キモチ悪ク ナイカ?
と口から出るハズの言葉は音を失くす。
感覚が鈍っている其処から、熱く湿った舌の感触が伝わった。
舐めて、舐めて、舐めて。
無心で舐めている行動は、獣の求愛をも感じさせる。
此処は何も、言わない方がいい。
昴治はじっと、そのままでいた。
「……アニキ」
気が済んだように、祐希の顔が上げられる。
舐められた右肩は唾液でベトベトになっていた。
冷房の風が、ヒンヤリとさせて、けれどやはり不快感はない。
熱を誘発する、一つでしかなかった。
「ゆっくり、ゆっくりな」
自分の声は震えていた。
言葉は、自分自身に言いかけているようだった。
「手、辛くないか?」
「ああ、」
昴治は相手の首に左腕を回した。
見つめる瞳に罵りはなく、誘うように見つめられる。
動きを見せないのは、祐希が、どうすれば良いのか解らないからなのだろうか。
視線をゆっくりと落として、相手の下肢を見る。
綺麗な体に、そぐわないようでいて、そうでもない。
男である証拠は、自分にも祐希にも明白にあった。
見事に反応している。
(やっぱり、大きい……)
体格の差もあるだろうが。
昔、中学の頃に行った修学旅行での共同入浴。
見せろと大騒ぎしていた同級生の気が知れなかったが、今のような感覚なんだろうかと
昴治は考えた。
それは、揶揄いも混ざっていただろうが、祐希のような顔が良いと気になる。
カタチや大きさはどうであれ、同じモノが自分についているのだから
容易く想像はできるハズなのだが祐希となると思いつかなかった。
想像しようと思ったワケではないが、今、見た時点でも考えにくい。
均整がとれすぎている体の所為で現実感を感じられないからか。
「っ……」
さすがに躊躇はあったが、不快感や嫌悪感はない。
昴治は祐希のモノに触れた。
震える手が昴治を抱き寄せ、自由が残る左手が真似するように昴治のモノに触れる。
「はぁ……う……ゆうき」
「はぁ……」
熱い眼差しが向けられた。
昴治が動く手と同じように、祐希の手も動く。
相手のモノを解放へ導いているのだが、自分のモノを擦っているような錯覚を覚えた。
体を寄せて、昴治は自分のモノと祐希のモノを合わす。
「っ、つ……」
熱い。
目を顰められて、祐希の荒い息が頬に掛かる。
ほんの小さな優越感。
「はぁ、はぁ、はぁ」
笑みを浮べて、そして昴治は快楽に歪めた。
震える咽喉元に昴治は噛み付く。
瞳が滲み、見つめ返す強さは変わらない。
強く、凛々しく、何処までも綺麗
快楽で歪む、今でさえ映える『綺麗さ』に
羨望の眼差しを昴治は滲ませた。
それに、際限はない
(続)
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