***世界が悔やむ最果て
―2―
予想はしてた
わからなかったコト
今でも、知る事もない
ただ
これだけは、解る
相手の欲しているモノは、此処にある
手にして、悦んでいる
アンタは どうしようもない、馬鹿だ
薄く暗い。
散らかった床についていた足裏が宙を掻いて
まだ温もりの染みない布団に付く。
「……っ……」
零れた声は、どちらのモノか。
判断できないほど近い。
祐希は瞳を細め、肩に当てられる手の重みを感じた。
キス、したコトあるか?
そう問うているような、唇と舌の動きだった。
キスはした事はある。
ただほとんど、自分からではなかった。
対人恐怖症というワケではないが、肌と肌の接触はあまり好んでいない。
そんな、経験があまりない祐希でも、解った。
(たくさん、してる……コイツは)
キスをした。
接触をしたと思われる相手は、三人、頭に浮かぶ。
「……祐希……」
兄から自分へと乗り換えた女。
何処か嫌な感じにさせる茶髪の女。
幼い頃から共にいた、あの子。
触れたんだろう。
触れ合ったんだろう。
唇を離し、見つめる兄の瞳が微かに揺れる。
その揺れに、祐希は胸に熱いモノを感じた。
もっと、していい?
もう名前も覚えていない、付き合った女の一人が言っていた。
その瞳の揺れと少しだけ似ている。
祐希は瞳を細めて、そのままじっとした。
「……」
唇がまた触れられる。
触れるだけだった唇が少し開いて、ぬめりとした舌が自分の唇をなぞった。
背筋が震えあがり、鳥肌が密かの立つ。
それを消すかのように、祐希は兄を抱き寄せた。
「っ、」
貪るような口付けをされる。
自分の本能を刺激し、相手が見せだす。
昴治の本性。
「はぁ……オマエさ……」
少しだけ唇を離し、吐息をかけながら兄は聞いてきた。
祐希は兄を見上げる。
「何処まで、するつもりだ?」
質問の意味は解った。
だが、そのできる事を祐希は全て把握はしていない。
「……」
答えない祐希に兄は頬を赤くさせて、少しどもる。
「……どっちが、その……」
小さな声で問いかけてくる。
けれど兄の顔は、少しも弱さを見せ付けないものだった。
多分、自分の知らない事を知っていて、僅かな自信を持っているからだろう。
この俺が、そう、望みなんだろう?
押し殺す事はできる、その本当よりも
鏡に映る別の偽り。
「流れ、だろ……」
擦れた祐希の声に、昴治は瞬いて
ゆっくりと包み込むように腕を回してきた。
幼い頃、抱きしめた腕と同じ。
あまり接触を好まなかった自分も、安堵を覚えたあたたかさ。
それは同じで変わらないモノのハズだった。
兄を認められず、暴言を吐いたあの時でさえ、考えた事もあった。
だが、何故だろうか。
(痛ぇ……)
包まれているというのに。
あたたかさや、思考を止めようとする熱はあるというのに
一向に、安堵感は得られない。
切り刻まれ続けているようにさえ思えてきた。
けれど、祐希は相手を抱き寄せる。
細い。
力を入れれば、体が軋む。
こんな細くも弱い者を殴っていたと思うと、叫びたい衝動に駆られた。
決して、叫びはしないけれど。
「やっぱり、少しずつ…が、いいよな?」
何処か嬉しそうに微笑む。
兄は戻ったと思っているのだろうか。
兄の後ろを、従順に付いていく弟。
包み込む腕は、切り刻むだけだ。
此処に留まる義理もない。
けれど、これは 『 』 だから
昴治は少しずつと言った。
何気ない、口をついて出たモノなのだろうけれど。
細くも弱い、明日への約束となる。
アンタは、馬鹿だ
(続)
|