+++君からのプレゼント
―ネーヤさん編―
不思議そうな瞳で見られる。
机の上に、置かれた、そのプレゼントの山。
それを見る、赤い瞳に笑みを浮かべた。
「ど〜しました? ネーヤさん。
昴治は此処にいませんよ?」
スフィクスのネーヤ。
リヴァイアスにとってのメインエンジンとなる彼女が
『相葉昴治』を特に気に入っているは皆に知られている。
様々な者に対し、彼女は興味を示しているが
一番、懐いたのは昴治だ。
あの、状況下で、バックヤードの影響を受けなかった――受けていたのかもしれないが
『意志』を保ち続けられたのは昴治だけだったからかもしれない。
「コレ…」
片言で云い、指を差したのはプレゼントの山。
「ああ、誕生日プレゼントです。皆さんに頂きました」
「……たんじょうび……ぷれぜんと?」
瞬く、幼い瞳。
それに笑みを浮かべた。
「誕生日って解ります?」
コクンと頷かれる。
理解しているようだ。
「生まれてきて、おめでとうって…渡す贈り物が
誕生日プレゼントですよ」
「………オメデトウ」
「何でもいいんですよ。要はキモチの問題」
赤い瞳が、プレゼントからイクミへと向けられた。
「おぜいくみ……たんじょうび、」
「そう、今日は尾瀬イクミの誕生日です」
微笑んで、イクミはネーヤを見た。
円らな瞳に、そっと翡翠が細まる。
「そうだよ。映さない方がいい……ね?」
「………悲シイ?」
「ん? 悲しくは、ないですよ」
眉が下げられる。
微かな表情の変化に、イクミは苦く笑う。
「申し訳ないな…とは、思ってますけど」
「……痛イ……少シ」
「そうっすね。でも、少し、痛みがあった方がいいっしょ?
と、言いますと変な趣味っぽいけど」
少しの痛み。
けれど、それは尾瀬イクミとして生きている証拠だ。
そして、それよりも大きな、優しい気持ちが注がれている。
無条件で、包み込むように。
彼らから。
「嬉しいってキモチ、伝わってますでしょ」
コクンと頷かれる。
「こうじ……」
「うん、」
「すき……」
「ええ、」
ふわりと、ネーヤが浮き上がる。
「たんじょうび、ぷれぜんと……ワタシ、渡して、ナイ」
「え? くれるんですか? ふふ、キモチだけでいいっすよ」
そっと、その小さな紅の唇にネーヤは自分の指先を当てた。
子供が、内緒だよと示すモノ。
その仕草は、記憶の『彼』を思い出させる。
「おめでとう、おぜいくみ」
唇が鼻先に触れた。
小鳥のキスだ。
「ありがとう」
ネーヤが唇に人差し指をあてる。
イクミも真似て、唇に人差し指をあてる。
痛みも
苦しみも
自らへの怒りも
生きている、証拠。
尾瀬イクミが、存在しているという証拠だ。
遠くから、声が聞こえる。
呼ぶ声だ。
「行きましょう、か?」
頷いたネーヤは、ふわふわと浮いて進む。
その後、ゆっくりとイクミは歩んだ。
泣いて、しまいそうな程
目の前には、優しいぬくもりが。
時に包み込み
時には手を差し伸べて。
生まれてきて、よかった
アナタに会えて、よかった
僕は、救われている
それは、何よりも代え難い
誕生日プレゼントなのだ。
だから、今日も、また
『尾瀬イクミ』は生きているのだとイクミは感じた。
(終) |