+++君からのプレゼント
―昴治クン編―
ああ、そうだったっけ?
それが、尾瀬イクミの一番に浮かんだモノであった。
12月22日。
クリスマスには、あとちょっと。
お正月には少し早すぎる。
そんな、曖昧な時期に、何故、こんな大きなケーキを用意したのか。
そもそも、何故、自分が真ん中の席へと連れてこられているのか。
大好きな昴治に、緩みきった顔で着いてきたら、これだった。
「お誕生日、おめでとう!! いっくみぃ〜〜v」
「おめでと〜、尾瀬」
「お誕生日、おめでとう!! 尾瀬」
と、一斉に掛かった声に、やっと状況を掴む。
(あ〜……そうだった、ですね……)
この尾瀬イクミの誕生日は今日だ。
誰の誕生日ですか?と聞かなかった事に安堵する。
今日は、尾瀬イクミの誕生日。
「ありがとうございます…いや〜……こんなに祝ってもらうとは」
頭を描いて、苦く笑う。
偽名をつけた時、誕生日の日にちも偽った。
実際は、既に誕生日は過ぎている。
祝ってもらうのは、過去、自分がした事を考えれば罪悪感が募るが
嬉しい事は隠しようもないモノだ。
しかしだ。
実際の誕生日ではない日に祝ってもらうのは、やはり申し訳なさが募る。
だからと言って、今、此処で云うのは無理な話だ。
自分を此処に連れてきた、昴治に瞳を向けて見る。
「おめでとう」
微笑んでいた。
イクミは、やはり苦く笑みを返した。
皆に祝ってもらい、割り当てられた自室に戻ったのは
いつもより少し遅い時刻だった。
「いや、ホント嬉しかったです……つ〜か、吃驚でした」
「サプライズって言ってたぞ」
あはは、と笑うイクミに、
同室の昴治はポンポンとイクミの肩を叩いた。
「しかもプレゼントまで、」
「たくさん、貰ったな」
申し訳なさが、やはり募る。
けれど、祝ってくれるのは嬉しいもので。
矛盾を感じながら、貰った物を自分の机の上に置いた。
それを、好奇心がそそられたのか
イクミの横に立ち、置かれたプレゼントを見る。
「あおいと和泉からは……ケーキ?」
「そうです〜。向こうで食べちゃいましたが、」
「…ん? 何だ、コレ」
何かロボットのような、見ようにはガラクタにも見える物。
「ニックスと明弘から〜…えっと、動くらしいっすよ?」
「ああ、なるほど……何だ、この参考書の山」
「ツヴァイの皆様からです」
苦学生というコトで、後、少々、授業中寝ているからかもしれないが。
「これは?」
黒と白の包装紙に包まれた物。
ああ、とイクミは頷く。
「カレンさんからっすよ。一押し、曲だそうです」
音楽が好きなカレンはセンスは良い。
まだ聞いてはいないが、良い曲だというのは折り紙つきだろう。
一つ、目を引くのはシルバーの包装紙に包まれた物だ。
シンプルながらも、センスの良さが際立つ。
「……これ、祐希からか?」
「はい、そうです…中身、まだ見てないんですけど」
開けようとしたら、殺ささんばかりに睨まれた所為だ。
丁寧にイクミは包みを開ける。
「「うわ……」」
驚きの声をイクミと昴治は同時に上げた。
「Iポッド……?」
「…しかも、今、人気で絶対手に入らないガンメタリックカラーの限定版……」
値段は、そこまで高価というワケではないが
音楽再生機器で、人気でプレミアがつき元値の数倍の金額を払っても尚
手に入らないという代物だった。
「…ど、どうしましょ〜……うわわ、」
「アイツ、結構、しっかりしてるから……原価か、それ以下で手に入れたと思うぞ」
「いや、そうだとしても…どうやって手に入れたんでしょう〜……」
この機器が欲しいという者はたくさんいる。
イクミも欲しいな、とボヤいた記憶があった。
だから、あの時、開けるなと睨んだのかもしれない。
嫌われていると思っていたが、意外に好かれているのが伝わった。
「来年、大変だぞ? イクミ」
「ぅえ?」
「三倍返し、だぞ……アイツの場合」
「はう〜〜、レベル高すぎっすよ!」
些かのプレッシャーを昴治にかけられ、イクミは眉を下げた。
絶えず、優しい笑みを浮かべている昴治にイクミは息をついて、見つめる。
「明日、もう一度、皆様にお礼を言いませんと」
「はは」
ベッドの上に、腰掛けた昴治が、横をポンポンと叩いた。
「えへへ〜〜、昴治ってば大胆v」
「……何が、だよ」
「へへ」
ふざけた言い方だが、昴治の隣りに腰掛ける時
気遣いを感じられるモノだった。
「誕生日、おめでとう」
そう改めて言い、ベッド脇から
ごそごそと何かを昴治が取り出した。
「あ……え?」
「プレゼント、大した物じゃないけどさ……祐希の後、だと、ちょっと……アレなんだけど」
薄い緑の包装紙に包まれた物だった。
差し出されたプレゼントと、昴治を交互に見て
ふと沸き起こる感覚にイクミは真剣な眼差しを向ける。
「あの……その、」
本当の事を、言おうと。
今日は、本当の誕生日ではないと。
昴治には、嘘を、つきたくはないと。
「昔さ」
「え?」
どう言えばいいのか、口篭っていたイクミに、昴治が話を切り出した。
優しい青い瞳の煌き。
「母さんが忙しくて……祐希の誕生日な、祝うの5日くらい遅れた事があったんだ」
急な話題に、イクミは瞳を瞬かせる。
「日にち、間違って覚えてて…あおいの誕生日、祝うの3日、遅れた事もあったな」
「……はぁ、そうなんですか?」
「…うん、でも……おめでとうって言ったら、笑ってくれた。
そういう、もんなんだろうな」
「……」
笑った。
他の言葉は、付け足されない。
それは、様々な意味合いを含んでいて。
言わずとも、昴治は解っているようだった。
「おめでとう」
ああ、困るほど、君が好き
ああ、目頭が熱いです
「……はい」
受け取って、そっと唇を寄せる。
微笑んでいた唇に触れれば、甘い感覚。
平然としいる風な昴治だったが、顔は真っ赤だ。
それに頬が緩む。
「俺、皆さんに会えて良かったです……色々あったけど……
昴治を……好きに、なって幸せです」
「…馬鹿、何、言ってんだよ」
ぎゅっと昴治を抱きしめる。
右肩に負担がかからないように、強く。
もぞもぞと動いて、昴治の手が背に添えられた。
優しく撫でられる。
「泣いてんのか?」
「えへへ……感動の涙です〜」
嬉しくて、涙が滲む。
胸の中は温かい。
そう、大事なのは――想いだ。
名や、誕生日が偽りでも。
この、想いと
この、自分を想ってくれる人と
この、抱きしめる人は――偽りではない。
「昴治、好き……」
「ああ、」
「大好き」
「はいはい、」
「愛して、ます」
「……ああ、俺も」
愛しい人を抱きしめる。
過去は捨てられないと、言った。
罪を抱えて、罰を受けても
この人は離さないと心の中で誓った。
ちなみに、昴治のプレゼントは
何とも言い難いデザインのアイマスク。
周りの皆様は、そのデザインの悪さに罵る者もいましたが
イクミは大喜び。
それ以外にも、貰ったのだけれども。
(終) |