***寝霧の眠り
伍 「ただ一人の親友」
握る、この手
重く、何か引き摺り
君に伸ばそうとしても
届かないようで
だから
そのまま
僕に罰を与えるのは
君以外で
それが酷く胸を焼き
それが罰なのだと
思うのは
自分の自己満足
じゃれあうように、共にいるネーヤと昴治の光景は
瞬く間に艦内の噂になった。
スフィクスであるネーヤが、昴治にリンクしている
そう初めに言ったのは誰だろうか。
まるで定説かのように、憶測が飛び交う。
「……」
イクミはリフト艦に一番近い、自販機の横で小休憩をしていた。
通る生徒の呼びかけに、前と変わらず軽い調子で返し
笑みを宿す顔を向ける。
「……」
息をついて、砂糖を多く入れたカフェオレの湯面を見た。
揺れて、揺れて、揺れて
そして辿り着く
彼が死んだと知ったのは、ちょうど病院を退院する時だった。
刑務所に入れられると思っていたイクミに
何も咎めはなく、解放された。
知るのは
統治の補佐を務めた者と
エースパイロットの弟と
そして彼の恋人になり得た者だけで
その者たちも
自分を咎めはしない。
罰を
罰を
罰を
与えて欲しいというのに
降り注ぐのは
何故か、癒そうとする光ばかりで
絶縁同然の実家から、使者が来訪する。
迎えに来たと告げる心のない笑みを浮かべる者たちへ
「僕は帰るつもりは、ありません
もう、いらないんでしょう?そう言ったではありませんか」
久しぶりに使う実家にいた頃の口調と声色で
使者に告げる。
ニ、三、前の使者たちは言葉を交わす。
「……僕は帰りません……貴方達が実力行使をしたとしても」
イクミは飛びのいて、伸びる手たちを避ける。
確実に仕留めようとする拳や足を避けて払い、
少しずつ脱出口をである扉を見た。
バシンッ
寸前の所で、ソレを避ける。
手荒な真似をあまりしたくないらしい。
使者たちの持つスタンガンがチリチリと光る。
アナタは罰を
与えはしないでしょう?
全てを覆い隠すように
姉さんの時のように
何事もなかったかのように
イクミは後ろへ飛び、宙後転をし窓のサッシまで下がった。
窓を開き
「待てっ!!!」
「…さよなら、」
外へ飛び出した。
すぐに近くの木の枝に掴まり、下の茂みをクッションにして
地上に降りる。
そのまま、尾瀬イクミとして
イクミは駆け出した。
罪に罰を与えて欲しくて
姉さんの墓へ行き
月へ行って
好意を注いでくれた者たちは
自分に姿を見せてはくれなくて
これが
罰なのかと思う事はできなかった
それでは
許しに似た、癒し
「…尾瀬イクミ君ですね?」
「……」
点々と形跡を残さずに、移動していた自分を
待ち伏せしていたかのように引き止めた男。
国家という政府の力を
イクミは知る。
「もう一度、リヴァイアスに乗ってくださいませんか?」
こくりと、カフェオレを飲んで紙コップを手で潰す。
穏やかな声が艦内には響き充満していた。
平穏な時間が
降り注いで。
「……」
ちくり、ちくりと痛みが苛立たせる。
内部にある、自分の暗い闇が。
「……あ…イクミ君」
呼びかけの声に、伏せていた顔を上げた。
いつの間にか、そこに在る人物を見る。
「どうしたの?行かないの?えっと…リフト艦に」
昴治だった。
横にいるネーヤは悲しげに、眉を下げて
けれど小さく笑みを浮かべるという複雑な表情をしていた。
「昴治、こんにちわです」
「うん、こんにちわ」
ニッコリと微笑み、そして手を繋いでいるネーヤに
に昴治は何かを促す。
「…コンニチワ」
復唱するようにネーヤが挨拶をした。
「ところで、昴治…君づけは止めてくんない?
そんなに偉い人でもないしさ」
「……んー…いいの?」
「いいよ、君と俺はトモダチだから」
「トモダチ?」
首を傾げて、見上げる幼い仕草にイクミは静かに頷いた。
すると昴治は嬉しそうに微笑む。
「イクミ君と俺はトモダチ……ネーヤも?」
「俺で良ければ」
微笑めば、ネーヤの手を振り昴治は喜んだ。
「……」
持っているカラの紙コップをゴミ箱に投げ捨てる。
間を少し置いて、イクミは昴治に微笑みを見せた。
「さて、リフト艦に行きましょうか?昴治にネーヤ」
「うん、行こう!」
「……」
歩み出す昴治とネーヤの少し後ろをイクミは歩いた。
君の存在が
僕の罰
もっと……罰を与えて
僕が死んでしまうくらいに
君の微笑みは
すごく胸を痛めるから
もっと、もっと
遠くで
目覚めの声が鳴きはじめる
明けぬ夜を迎えるように
(続)
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