***寝霧の眠り


 「開かれる明日」











【合歓の木(ねむのき)】
朝、小葉を開き
夜、閉じる
夏の暮れ、薄紅色の長い雄しべの花が咲く












訪問者に昂治は首を傾げた。
部屋の入り口でのコトだ。

「俺に?」

「そう、いいかしら?」

ユイリィはそう云う。
話をしたいから、こっちに来て欲しい。
それが向こうが言った言葉だ。
先ほどの祐希やイクミの事もあって、
すぐに昂治は返事をしなかった。
警戒という言葉を初めて覚えた子のように
じぃっと昂治は見つめる。

「悪いようにしません。私とユイリィさんだけです。
それに、彼女も一緒に来ていいですよ。」

「ネーヤも?」

ヘイガーは頷くと、昂治はにっこりと笑った。

「ネーヤ、一緒に行っていいって!」

「……イイノ?」

すっと現れたネーヤは昂治の腕に触れる。
昂治は微笑み、ネーヤと手を繋いだ。





彼の印象

些か幼稚な雰囲気





つれてこられたのは、簡易的な会議室だった。
用意されているソファーに昂治とネーヤは座り、
その前にユイリィとヘイガーが座った。

「自己紹介が遅れましたね、
私はシュタイン・ヘイガー。こちらは――」

「ユイリィ…バハナ。よろしくね、相葉君。」

「アイバ?」

はっとしたようなユイリィの顔を横目に
ヘイガーは言葉を続ける。

「先ほどはご無礼をすみません。
私たちが知る人に大変、アナタが似ていまして
取り乱してしまったんです。」

「へぇ…そうなんだ…その人はどうしたんだ?」

「亡くなられました。」

その言葉に昂治はふと俯いた。
聞いてはいけない事を聞いてしまった。
そんな後悔を感じているのだろうか。

「話がそれましたね。すみませんがアナタの事を
教えてくれませんか?強制ではないので
言いたくない事は言わなくて結構です。
やはり気になった事は聞いた方がいいでしょう?
私たちにも質問して構いません。どうでしょうか?」

「…そうだよね、知らないと気になるよね。」

微笑み、質問を待つ様は楽しんでいるようだ。
一息つきヘイガーは聞きはじめた。

「アナタの名前は…昂治だけですか?」

「うん。あのさ…さっきのアイバって?」

ユイリィは苦笑いをしながら

「相葉君って呼んでいたの…そのアナタに似てる人に。」

「そうなんですか。」

「出身地は何処ですか?
身元不明だと、政府の方々がうるさいんです。」

「出身地?ココだよ。」

「ここって?」

ユイリィが目を顰める。
微笑む昂治はネーヤを見た。

「このリヴァイアスだよ。
ずっと一人だった。
でもネーヤが傍にいてくれたんだ。
そう言えば、俺は眠っている間に
大変な事があったんだよね?」

「ええ、」

「ホントびっくりした。
このリヴァイアス艦が漂流していたなんて。
あの…みんな無事だったの?」

「……犠牲者がいるわ。」

哀しげな顔をして、昂治は二人を見た。

「傷つけあって…でも一緒にいたかった…」

昂治は呟き、俯いた。
横にいるネーヤがヘイガーを見る。
あどけない顔が不思議そうに見つめる様は
何故、真実を云わないのかと問うているようだった。

「その言葉は?」

「え?ああ、何となく思っただけだよ。」

「そうですか…ありがとうございます。
ここからが本題なのですが、
ココで生活していくに当たって配置が決められてるんです。
アナタの配置はリフト艦でいいですか?」

昂治は目を瞬かせ、ヘイガーをじっと見た。

「もちろんネーヤさんと一緒です。
宜しいですか?」

「いいの?やったぁ!」

喜び、隣りのネーヤと微笑み合う。
子供のような仕草にヘイガーは唇を擦った。

「では…申し訳ございませんでした。
明日から配置場所についてくださいね。」

「もういいの?」

「はい。」

その返しに昂治は立ち上がり、立とうとした
ネーヤに手を差し伸べた。

「じゃあ。」

去ろうとした昂治に

「あの!」

ユイリィは引き止めた。
ドアの前で昂治は振り返る。

「…相葉昂治君…知ってるかしら?」

「…あいば…こうじ?」

首を傾げ、そして昂治は答えた。

「ごめん、知らない。」

簡単な返しにユイリィは息をつき、軽く微笑む。

「ありがとう、ごめんなさい…引き止めて。」

「ううん、平気だよ。」

ネーヤと手を繋ぎながら昂治は部屋を出ていった。
しんっと部屋が静かになった。

「…今の所、相葉昂治君という可能性は
五分五分ですね。」

「相葉君よ、そうだと信じたい。」

「そうですね、記憶喪失でああなったと
考えられないワケではありません。」

ヘイガーは胸元に手をやった。

「ですが、今の科学技術では
遺伝子操作でクローンも作れますし、
同じ容姿の者がいても可笑しくありません。」

瞳を伏せ、ユイリィが寂しげに笑う。

「彼を相葉君だと思うのは
私たちの勝手なのでしょうね……」

「そうですね。」

静かになる。
少しの間、ヘイガーが立ち上がった。

「帰りましょう。
この映像を見ていた人たちが待ってます。」

すぐにユイリィも立ち上がった。
















「リフト艦かぁ…どんな所なんだ?」

「……機械いっぱい…ワタシの分身
動カス…人、いるの。」

ふーんと頷き、昂治は上を見上げた。

「明日が楽しみだな、」

「……」

ネーヤは昂治と握る手を見つめる。

哀しげにそして、辛そうに










あした


あしたからはじまる


すべて







聞こえるのは

起こす声か

子守唄か








(続)
夜霧と書いて「ねむ」と読みます…はい。

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