**硝子細工毒林檎 ―終編―







体内に

残る毒

硝子細工の林檎を齧り
















膝上に横向きに座らせた兄が自分を見上げてきた。
他の者に比べて、細身な祐希も兄である昴治と比べると体格が良いと思わせる。
華奢というワケではない、自分より細い昴治の体を怪我をしている腕が包みこんだ。
やわらかい感触と共に
他人の温もりが少しだけ祐希を震わす。
恐怖に似た歓喜。
抱きかかえたまま、顔を近づければ心配そうに昴治が頬を撫でた。

「…っ……」

パクパクと口をゆっくり動かされる。

――大丈夫か?

そう聞いているようだ。
祐希は唇を昴治の額にあてて、軽く息をひそめる。
ふるりと震える体を尚も抱き寄せて、耳元に唇を寄せた。

「少し痛むだけ…慣れてるから平気だ」

「……」

少女のような柔らかさはないが、
体に溶け込むようにあたたかく、見える顔は熱を呼ぶようだった。

「……」

口が開き、それが呼んでいるように思えて
祐希は唇を寄せた。

(……う…どうしよう……)

掠めるような優しいキスを雨のように何度もしてくる弟に
昴治は戸惑った。
嫌とかキモチ悪いという感覚は少しも起こらず
ただ胸が恐いくらいに高なり壊れそうに脈拍を上げていた。
内部が燃えるように、頬と同じ赤くなっていくように思えて。
余裕に見える弟も微かな震えを体から伝えていた。

恐い
恐い

何が?

(……このまま――)

今いる場所の、先へ行ってしまうのが。
少なからず、昴治は感じていた。
もてる、もてないにしろ、普通の健全男子である。
そういう知識は、きちんとあって。
それは女の子へ対するモノであったが、同性同士でも行える事は知識としてはある。
同性に対する趣味など、全くない。

(……俺……やばい……)

まだ声は戻っていない。
降り注ぐキスに、口の動きで言葉を理解させるには難しく
昴治は祐希の胸を押した。
嫌悪からではないので、力を弱めてだ。

「兄貴……」

抱き込まれながら、頬に手を当てられる。

「俺の事…ホントに好きなのかよ?」

瞬いて、昴治はゆっくりと頷く。
湧き上がってくる熱に祐希は息を呑み込み、唇を寄せた。
隠れるそれを引き出すように、唇を割り舌を口腔に入れる。
舌を噛まれる事を、多少は覚悟していたが噛まれる事なく
熱く濡れた口腔にいれた。
逃げるように引っ込んだ舌を突くように触れると、昴治の体は大きく痙攣した。
舌に伝わる、他人のぬめりとした熱い感触。
些か強引に、祐希は昴治の舌に自分のを絡めた。
胸をトントンと叩かれ、名残おしくも祐希は唇を離す。
濡れた唇が震え、視界いっぱいに昴治の顔が映る。
戸惑いを残す、何かに恐れている表情。
それは自分に対してではないのを祐希でも解った。

「兄貴」

呼び、胸を叩いた手を握る。

「……っ…っ」

咽喉が鳴り、見つめる祐希を昴治は見た。
優しげでそれでいて、強く射抜くような煌きの瞳。



じわじわと
滲み犯すような


――腹くらい括くれっ!!


いつかの言葉を思い出し、昴治は笑みを零して
握られた手を握り返す。

(そうだな……)

毒が伝染して
堕ちるのは自分だ

(俺だけだ、俺だけ……オマエを連れてはいかない)

絡めた手を引き寄せて、昴治は祐希の唇に唇を触れさせた。
あたたかい、感触に瞳を瞑り口腔にそろりと舌を入れる。
すれば包み込むように祐希の舌が昴治の舌に絡んだ。
強く抱き寄せられて、少し身じろぐと尻に当たった熱に気恥ずかしさと
自身にも起こりつつある状況に頬が益々熱くなる。

「……」

「兄貴…」

唾液の糸を引きながら、唇を離した祐希の瞳が揺らぐ。
その揺らぎは、昴治自身見た事のない揺らぎだった。
少し震えて、強く握ろうとした手が離れる。
慌てて、その手を追うようにして昴治も手を伸ばそうとした場所は

「っ、っ…っ!」

昴治の下半身に触れる。
熱の核心に触れる手に昴治は肩をビクつかせ、咽喉を変に鳴らしながら
祐希の胸元を握った。

「キスだけで…こんなになったのか?」

「っ、」

(聞くな、そんな事っ)

他人に触れられるのは少しの嫌悪を賄う。
けれど、それは祐希に関しては別で。
昴治は震えながらも購わずにいた。
器用そうな手がズボンのホックを外し、チャックを下ろす。
ジッパーを下ろす音に、何か興奮を覚えて
手が直に反応しているモノを握り出した。

「っ…っ、っ、……」

胸に顔を埋める昴治を祐希は抱き寄せながら、
握ったモノを上下に動かす。
ちゅくちゅくと、いやらしい音に昴治は胸に顔を埋めながら
左右に振った。
否定も、肯定も言葉にできないから、
何とか知らせようとしている昴治の動作は
いつも以上に感情を表に出していた。

「……カワイイ…って、言うのかな…こういうのって」

そう聞いた祐希に昴治は埋めていた顔を上げる。
少し涙ぐんでいる瞳に染まる頬。
衝動が沸き起こって、強く昴治のモノを掴んだ。

「っ!?」

ひゅっと咽喉を鳴らし、祐希の手の内で昴治は精を吐き出した。
少し早めの吐精は、普段あまり頻繁に行わないのと
他人からの接触への免疫がないからだろう。
ぼんやりと意識を少し飛ばしている感のある、昴治の抱きかかえたまま
濡れた手を口元にやった。
祐希としては、少しの好奇心からで
兄が吐き出した精を舐める。

(なっ……!?)

瞬時に意識が戻り、その光景に祐希の手を慌てて引き離すように掴み
もう片方の手で祐希を叩いた。

「っ、っ、っ!!!」

「……変わった味……」

「っ!!」

「……気にしてねぇよ、そんなん」

「…っ……」

泣き出しそうな顔をする昴治に、祐希は高鳴る衝動が溢れてくる。
兄を自分のモノにしたい。
と、そう思うのだが自身に負っている怪我と
此処が個室であれど公共の場だと思い出す。
一番、そういう所を気にする相手に。
知識こそ、そんなにあるワケではないが女ではない昴治を
全て奪うように犯せば膨大な負担が掛かるのは目に見えている。
精神に、身体に。

「……兄貴…」

「……?」

祐希呼びかけに昴治は切なげな表情のまま首を傾げた。

「兄貴が…欲しい……全部……」

強く見つめて、抱き寄せている肩を祐希は撫でる。

「今日、これで…終わりじゃないよな?」

(祐希……)

眉を寄せて、唇を少し笑ませながら昴治は頷いた。

「…今日は、最後まで…しない。
兄貴を壊しちまいそうだから……」

我慢をしているのだろう事を、理解する。
そして、自分を大事にしようと思っているのも。
胸が張り裂けそうに熱く高鳴って、
昴治は祐希を見た。

「………兄貴……好きだ……」




「っ……俺…も、だよ……」




咽喉がなり、擦れながらも昴治の声が音となる。
それに互いに驚き、昴治は自身の咽喉に触れた。

「あ……祐希……祐希、ああ、俺…声……」

抱きしめて、祐希は笑みを浮かべた。

「兄貴…戻ったな…全部……」






全てが
滲んだ雨の
あの時

血の滲む
記憶から

全てが









痛みを賄うだろうが、祐希を受け入れようと思っている。
だが、今日は最後までしないという弟の言葉に
昴治は甘える事にさせてもらった。

「……何処で…憶えて…くんだよ」

「憶えてねぇよ、何となく――」

「だって、これ…すま…」

座る祐希の膝に、下を脱いだ昴治が祐希の反応していたモノを
太腿で挟みこむようにして座る。
手で昴治のモノと共に手で握り、その上を洗濯に出す予定だった
タオルを精液が飛び散らないように被せた。

「すま???」

「…っ――何でも、ない」

知っている自分が恥ずかしくなり、昴治は顔を真っ赤にさせた。
祐希としては、知識からではなく苦肉の策だったのかもしれない。
それが、そういう如何わしい行為で名が付いているなど
知らないのだろう。

「…兄貴……」

息が耳元にかかり、昴治は体を震わした。
後ろから抱き込む、熱とぬくもりを同時に感じて背を昴治は
控えめに預ける。

「……はぁ……祐希……」

「……ああ……」

昴治の首に唇を寄せ、肩口に顔を埋めた。
さらりと茶髪と黒髪が絡み、昴治は瞳を伏せる。

「……っ…祐希、」

「ん、」

返事をし、祐希は昴治のモノと自分のモノ強く握りこみ
そのまま擦る。
すれば、昴治は体を大きくビクつかせた。

「ぅ…あっ!?」

思わず、吐き出された声に昴治は戸惑い、抱き込まれている体を身じろがせる。

「あ…祐希……っ、ん…ぁ」

止めずに快楽を引き出そうとする祐希に昴治は眉を寄せた。
戸惑い、左右に何度か首を振り
それでも続ける祐希に昴治は震えながら唇を噛む。

「……っ……兄貴」

熱い息がかかる。
昴治は背をそり、唇を戦慄かせた。

「ごめ……んな…、祐希…」

「なにがだ?」

「最後まで…さ…」

声を漏らしながら昴治は告げて、後ろから抱く祐希に顔を向ける。
祐希は瞳を細めた。

「俺の勝手だし……俺は」

優しげな、その表情は儚くも見えて昴治は瞳を伏せ、
そして笑みを浮かべる。

「……ゆ……祐希」

「兄貴?」

瞳を閉じ、昴治は太腿に少し力を込めて腰を上下に動かしはじめた。

「っ」

息を詰めて、驚いたような祐希に昴治は息を漏らす。
柔らかいわけではないが、弾力はある太腿と昴治のモノが擦れて
同時に快楽が二人に降り注いだ。

「ん、ん…あ…あ、あぁ…っ…いい…いいか?」

「ああ……兄貴、すごい…すごいな」

舌で耳を舐め、空いている手で昴治の腰を掴んだ。
震える昴治を強く揺するように動かす。
くちゅ、くちゅと音が聞こえ耳を刺激した。

「うう…やぁ、祐希……動かさ、なっ……うあ、あっ、やうぅ」

悲鳴のような声を上げて、昴治は腰を掴んでいる手と
握りこんでいる手を包みこむように触れる。

「っ、あ…ぁ、あ…あ、んぅ、ゆ…悪い…も…俺っ…」

荒ぐ息の中、訴えはじめる昴治の体を、一層に強く
祐希は抱きしめた。
口をゆっくりと開き、首筋に祐希は噛み付く。
刺激に昴治は大きく体を痙攣させた。

「い、あっ、あああっ!?」

「っ……」

何度か体を跳ねさせ、タオルの下
ぴちゃりと何か音が続く。
息を詰めた祐希の呻きと震える昴治の溜息が零れた。
部屋に、濃密な空気が充満する。














ベッドに横になっている祐希の頭を
昴治は撫でながら言葉を吐く。

「…ったく…どういうつもりなんだよ」

先ほどから、ブツブツと愚痴を零す兄に弟は少し笑み混じりの顔を向けた。

「噛む事ないだろ」

「……」

「痛かったんだからな」

非難する言葉を吐きつつも、昴治の祐希を撫でる手は優しい。
祐希は瞳を細めて昴治を見上げた。

「よさそうな…声、あげてたくせに」

「っ…あれは…っ、ちが……あー、もう!」

パチンッと額を叩き、昴治はそっぽを向く。
クツクツと笑いだす祐希に、瞳をゆっくりと向けて溜息を零した。
少しずつ溶け出すように、表情を出すようになった弟に兄は頬を染めながらも
笑みを浮かべる。

「……林檎を…」

「ん?」

手を伸ばし、祐希は昴治の首もとを撫でた。
襟で隠れた、その場所にはくっきりと歯型が残っている。
揺らぐ瞳に射止められた昴治は祐希に顔を向けた。

「齧ったんだ……」

言葉の意味を昴治は掴めなかったが、
けれど胸にしみこむように伝わる。
撫でる手を包み込むように昴治は自分の手を添えた。















毒で

いいから

残れば

此処に残り続ければ










自分は死んでも構わない









君は硝子細工の――







(終)
やはり書ききってましたですよ。ね!
と此処で主張してみる…。
一度、最後まで書き終えたら、すぶた的には過去になっているので
たまに、あれ良かったと言われ思い出せない時がある…(死)。
自分のSSに愛がないよとツッコミいれられましたけども…そうかな??

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