+++君からのプレゼント

―祐希クン編―





リフト艦は華やかに彩られて、中央には飾り付けられたVGのリアルモデル。
その飾りつけは、ツリーに見立てられて――クリスマス週間の特別な飾りつけだ。
その片隅に、休憩を称して講義をサボっている祐希は
ふと近づいてくる、人物に瞳をやる。

「お〜、祐希センセ、こんな所にいたんですかぁ?」

間の抜けた明るい声。
これでも、気落ちしていた時期もあったが
とりあえずは復活?したらしいイクミだ。

「何だ、それ」

瞳を顰めて、それを祐希は指差した。
片方の手に大きな紙袋が持たれている。
合間から見える、リボンや、色とりどりの包装紙に包まれた物。

「えへへ〜、誕生日プレゼントっすよ〜皆様からのv
いいでしょぉ〜〜」

ニコニコ笑って、嬉しそうに言うイクミに
祐希は溜息をついた。
その顔を殴りたい衝動に駆られるが、面倒なので内心でタコ殴りしておく。

「………あ?」

目の前に、差し出された手。
祐希よりも背が若干低いクセに、祐希よりも一回り大きな手だ。
不機嫌を隠さずに、睨む祐希にイクミは笑みを浮かべる。

「頂けませんか?」

「……」

鈍い兄とは違い、祐希は頭の回転は速い。

「何処に、プレゼントを本人が強請るヤツがいやがる」

「え? 此処に、います〜〜」

「……ねぇ、よ」

「あう〜〜、恋人の俺にくれないんですか〜〜?
悲しいですぅ〜〜〜」

バキッ

「テメェ、殴られてぇか!!」

「ぐお…もう、殴られてま〜す」

殴られた頬を押さえて、イクミは笑んだ。
鈍い音はしたものの、そんなに強くは殴っていない。
笑っている、イクミがそっと差し出した手を下ろす。
ふざけ半分、元より、相手はプレゼントを貰おうとしたワケではない。
性格からして、物を強請る者ではないのは知っていた。

「おめでとうってだけでも、言ってくださ〜い。
いたいけな恋人のお願いです〜」

「誰が、誰の恋人だ! あァ?」

怒鳴り、笑っているイクミを睨みつけた。
そう、相手は演じているのだ。
尾瀬イクミを。

「誰って、そりゃ……あ〜〜! な、殴らないでぇ!!」

上手に演じる。
そして演じられる相手に、苛立つ。

「……誕生日でもねぇ奴に、プレゼント渡す馬鹿じゃねぇからな」

祐希の言葉は皮肉気に響いた。
翡翠の瞳が瞬かれて、すっと少し澄んだように煌く。
微かな、彼の本心が見える。

「馬鹿ってヒドくないっすか? 気持ちっしょ? こういうのは」

相手は否定しない。
今日は、彼の本当の誕生日ではない、のだ。
肯定はしない。
だが、否定もしない。

尾瀬イクミとして、存在しようとしているワケではなく。
尾瀬イクミという、存在であるのを認めている。

ただ、それだけだ。
何処までも自ら自身に厳しい。
それが、『彼』であるのだろうけれど。

「……他、あたれ」

「えぇ? 恋人の頼みですよ?」

「……」

バキッ

無言で祐希はイクミを蹴った。
万能な方のイクミだが、それよりも万能である祐希の蹴りは避けられなかったようだ。

「マジ蹴りは止めて欲しいんですけど」

「知るか、」

立ち上がり、祐希は去ろうとした。
瞬間、彼の表情に何かが宿る。
澄んだ瞳、表情は何処までも透明だ。
視線を周りへと流す。
誰もいない。

「おい、」

「はい? 何でしょ〜……」

その透明な表情に。
頬に、そっと、唇を寄せた。

「……」

「…は……はう?」

碧の瞳が、丸く見開かれ、瞬かれる。
表情がおもむろに出て、驚いているイクミの横を祐希は平然と通り過ぎようとした。

「…ちょ、ちょっと祐希クン」

無視をして、行こうとした。
だが、瞬時に行動したイクミが祐希の前へ行く。
睨みつけるが、苛立たせるほど笑みを浮かべているイクミがいた。
笑みも、けれど何処か擬古地ないのは、イクミの本来の笑みだ。

「顔、真っ赤っすよ?」

「何言ってやがる。色盲じゃねぇか? テメェ」

「えへへ、嬉しいですv」

笑みが、緩んだモノへと変わっていく。

「でも〜、誕生日プレゼントって言ったら
やっぱ、ほっぺたじゃなくて、此処でしょ〜?」

唇を指差す。
そんなイクミに、祐希は笑みを浮かべた。
決して、それは穏やかな笑みではない。

「尾瀬、もう一つプレゼントあげてやる」

「え?」

ガコンッ

鈍い音だが、ある意味、良い音がリフト艦内に響いた。
盛大な拳のプレゼントに

「ぐあ……うぅ〜〜〜」

ダウンするイクミに、舌打をして背を向ける。

らしくない事は、するものじゃない。

祐希は自分の唇を撫で、振り切るように歩くスピードを上げた。
頬が熱いのは、きっと気の所為ではないだろう。
トコトコと、足音がすぐに近づいてくる。

「……馬鹿になってくれて、ありがとうございます」

誕生日でもない者に、誕生日だと認識してプレゼントを。
擬古地のない笑顔を見て、祐希はそっぽを向いた。

「テメェが馬鹿だろ」

「はい、そうで〜す」

即答する相手に、溜息をつく。
嫌味も皮肉も、きっと今は効き目はないだろう。

「祐希、大好きですよ」

さぁ、何て返そうか。
不機嫌な顔をして、祐希はイクミを見た。

「―――」

言葉は、イクミにだけ届く。
また、擬古地なく、けれど嬉しそうにイクミは笑った。









(終)
祐希受……好き、みたいです。自分(爆)
まぁ、昴治相手には攻めですが(精神的に受かもだけど)。
祐希はウェットなクールです。

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