+++青に染まる海
―雲のかたち―
「どうして、くもは、かたち…かわるの?」
自分より、一回り小さな弟が問いかけた。
霞がかる空にも、雲はあった。
兄は空を見て、自分の手を握り締める弟を見る。
「オマエの好きな変身ごっこでも、してるんだよ」
幼い兄は、その雲が何なのかは知りはしない。
弟と同じ、空へと飛んで雲に近づけば触れて、綿飴のように甘く食べられると思っている。
「そっか、かわっちゃうんだね」
煌く蒼を瞬かせて、そっと呟かれた。
「じゃあ、かわらないの、ないんだ」
弟は、何処か変わった感性を持っていた。
万物が変化する事に、何かとても恐怖でも持っているような
だが兄は、ニコリと笑う。
「どんなに変わっても、最後は祐希の好きなカタチになってる」
「……僕の?」
「そうだ、オマエの好きなカタチにだ」
子供の、何も知らないからこそ言える夢戯言。
弟は疑う事もなく、嬉しそうに微笑んで兄の腕にしがみついた。
「やったぁ! 仮面らいだーになる?」
「あれなんか、似てんじゃないか?」
兄は指差す。
「うわぁ! ホントだぁぁ〜〜、じゃあね、じゃあね……あっ、にいちゃん!」
少し丸い雲を弟は指差した。
「あれが、俺かぁ?」
「うん、でね、アレ、僕だよっ!」
隣の小さな雲を指差し、ニコニコと円らな瞳を光らせて微笑んだ。
仲良く寄り添って、空を泳いでいる。
兄の方の雲は少し早く、弟の方の雲は少し遅く。
けれど、不思議に二つの雲は離れはしない。
「確かに、オマエにそっくりだな」
「でしょ、でしょ」
二つの雲は、そのまま空へと溶ける。
二つ重なって。
「にいちゃん、待って!」
川原の土手を歩む、途中で弟は兄を止めた。
「どうした?」
「あのね、お空がキレイだから」
その青は、空よりも澄んで
「だからね、」
「海、行きてぇな……」
呟いたのは、どっちだっただろうか。
昴治と祐希は顔を見合わせた。
どちらが言ったのかは、もはや問題ではなかった。
その呟きが
昔と重なって
音となった事は
意味がある
霞の空に、雲。
重なり溶けて、また泳ぎだす。
どのように、泳ぐか
それは、まだ決まってはいない
(続) |