***寝霧の眠り


 「小さな世界の扉」










ネーヤの膝上に寄り添うように眠る少年。

「来る、」

少年は瞳を、うっすらと開く。

「だれが…?」

「大切なヒト……たち。」

ネーヤの言葉に、少年が微笑む。

「よかったな。」

その言葉に、ネーヤは目を瞑った。


























相葉昂治が死んだ。


その事実を知るのは、ごく少数の人たちだけだった。
理由は、一つに死ぬ間際の意志。
次に、状況の所為で罪に問われない事。
そして、政府が直に伏せたのだ。
知らない人は、知らないまま。
昂治が死んだと知らないまま生きていく。


現実はそういうもの。


苦しさに生きていくよりはいいかもしれない。
けれど、
後悔の念に苛まれ続ける人もいる。

「……、」

祐希とあおいの前に、イクミが倒れそうに立つ。
瞳の光は弱く、二人を辛そうに見た。

「…何か用かよ、」

長い沈黙の中、祐希は言った。
イクミは首を項垂れ、唇を少し動かす。
そんなイクミの前にあおいが寄った。

「謝りに来たのね、」

「…ああ、」

「安心して、私は尾瀬を恨んだりしないわ。」

あおいの瞳には、微かに怒りが灯っている。
だが、蔑ずむ事をしなかった。
怒りをぶつけ、断罪しても彼は帰ってこない。


罪に罰を


与える事は、イクミを救う事になる。
イクミに望みを与えているのだ。
あおいは、ソレをする気はない。


ささやかな復讐


あおいは目を伏せた。

「…俺は……、」

震える声とあおいが後ろへ引かれるのは同時だった。
怒りに染まる、青い瞳。

「っざけんなーーーーーーっっ!!」

祐希は拳を振り上げた。

























少年が足をぶらぶらさせ、背の高めのイスに座っている。
隣にはネーヤがいる。

「大切な人たちに会えたか?」

「まだ、全員ジャナイヨ。」

そう…と相槌をして少年は瞳を緩める。

「嬉シイ……ドウシテ?」

「え、俺が?」

コクンと頷く。

「だって、ネーヤが嬉しそうだからさ、」

「ネーヤが?」

そう聞くと、少年はにっこりと微笑む。
ネーヤもやわらかく微笑んだ。

「それでいい、なら…ソレデイイ。」

「…?」

「なんでも、ナイよ。」

「時間あるし、残りの会ってない人に顔見せてくれば?」

「……ネーヤ、行く。」

トンッと跳ねて、ネーヤは壁に溶け込むように消えた。
少年はソレを平然と見て、手を振った。

「いってらっしゃい――、」



























「てめぇばかり、
罪人の顔しやがって!ムカツクんだよ!!」

「……、」

祐希が無言のイクミの襟首を掴む。

「祐希、やめてっ!!」

あおいが制止に入るが、てんで無視である。

「なんか意味でもあんのか!!
何もねぇのに、謝罪すんのかよっ!」

「……、」

「脳みそ腐ってんじゃねぇの、てめぇが悪いんだって
言えば気が済むのかよっ!!それとも、いなくなって
せいせいしてるって言うか?」

微かにイクミの瞳に狂気の光が宿る。

「兄貴を殺したのはオマエだって言うか?」

「うるさい…うるさい、うるさーーーーーーいっ!!!」

イクミが怒鳴り、二人で取っ組み合いが始まった。

「やめて…やめてってばっ!!」

あおいは叫ぶが、二人の耳には入らない。
その叫びが聞こえたのだろう。
奥の方からカレンが駆けてきた。

「カ、カレンさん!!」

「あおいさん、」

あおいはカレンの手を取る。

「止めるの手伝って、」

そう言って、止めに入ろうとした時だ。
祐希とイクミの間に少女が割り入った。
少女はネーヤで、二人の手首を握っている。

「な…なんだ、てめぇ!!」

「…痛イ、痛イ、痛イ…痛イノ嫌、」

「リヴァイアス艦のスフィクス……。」

カレンが言った。
それを聞いて、祐希は訝しげに見る。
イクミは戸惑うように見ていた。

「イヤダ…こんなの、イヤダヨ。
ネーヤ、告げナイ。でも偽らナイ。それはダメだって、
嫌だって、たくさん…たくさん、伝わるカラ……。」

そのままネーヤは二人の手を引っ張る。
転びそうな足つきで、二人は歩かせられる形となった。

「来テ、こっちに…、」

「なんだってんだっ!!離せよっっ!!!」

逆方向へ祐希は引くが、全くビクともしない。
イクミは従うように歩く。

「あおいさん、私たちも行きましょう。」

「うん、」

あおいとカレンはその後をついていった。

























着いたのはリフト艦近くの部屋だった。
そこで、ネーヤはぱっと手を離す。
祐希はネーヤを睨み、イクミは俯いて手を眺めていた。
遅れて、あおいとカレンが着き歩み寄ってくる。

「こっち…ダヨ、」

シュンと音をたて、扉が開く。
ネーヤは確かめるように、四人を見た。
そして、中に入っていく。
つられるように四人とも、その部屋の中へ入っていった。

「早かったな、大切な人たち全員に会えた?」

声が掛けられる。
その声にソコに来た者の思考が止まる。

「あれ…連れてきたの?」

ネーヤは少し哀しげに笑った。







「うん、連れて来タヨ…こうじ、」












そこには、



あいば こうじが立っていた。










やわらかく微笑んで。







(続)
死にネタは基本的には読むのは
涙腺ゆるいから苦しいんですが
書く側となると変わってくる(爆)

>>back