+++青に染まる海

―雨―









ザアァァァァァァァ……

雨音が近い。

「まったく、あの子はっ」

母親の声が、叱りに強まる。
こんな雨の日に、
幼い弟がまだ帰ってきていない。
時計が差すのは、すでに5時近く。
小学校の下校時間は、もう過ぎており兄より一学級下の弟が
兄より遅く帰宅するのは本来ないハズで。
友人と遊んで、遅くなっているのでは。
そう考えられてもおかしくはないのだが

こんな雨の日

弟には
こんな雨の日でも、遅くまで遊ぶ友人を


持っていない


いや、持たないでいる
話しかける友となろうとする者たちを遠ざけて



「探してくる、」

「ありがとう、こうちゃん。
ホント、あの子も――」


兄のように
なってくれれば、いいのに








ザアァァァァァ


青の傘を差して、兄は弟を探した。
手がかりがあるワケではなく
何とはなしに、此方にいると。


ザアァァァァァ


公園の入り口から、その小さな影が見えた。
その背に、兄は溜息をついて駆け出す。

「おい、祐希! 何してんだよっ!! 母さんが…っ…」

青い瞳が見開く。
雨に濡れる弟の

「………」

片方の服袖は破れ
手足には傷を負っている。
ゆっくりと、振り返った弟は息を止めた兄を見上げた。

「っ、祐希、何があった!!!」

「………」

口端には血が滲み、
そのままで弟は瞳を伏せる。

「許せなかった、だけ……」

「喧嘩したのか、こんな……母さんに怒られぞっ」

兄の言葉に、弟は笑った。




「およげない、お魚さん…どうなっちゃうか…うん、解ったよ……」




虚ろな瞳で
冷たく微笑んで










ザアァァァァァァァ

雨音が耳障りだ。
ジクジクと痛む右肩を抑える。
散らばった、硝子に雨が叩きつけて煌いていた。

「―――っ!!!」

幼馴染の、彼女が昴治に駆け寄り
その体を支え起こす。
何かを、幼馴染は叫んでいた。

ザアァァァァァ

雨音が耳障りだ。
痛みに顔を顰めて、立ち尽くしている弟を見る。
だが、痛みと雨雫で視界が霞んでいた。



「………」



何が理由で、喧嘩しだしたのか
もう記憶は、朧となる。
向けられる青から、その同じ青を逸らして駆け離れて行った弟に
憎しみと別の感情が浮かんだ。


仕方が、ない
仕方が、ない


抑える手に、赤が滲む。
耳奥で鼓動が響いている。


ザアァァァァァァァァァァァ


雨が耳障りだ。

もう、いらない
もう、しらない
もう、いやだ



此処ではない、何処かに
行かなくては













サアァァァァァァァ……

薄暗い部屋に、雨音が響く。

「……」

青い瞳が憎悪に歪んでいる。
歪んでいるのに、酷く綺麗にも見えた。
振り上げられた拳を見つめていたが、一向に振り切られる様子がない。
口を開こうとした昴治は、次に痛みが広がった。

「っ、」

胸倉を掴み、そのままベッドへ体を叩きつける。
布団の上で、衝撃は弱まっているが
だが力任せの強い打ちつけに、痛みはあった。
抵抗の見せない昴治を何度かベッドに打ちつけ、そして馬乗りになる。



(なぁ、祐希……俺は、やっぱり……)



あんなに叫んでおきながら、と
昴治は自嘲気に唇を笑ませた。




その弟の指先が、首へと回って








サアァァァァァァァ……

雨音が遠い。






(続)
相葉兄弟が反応するモノの一つ、雨。
雨の日に、色々あったよねぇ……なんて?

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