+++満月の心得+++

―月の詩―






腕を広げて

その瞳を閉じて

風が頬にあたる



そこでボクは耳にする…

ボクを呼ぶ声






――肌寒い

祐希はふと目を覚ました。
いや、寝ていなかったのかもしれない。
宙を浮いているような、そんな感じさえする。らしくない。
それにしても、何故こんなに肌寒いのか。
晩夏である。
涼しいことはあれど、肌寒いと云うのは、まだ些か早い気がする。
何はともあれ、祐希は体を起こした。
散らかった床に足を置くと、すーっと冷たい空気が通る。

――何だ……?

横を見ると、アコーディオンカーテンに隙間がある。
立ち上がって、そこへ行く。
カーテンを少し開けて、中を覗いた。
肌寒い
部屋を見渡すと、窓の所に昂治が立っていた。
茶の髪が揺れている。窓を開けているのだ。

「…あ、なに?」

ほんの小さな物音でも気にする兄。
振り返って、祐希を見た。

「寒いんだよ、」

カラカラと昂治は窓を閉めた。
そう言えば、電気をつけていない。
なのに、どうして、こんなに明確に相手が見えるのだろう。
明確ではない。
ぼんやりと光っているように見える、昂治の姿。

「閉めただろ、他に何かあるかよ。」

走りよった。
抱きしめて、
兄である、この男をベッドに押し倒した。
骨がぶつかる音。
目を顰めて、昂治は押し倒した本人を見た。
静寂。
咎めるのではなく、
制するのではなく、
怒りではなく、
悲しみではなく、
哀れみではなく、
ただソコに深い色の瞳はあった。
祐希は身震いを覚える。

「……兄貴、俺は、」

この潰されそうな圧迫から逃れる方法を知っている。
だが、自分の腕の中の兄はソレを許さなかった。
言葉を呑み込むような、けれど軽い小さなキス。
自分が教えてはいない、兄からのだ。

「…ん…うぁ……。」

息を吹きかける。
小さな痙攣。
すぐに激しくなる、貪欲な躯。
祐希が染み込ませた快楽を求めて、昂治の体は開いていく。

「この淫乱、」

「……淫乱じゃな…っあうっ!」

昂治の体を抱き上げ、自分の上に乗らす。

「自分で入れろよ、欲しいんだろ?」

揶揄うような、見下すような物言い。
昂治は目を伏せ、そして祐希を見た。
何も映してはいないような瞳だった。

「……入らない…だろ…、」

掠れた声は情欲に濡れている。
昂治の言う通り、祐希のモノは差ほど硬度を増していない。
冷ややかな瞳で昂治を見て、そして手をとり、自分のモノを
押し付けるように触らせた。

「アンタが固くすればいい、」

「…っ……ぅあ!」

右肩を舐め、そして昂治のモノを掴む。
それで跳ね上がり、ビクビクと体を震わした。
いつからこんな体になったのだろう。

ねぇ…見テル?

「…ん…、」

乱れていく。
汚れたかのようにみせかけながら。

ちゅぷっ

昂治は自分の指を唾液で濡らす。
唾液がしたたる指を昂治は祐希のモノに絡めた。
扱くように、擦るように。
妖しげに蠢く様をやはり冷たい眼差しで祐希は見ていた。
その冷たさは、

あの月のようだね…

どちらが思った言葉かは知らない。

「…んぅ…ん、ひっあ…う、ぅ…」

硬度の増したソレを今度は昂治が自分から内部へ
入れ始めた。
ずぶずぶと嘘のように埋没していく。
彼はもう初めての躯ではないのだ。
淫欲に忠実な体はけれど、その月明かりに照らし出される躯
とは別物のように思えさせる。

汚れはしない
穢れはしない

「あぁ…う…ぅ…深ぁ…い、っ!」

足に力を入れ、深く突き刺すモノから逃れようと昂治がする。
けれど祐希はそれを許さないように、
太股あたりを強く下へと押した。

「ひぎゃあぁぁあ!!!」

ギチギチと乾いた音がする。
それでも昂治のモノは反応を示していた。

「……やぁ…ああ!!」

モノを掴み、解放を許さない。

「自分で動けよ、出来んだろ?」

「…はぁ…あ、あ…ぅ…っああ、」

ゆっくりだが昂治は動き出した。
壊れそうな体は行き過ぎた快楽に打ち震える。
それは悦びを混じらせた震え。

「んあ!あ、ああ!!」

「…はぁ……」

昂治の手が祐希の首に回る。
しがみつきながら、音を立て動いていく。

「あんっ!ん!ああ!!あ!!」

涙で滲む視界にはやはり同じものが映る。

誰カニ呼バレテル…

「……」

快楽で霞む視界にはやはり同じものが映る。

何ヲ見テイルノ?

「んぅ、あ!あ、やぁああ!!」

涙がぽつりと落ちた。
照らすはあの月。





言わせて
言わせて
言わせてよ
その綺麗な躯に
その綺麗な瞳に
そのキレイなココロに
告げさせて

云わないで

一言で簡単に止められてしまうのだ。










「……」

祐希は目を覚ます。
いや、寝ていなかったのかもしれない。
自分には布団が掛けられている。
体を起こす。
昂治は窓を開けて立っていた。
祐希の服を羽織って、兄は立っていた。
体を揺るぐ。
祐希は慌てて立ち上がって、昂治の手首を掴んだ。

「なんだ?」

落ちるのかと思った。

「寒い、なに見てんだよ。」

「月だよ、今日は少し紅いぞ。こういう月ってホントの満月なんだよな。」

振り返らず、昂治は言った。
掴んでいる手に少し力を入れる。

「……誰かに呼ばれてる。」

「誰?」

「誰か、」

「誰だよ、バカじゃねぇかっ。」

掴んでいる手が微かに震える。

「痛いって、」

昂治の髪が揺れる。

「痛いよ、祐希。」

手を離す。
俯こうとする瞳を無理に上げて、昂治を凝視した。
背後から強く抱きしめる。
骨が折れるくらいに、強くだ。

「……兄貴、俺はアンタを……、」

「一緒に堕ちるか?」

「は?」

軽い笑声に昂治フ体が揺れる。

「冗談だよ。」





二日後、政府の使者がくる。
リヴァイアスへ








「誰か呼んでる…。」

あの
か?









(続)
消そうかと思ったんですが、
続きがあるんで…載せました(汗)。
自分的には過去にしたいSSその1


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