+++満月の心得+++

―夜の詩―







誰かが呼んでいる


ワタシには一回だけ聞こえたハズの声

彼の人は言った

「あの月か?」










ゆっくりと体を離したのは、数十分あとだった。
震えは収まり、俯く顔は怒っているような表情だった。
泣いていたのか、と思わせない表情だ。
だが、真っ赤な目は泣いていた証拠である。
昂治の視線に気づいたのか、祐希は目を袖で擦りはじめる。
「バカ、目が腫れるだろ…。」
「……、」
ふいっと横を向くのが可笑しくて、昂治はクスクス笑った。
そのまま近くのベットに腰掛けると、
祐希もついてくるように昂治を押し倒した。
胸に不貞腐れるように頭を乗せる。
そんな祐希に目元を緩める。
「地球にいた時、なかった……。」
昂治に頭を撫でられながら、服越しに手を胸に添える。
「あの時は、ね…リヴァイアスに乗るって決めた時には、こうなった。」
静かな声に祐希は目を細めた。
「ヴァイアだって…ネーヤが云ってた。
一瞬だけ死んだから、入り込んだって。」
「…他の…、」
「他の人は知らない、ネーヤに隠してもらってた。
開発者も知らないよ。」
「………、」
「中途半端なんだ。死んでたら、
スフィクスになるのを俺は死ななかった。
だからヴァイアとか云うものがココに留まったまま…」
髪を剥くように昂治が胸上の祐希を撫でた。
重いはずの体は、当然のように自分の上に乗っていた。
「ネーヤも見えない所はこうなんだって、あんなにキレイなのさ……。」
笑い声をたてる。
祐希は揺れる胸を辿って、右肩に手を置く。
「どうして俺はこんなに汚いだろ…祐希、俺は。」
鼓動が耳に響く。
「堕ちたんだ……、」
右肩を指で辿り、祐希は息を吐いた。
「男だからとか、弟だからとか…
抵抗はあるけどさ、そんなのどうでも良かった。」
「なら……、」
「オマエはさ、もっと高いトコ行ける。
俺は堕ちてるのにオマエの腕を掴む…それが嫌だった。」
今も、と昂治は言葉を付け足す。
「嫌がらせで、あんな事してるって思ってたんだ。
でも、それでも触れられるのが嬉しくて……
そんな自分が醜くなってさ。だから、ああ云ったんだ…愛すことはないって。」
「…アンタは堕ちてない。」
昂治の顔の横に肘をついて、目線を合わす。
右肩を触れている手で、過去の傷痕を辿わせた。
「もし堕ちてるって言うなら、堕とされたんだよ、俺に。」
なんで、と昂治の瞳が問う。
祐希は少し瞳を伏せた。
「そうだろ?俺が、アンタを抱かなければ。
アンタを追いかけなければ、アンタをあの時、
その場に放っておかなければ…なにより、」
「祐希、それは…!」
「4年前、兄貴を突き飛ばさなければ、こうならなかっただろ?」
言いたげな唇を、右肩を触れていた指で押さえる。
「俺は高い所へ行けない。行けねぇんだ。
もう俺は堕ちたから。アンタより…深く暗いトコに。」
祐希の唇が笑みを形どる。
「俺のトコに堕ちてこい、堕ちてまだ堕ちるなら…一緒に行ってやるから。」
指が離れ、昂治の唇が動く。
哀しげな表情に胸が締め付けられるのに、祐希は気づいた。
「そんな事言ったら、俺、本気にするよ。」
「すればいいだろ。だって、あんたは俺が好きなんだろ。」
「好きじゃない、」
祐希の表情が歪む、それを掠め見て昂治は相手の首に手を回した。
「愛して…るんだ……、」
双眸を緩やかに弛め、頬を紅く染める。
そんな昂治に祐希も珍しく真っ赤になった。
「俺も…愛してる…、」
どちらともなく、二人は唇を合わした。


溶けてしまいそうだ



「んっ…やっ!」
着ていた服を脱がして、首筋に祐希は舌を這わした。
黒く変色した右肩を丹念に舐める。
「き、汚いっよ、」
「別に、」
「キモチ悪…っいだろ…。」
「柔らかいんだな、案外。キラキラしてるし。」
変色した部分に触れると、光る粉のような物が微かに纏まる。
これが昂治の云うヴァイアなのだろうか。
「んん…う、はぁっ」
そのまま鎖骨を辿り、胸の突起を口に含む。舌先でそれをコリコリと嬲りながら、
まだ柔らかいままの陰部を擦った。
「ん!?あ…あっ…、」
刺激に怯えるような声を上げ、肩をしならせる。
「な…なんかっ…こんなっ…やぁ!」
爪の先で何度も先端をくすぐられ、先走りがモノを濡らしていく。
祐希はそれを指先に掻き集め、陰茎全体に塗り込めた。
「兄貴…もう、こんなにさせてる、」
「ひ…ぁっ…や…だ!」
手で握りこんだ時には、昂治のモノは立ち上がっていた。
乱れる息を吐き、左腕で自分の顔を隠そうとする。
「ダメだ。」
「…っ…ああ、ふぁ…!?」
左手を昂治自身のモノに押し付けた。
瞳が滲み、困ったような感じている顔に赤味がさす。
「…凄くなってる。」
「いや…い、あぁぁ、」
押し付けた手を自分の唇に持っていき、ペロリと舐めた。
ビクっと昂治が震える。
「はぁ、な…んか、俺、オレ…あっあう。」
「俺が…なんだ?」
体を下に移動させ、祐希が昂治のモノを口に含む。
飛び上がるように起き、離そうと相手の頭を掴むが、
髪を握る程度で力が入らなかった。
「ああ、やだ、汚…いだろ、」
「こう、やってただろ…ずっと。」
「い、や…うはぁ!」
立ったモノを掴み、横から咥え込んだ。
昂治の顔を見ながら、先端を舌で突く。
「う、うあ…っ!だ、ダメ…はぁ!」
髪がぎゅっと握られる、吐き出された液を祐希はキレイに飲み干した。
昂治は力が抜けるように、後ろへ倒れる。
着いていくように、上に覆い被さり、唇を寄せた。
「ん…っ!?…」
熱い舌とともに、昂治の口内に温かい液体が注がれる。
それは自分の精液で、
「…おいしいだろ…兄貴、」
口が離れると、トロンと唇に残りの液が零れる。
それを祐希は本当に美味しそうに舐めた。
瞳が合い、祐希が微笑んだように見えたので、驚きに体を震わす。
祐希の体がまた下へ移動し、昂治のだれた足を立たせる。
両足の膝裏を片手で押さえ、そのまま昂治の体を折るように膝を頭の方へ押した。
何をするのか、解かっていなかった昂治は反応が遅れた。
今、完全に昂治の秘部は晒されている。
「もっと、恥かしいコトしてただろ?それに痛いの…ヤダだろ?」
真っ赤になりながら、昂治はコクリと頷く。
「…で、でも俺…、」
「いつもと違う気がするんだろ?俺もそうだぜ。」
互いにココロを告げなかった時の情事とは、比べ物にならない程の興奮。
ギラギラと鋭利な刃物のような祐希の瞳に、昂治は眉を寄せる。
それを見て、祐希は穴を舐めた。
祐希の体が昂治の背中を押さえているので、頭に膝がつくくらいに折られた体は
元に戻せなかった。
「ひゃ、や、やだ!うう、あ!?」
綻ぶ穴に、祐希がふっと息をかける。
足がバタバタと動くが、構わず舌をすぼめて穴に突き入れた。
「あ、はぁ!ぃあ、ああ!!」
今度は舌と一緒に指も突き入れた。
昂治はシーツを掴み、瞳には涙が零れていた。
「あ、あぁ…ふぁ!」
「ここ、兄貴好きだよな。」
「あっあああ!!」
舌を引き抜き、指で中をカリっと掻いた。
「そこ…ダメ…やうっ!」」
すでに指は三本入っていて、指はそれぞれ別の動きをする。
昂治の腰が揺り震え、限界を知らせた。
「もう少し、我慢しろよ。」
「だ、だ…って…あうう!」
指を引き抜き、祐希はその体制のまま自分の髪を解く。
長い髪がさらっと音をたてて下りる。
「ゆ…祐希…、」
その縛っていたゴムを、昂治の先走りをしているモノの根元に縛り付けた。
「これで安心だな、兄貴。」
「んん、いや…やぁ!」
「見たかったんだよ、いつも…ココをさ、」
穴の入り口を指で無理矢理に開く。
「っあ…?」
ヒダを舌でなぞる。
「赤い…中、キレイな色してるぜ。」
「や!?み、見る…な!!ああっはぁ、んあ!?」
「あの月より…キレイ…中動いてるぜ…誘ってるのか?」
「ひぁ、ああ!やぁ、やっぁぁ、もう、ゆう…祐希!」
羞恥で真っ赤の顔が、涙でボロボロである。
「ゆうきぃ、ああ、やぁ、はぅあ!」
「キレイ、キレイだぜ。兄貴……、」
昂治の体は仄かに色づき、腰が誘うようにうねる。
「兄貴、やらしいな、」
「だ、って…あ、やだ、やだよぉ!!」
口も上手くまわらないようだ。
快楽に委ねている体は、少し怯えるように震えている。
ずっと壊すくらい抱いていたものなのに、まるで初めてのような錯覚を感じた。
――好きだって、言ったからか?
なら、もっと早く言えば良かった。そうしたら、苦しまなくてすんだ。

アノ紅イ月

小さな宇宙。
昂治の瞳が欲に染まっていく。
自分を満たしていく。相手を堕としていると実感する。
「いぁ、ぁぁぁう!!ゆ、ゆう…ゆうっ…あう!!」
指をソコから離し、足をそのままで昂治の腰を限界まで上げる。
自分はもう立っているモノを、手で穴に沿えるように合わした。
「…ふ…あ、」
昂治はその当てられているモノに身震いした。
初めてではない。
だが、初めてだと錯覚するような羞恥と不安があった。
そんな震えている昂治に祐希は、また笑みを向ける。
昂治はぎゅっと目を瞑った。
「目、開けてろよ。」
「…な、んで?」
「見てろよ、一つになるトコ。」
かわいそうなくらい、昂治は真っ赤になった。
そのままゆっくり、祐希は自分の猛ったモノを押し入れた。
「ん…う、んん、」
「……、」
顔を苦痛に歪ませながらも、昂治は入れられている所を見ていた。
――祐希と…一つに。
頭の中を反芻する事実に痺れに似た快感が襲う。
「ん、はぁ!?」
奥まで強引に祐希が突き入れた。
体勢が体勢なだけに、奥まで祐希のモノが当たる。
「ああ、あっああ、や!」
そろそろと虫が這うように引き抜かれ、突かれる。
ちょうど前立腺に当たるような動きだ。
「やぁ!ゆ、祐希!ああ、い、はぁ!?」
ぐちゅ、ちゃ、
卑猥な音が耳に入る。
わざと祐希は音を立てた。
腰の動きを早め、激しいものにする。
「い、ああ、はぐぅ、ひぁ、あああ!?」
昂治の腰が沿うように蠢く。
「や、はや…い!?あぐっ!ああ、やぁあ!やぁ!!」
淫らな体。
「も…もっと、もっと…ああ、はぁっぁぁ!?」
でも、キレイな躯。
「ゆ、祐希、祐希、祐希、」
自分を呼ぶ。
瞳が向けられる。
「はず、はずして!!…くる、しいっ…ああぅ!!」
「好きだぜ…兄貴、」
昂治の表情に微笑みが混ざったようだった。
壊したい
もっと、壊して、
壊して、優しく、抱いて、鳴かして、自分の所へ
堕ちてきて
「いぁ!はぁ、はぁああ!ふぅあ!?」
昂治のモノを縛っているゴムを外し、祐希は思いっきり突き入れた。
「っあああああ!?」
「…っく!」
穴がきゅっと締まり、祐希は欲望を吐き出した。
熱く激しい刺激に、昂治の体が痙攣を起こす。
ぴちゃーー、
自分の白濁の液が、昂治の顔にかかった。
目が虚ろで、体の痙攣は今だ残る。
祐希は自分のモノを引き抜く。
そのままゆっくりと昂治を元通りの体勢にしてやる。
お尻がベットにつくと、どろっと祐希が吐き出した液が出てきた。
「……兄貴?」
虚ろな瞳がしっかりと祐希を見た。
祐希は昂治に覆い被さる。
抱きしめると、低い体温が伝わる。
腕が回され、昂治も祐希を抱きしめた。
温かい
とてもあったかい
祐希は顔にかかった液をペロペロと舐める。
「や、やめろ…って、」
掠れた声は効き目がなく、キレイに祐希は舐めとった。
「…ゆ、祐希?」
昂治の足を、祐希が自分の肩に乗せた。
視線を下にやれば、祐希はまた入れようとしている。
「四か月分、やるぜ、」
「…っ……、」
身を震わす。
体は浮かぶ快楽に熱が上がる。
困惑した表情を見せながらも、昂治はそっと瞳を閉じた。
「……がんばる…俺…」
情欲に濡れた瞳が揺らぐ。
昂治は手を伸ばし、固い祐希のモノを掴んだ。
そのまま自分の穴にあて、自ら内部へいれていく。
「んぅ…ん!あ…ぅ…!!」
押し広げられていく感覚に呻きながら昂治は腰を動かして入れる。
「…はぁ…ぁ…ゆう…き、ごめん…これ以上…」
「解ってる…アンタ、ココが弱いんだよな。」
昂治の手はパタリと落ち、シーツを掴んだ。
肩に乗せていた足を掴み下ろして、一気に祐希は突く。
ビクッと昂治の体は震え、
「ぁああ!!」
嬌声を上げた。
息が整うのを見て、祐希は掴んだままの足を横に回すように倒す。
ちょうど中が祐希のモノでかき回された。
「ふああ!!あ!」
正常位とも背後位とも云えない状態は内部を変に擦った。
ぐしゅぐしゅという音と共に祐希は動き出す。
「あっ!あ…はぁ…あん!もっと、もっと…!!」
タガが外れた。
そう云うべきだろう。
顔は幼さを残す。
感じている時の顔はそれに拍車がかかっているようで、
けれど艶の混じった表情は視覚的に祐希を刺激した。
痛そうなけれど快楽を貪っている顔は誰も知らないだろう。
こんなに昂治が淫らな体になってしまったと言う事は。
「んあ!あ、もっと、おく、奥ぅぅ…ん、ん!!」
快楽は身体に留めたままには出来ない。
声を出す昂治は、もう正常な理性はほとんどないだろう。
出し入れする音はやがて肌がぶつかる乾いた音となる。
「はぁ…っ…」
「ああ!ああ、すご…すごいっ…いっぱい、いっぱ…いっ!!」
腰を掴んで昂治を回転させる。
「んああ!!あうぅ!」
シーツにシワを作りながら、昂治を正面から抱きしめた。
下腹部あたりがべとべとと濡れている。
「もう出しちまったのか?」
「あ…ぁあ、あ…!」
白濁の液で濡れている。
内部からの刺激の所為もあり、まだ昂治のモノは立ったままだ。
「あ、ゆうき…ゆうき、ゆうっ…あうっ!!」
シーツを掴んでいた手が祐希の髪を引く。
そしてゆっくりと腕が回された。

ココにアナタはいる

「兄貴…まだまだだぜ?」
「ん、んぁあ…あ、ああ!!」
縋るように抱きつく昂治の体は熱かった。
祐希の体も熱い。

アナタはココにいてくれるんだよね?















瞳を開くと、隣りに昂治がいた。
静かな息が自分の胸に当たる。
抱きしめてやる、身じろぎをするがすぐに頬が寄せられた。
ぬくもりが伝わる。
一度、離れたものが、ここにある。

誰かに呼ばれてる…

なら、そこに行けばいい。
自分も着いていくから。
だから、
ここに堕ちてきて。
抱きとめる自信があるから。
そして、
堕ちていこう。
何処までも、たとえ堕ちた先が闇でも。
罰を受けてもいいんだ。
「兄貴……、」
あなたがいる。
あなたを呼べる。

それだけでいい。



千切れては満ち、乾涸びては潤う。
「コウジ…コウジ…、」
ネーヤは呼ぶ。
呼びかけられずにはいられなかった。
静かな空の音。
赫く色づく月。
なのに、青白い光。
「こうじ…こうじ…、」
耳を傾けないで欲しい。
アナタは優しいから、聞こうとしてしまう。
自分でも彼でもない他の誰かでもない声。
耳を傾けないで。












それが意味するのは…ワタシの知らない、トコロへの誘い――




満ち方を心得て

は蘇る

その小さな躯に蝕む混沌

「死ナナイデ。」








ああ、アナタは欠けていく










(続)
にょろにょろ〜〜。
少し、穴に埋まりたいです。


>>back