***世界が悔やむ最果て

―3―



サラサラサラ

音が聞こえてくる

アイツは 流れ と言った














日系特有の、童顔な方。
草食動物のような、弱々しさを感じさせる昴治は
逆に肉食動物のような、凛々しき威圧的な祐希と共にベッドに倒れ込んだ。
青く射抜くような瞳に映るのは、同じく射抜くほどの強さを秘めた瞳。
草食動物だなんて、とんでもない話だった。

彼は、内に激しい感情を持っている。
けれど、その熱は何故か冷たさも含む。

昴治自身、それに気づいていないが。

(……経験、凄いかと思ってた)

相手に倍返しに嫌味を言われるだろうと思い、昴治は思うだけに留めた。
何もかも、自分よりも『上』に在る弟だ。
態度はどうであれ、結構、優しい奴なのだと親友や幼馴染だと言っていた。
顔も良い。
付き合っていた子がいたのも知っている。
だが。

「っ……アニキ」

零れる息は、急いたものを含んでいる。
キスはした事があるのは、反応で解った。
けれど、こういう事をするのは初めてなのだと伝わる。
震える、その手が。
切実に。

「ん……はぁ…はぁ」

熱い吐息を唇にかけて、カタチをなぞるように昴治の舌が舐めると
祐希の表情が少し顰められた。
それに昴治は瞳を緩める。

(経験は……あるけどさ)

だが、それは女の子相手での話だ。
同性とはない。
冗談でも、したいとは思わなかった。
頼まれたとしてもだ。
だが、しかし。



さっき、自分は何て言った?



祐希の唇が、瞼に触れる。
熱が内部を掻き毟っていくようだった。
身を寄せて、キスを交わす。
ダメだと思う意思はあるにも関わらず、止める事を考えなかった。
ぬるい接触は、昴治の脳裏をチリチリと焼きつけ急かす。

「あのさ、俺……」

「……」

近くにある祐希の瞳から少し逸らした。

「別に、こういうの……いや、その……誤解、すんなよ?」

「誤解、してねぇよ……」

固定された右手を昴治の背に回す。
首を傾げて、昴治は祐希の右手に負担が掛からないように身を少し移動させた
手で頬を包み込む。

サラッ

長めの黒髪が掛かる。
吐かれる息とは相反に、冷たい髪だった。
髪を梳くと、サラサラと鳴る。
見た目、硬そうな髪は良質な絹糸のように柔らかく細やかだった。
幼い子をあやすような撫で方と同じで、怒るかと思ったが相手は瞳を瞬くだけだった。
その思いの外、長い睫を震わして。

「はぁ……」

零れる息と、密着して気づく熱に震えた。
嫌悪はない。
兄弟だから、と括れる問題でもない。
でも此処には、一切の嫌悪はなかった。
当然なんだと思う自分に、昴治は軽く自嘲する。

「……祐希、」

声をかけると、凛とした表情の中で戸惑いを感じられた。
冷房がかかっているというのに、熱帯夜の如くの熱は
祐希にも降りかかっている。

「誤解、すんな……よ?」

それでも昴治は言葉を吐く。
言い訳。
同性と、熱を共有する事に対して。

「っ」

昴治は手を伸ばす。
何も知らない子に、悪い事を教えるような感覚。
祐希の手も同じように伸ばされる。





雷が全身に行き渡ったようだった。







それも、また『流れ』







(続)
解らないかもしんないので……。
髪が鳴る、髪鳴りと、雷をかけておりますです(汗)。
あの髪を梳いた時の、サラって音、好きだにゃ。

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