***Planet***

―blue―















オマエの傍にいる理由。
オマエの傍にいる意味。

オレが想うコト――















確かに、よく優柔不断だとか、はっきりしないだとか言われる。
だからと言って認めるワケではないけれど、定まらないのはホントの事だ。
だって良い訳になるかもしれないが、そんなに簡単には答えは見つからない。
いや、答えなんてあるのだろうか。
ないのかな…ないのかもしれない。
そう思う事が出来れば、どれだけ楽になるだろう…
どうせ、出来ないんだけど。

「昴治、お疲れ様ですー。」

イクミの声が聞こえる。
前を見ると、通路の右壁に寄りかかるように立っているイクミがいた。
近づくイクミの髪は少し濡れてる。
VGのメンテ作業の帰りなんだろう。

「なに?」

「おまえさ、ちゃんと髪乾かせよ。」

「タオルで拭きましたけども…。」

昔だったら、それでいいかもしれない。
けど、少し伸びたイクミの髪では冷えて風邪をひくかもしれなかった。
杞憂に終わればいいけど、本当になったらそれは困る。

「風邪引くだろ。」

「心配してくれるんですか?」

「してない。」

「あうあーー、ヒドイですよーこうじぃくーん…」

拗ねた子供のように見られる。

「ヒドイ、ヒドイっすー。」

「はいはい。」

肩を軽く叩いて、相手を見れば拗ねたような表情は一瞬にして消え
こっちが恥ずかしくなる位の笑顔を向けてきた。
前はこんな顔しなかったと思う。
溜息の後、同じように笑みを浮かべてみれば密かに眉が下がる。
泣きそうな顔を笑顔で覆い隠して…それも前はしなかった。
していなかったのではなく、解らなかったのかもしれない。

「昴治?どうかした?」

「いや…なんでも。」

「ふーん、」

イクミは上を仰いで、俺に食堂へ行く事を促した。
目的地は同じだったので、イクミと一緒に歩き出す。
並んで歩くと解るが、背が高くなってる。
俺も背は伸びてるけど、全然おいつく気配は見えない。
これじゃあ、アイツには到底おいつかないだろう。
背ぐらい越せば、少しは――

「あのー、そのまま行きますとー。」

「行くとなんだ…うぶっ!?」

思いっきり角にぶつかった。
顔面直撃するなんて、きっと中々ないだろう。

「いたた…っ……」

「大丈夫っすか?」

鼻を押さえて、覗き込んでくるイクミを見た。

「大丈夫だ…なんとか、」

「考え事してたみたいだけど、弟君のコトっすか?」

いきなりそう来るか。

「別に、ちょっと疲れただけだ。」

「そう?」

話から下がるイクミだが、表情にはまだ笑みが残っている。
いたずらっ子みたいな顔は、まず俺の言った事は信じていないはずだ。
見透かされてるのか…全部は解ってないとは思うけど。

「そうそう、今日の夜、なんか騒ぎましょーって言ってましたー。」

「ニックスとか明弘は出るって言ってたな…あとツヴァイも…イクミは出るのか?」

「強制出席デゴザイマス。」

笑い、その状況が浮かんでいるのかイクミは苦笑いを浮かべていた。

「昴治は?」

「俺はパス、少し疲れてるからさ…部屋で休む。」

「休み前は就寝早いな…作業とかカリキュラムきついのか?」

瞳の煌きが少し弱まる。
考えている事は何となく解る、何だかんだ言ってもイクミは優しすぎるから。

「勉強は難しいけど、きつくはないさ。だから気にする事のもんじゃない。
まぁ、大変だったらオマエに言うしな。」

「役立つポチっすか?」

「実地のみ限定のな。」

また別の笑みをイクミは浮かべた。
何かに安堵したような笑みだ。

「ペーパーの方はナシ?」

「ノート写させてやってる奴に教えて貰う気はない。」

「確かに、ごめんねー昴治センセ!」

浮かべた笑みを仕舞い、茶化すような感じになった。
前みたいにというのは無理かもしれないが、また新しいモノを作ればいい。
きっとそれも俺とイクミの間には必要な事だったと思う、今は。



必要だった事。
必要だったコト。
必要ではない事。
必要ではない存在。
必要ではなかった事。





何度も誘うイクミを丁重に断って――拗ねるからな。
俺は割り当てられた部屋のベッドに倒れこむ。
体を反転させて、天井を見上げ前髪を掻きあげた。
作業やカリキュラムで疲れはするが、7時頃から眠るほどじゃない。
第一普段の就寝が1時頃、早くて12時頃だから当たり前だ。

ピー、ピー、ピー、

IDカードが鳴る。
俺がアラームセットしたから当然で…別に強制じゃないのに。
鳴っているIDを取り、アラームを消しながら起き上がった。
時間は7時15分、ちょうどいい時間だ。

「……」

別に決められた事じゃない。
俺はシャワーを浴びて、服を着替えて部屋を出た。
周りを見渡して、俺は足早に通路を歩く。
真っ直ぐ歩いて、右に曲がって、左に曲がって、その通路の左側前から3番目。
人気がないのを確認して――溜息をつきながら、その部屋の呼び鈴を押した。
…応答がないのは、いつもの事だ。
端末にIDを通せば、簡単に扉は開く。
もう一度、周りを確認して俺は部屋の中に入る。
そんなにやましいのなら、ココに来なければいいのに。

「…いるなら、返事しろよ。」

部屋の中は明るく、ベッドの上でこの部屋の主がいた。
ベッドの上や床には書類や本が散らばり、ベッドの上にいる奴はノートパソコンを広げている。

「しなくても、いいだろ…」

「何でだよ。」

「意味ねぇから。」

肘をつきながら、祐希は答えた。
前よりはマシだが、何処かバカにでもする言い方はまだ残っている。
些か腹を立てながら、祐希に近づいた。
散らばる書類や本やらを踏みそうになり、散らばらせた当人を見る。

「片付けろよ、」

「使ってる、」

何が使っているだ。
ベッドの上にいるオマエが、こんな離れた所の本を見るって言うのか?

「何してんだよ。」

「アンタには関係ねぇ。」

「……」

別に祐希が何をしていようと、俺には関係のない事だ。
干渉もする必要もない。
キーを打っている祐希を横目に、俺は周りを見渡した。

「バカみてぇに、突っ立ってんじゃねぇよ。」

「バカだと?」

「バカだろ実際。」

「オマエもバカだろ、」

長めの前髪を掻き上げ、ベッド上にあった書類や本を少し落とす。
ちょうど祐希の横に空間が出来た。
ポンポンとその横を叩くと、またキーを打ち出す。
横に座れと言う事だろうか?

「本とか大事にしろよ。なくしたら大変だろ、」

「うるせぇ。」

目も向けられずに返された。
軽く周りの書類を一まとめにして、俺は祐希の隣りに少し離れ座る。
ベッドが少し軋む音がして、そのまま俺は仰向けに寝転んだ。
何しに来たんだろ、俺は。
解りきっている答えを見つけずに俺はそう思う事にしている。
横になっている俺に何も不平は言わず、祐希は何かを続けていた。

「……」

斜め角度から見えるノーパソ画面には、多くの記号、随時動くデーターグラフ、
中央に球体の映像が見える。
見た事がある――VGのソリッドだ。
VGのソリッドは難しいのに、コイツはそつなくこなしていく。
それに、今見た限りの判断だが通常のソリッドプログラムより複雑に見えた。
組み立てられるプログラムというブロックが、あんなにも綺麗な球体になっていく。

「…邪魔だな、俺。」

「そうだな、」

はっきりと祐希は言った。
わざわざ来てやったヤツに言うセリフじゃない。
やっぱり来なければ良かったかもしれない。

「じゃあ、帰る。」

「……」

無視かよ。

「部屋、片付けろよ、」

起き上がろうとするが、何かが頭の上に乗せられる。
それは祐希の手で、

「なにす……わぶっ!」

布団に顔を押さえつけられた。
数回強く押さえつけられ、ようやく離れると同時に顔を祐希に向ける。

「何すんだよっ!」

「……」

無視か、無視するか。
俺はまた起き上がろうとすると、

「んぐっ!」

また顔を布団に押さえつけられた。
片手でキーを打ちながら器用に頭を押さえる。
これでは、起き上がれないではないか。

「起きれないだろっ…うぶっ!」

反論却下。
とでも言いたいのか、俺はまた布団に顔を押さえつけられた。
弟のクセに、弟のクセに、弟のクセに。
浮かぶ言葉は呑み込んで、祐希を睨む。
こっちを見てないので意味ないけど。

「邪魔なんだろ…」

「ああ、」

「じゃあ、いない方がいいだろ。」

「それはアンタの考えだろ、」

それは当たり前だ。
だが間違ってはいないハズだ。
起き上がろうとすれば、また頭を押さえつけられる。
起きる事が出来ないとなれば、ココにいるしかないじゃないか。
ふわりと胸の中に何かが広がるが、それを意識しないように目を伏せた。
キーを打つ音が耳に触れる。

「…何のソリッドだ?」

「……」

また無視か。
俺は溜息をついて、そのまま祐希を見た。
休日の前日に、こうやってコイツの部屋に来るようになったのは何時だろうか。
キッカケはコイツが風邪を引いた時。
看病をせざる終えない状況になって……あの時を思い出すと腹立たしさはないが、
体中に痛みが思い出されて嫌だ。
そのままなし崩しのように、今に至っいる。
受け入れてない。
そんなに俺はお人好しでもないし、いい奴じゃない。
祐希の暴言に腹を立てないほど人間できてないし――できていても腹立つだろう。
けれど、なんだ。
何かが引っかかって、それはキモチ悪いくらいに気にかかる。
その所為で来ている…のかもしれない。

カチッ

大きくキーを打つ音がした。
その音に、祐希から画面に目を向ける。
中央の球体が回り、横にたくさんの記号が列をなして出てきた。
画面が切り替わり、何かの軌道が映し出される。
そして複雑なプログラム記号が小窓でたくさん出てきた。
何なのか、俺にはサッパリ解らない。
祐希に視線を戻すと、小さくガッツポーズをしていた。

「成功したのか?ソリッド、」

「ああ、」

尚も明滅する画面から俺に顔を向ける。

「おめでと。」

自然に言葉が零れた。
相当苦労でもしたんだろう。
やわらかく時々見せるようになった笑みを浮かべられた。
その笑みは一瞬で、すぐに仕舞われる。
ノーパソの電源を消して、祐希は立ち上がった。

「どっか行くのか?」

「シャワー、」

デスクにノーパソを置いた祐希に聞くと、一言で返される。
クローゼットを開けてタオルを取り出し、奥の方へ消えていった。

「シャワーか……」

周りを見渡すと、目につく散らかりよう。
俺だってキレイ好きってほどじゃないが、さすがにコレは散らかり過ぎだと思う。
書類やら本を一まとめにしてデスクに置く。
ポケットに入れておいたIDを出し、時間を見た。
8時過ぎを示している。
IDをデスクに置かせてもらい、そのままベッドに座った。

「あと5分くらいかな…」

手の甲を鼻に寄せて、少し嗅いでみる。
自分の匂いなんて解るハズはないが、汗臭くなくてほっとした。

「……」

ほっとしてどうする。
別に楽しみにしてるワケじゃなくて。
どちらかと言うと嫌悪の方が勝っている筈で。
でもこれでは、待っているようじゃないか。
なら、どうすればいい。
このまま、シャワーを浴びてる間に部屋を出て行けばいい。
なのに、俺の足は動かない。
座ったままで、俯いている。
これでは、その為に来ているようだ。
違う、認めたくはない。

ガチャッ

出てきた。
トコトコと歩いてくる音がする。
今なら、まだ間に合う。
だが俺の視線はドアではなく、シャワーから上がった祐希の方へ向けていた。
体にフィットする感じの服をよく着ているけど、シャワー上がりの祐希は大きめのシャツを着ている。
わしわしと髪をタオルで拭きながら、俺を見てきた。
普通の仕草もコイツがすると、様になるから腹が立つ。
しかも、まだいたのか…とでも言いたいような表情を向けられて余計に腹が立った。

「俺さ、やっぱ……」

目の前まで近づいて来た祐希に見下ろされる。
コイツもやはり背が伸びた。

「…やっぱ、なんだ?」

「……」

やっぱ、帰ろう。
そう言おうと思ったのに、口から出なかった。

「なんでもない、」

相手は答える事はなく、ポツリと髪から雫が零れてきた。

「オマエ、ちゃんと乾かせよ。」

「関係ねぇだろ、」

可愛げのない返事。
左手を伸ばすと、祐希はゆっくり膝立ちになった。
ベッドの高さもあって、ちょうど頭が俺の目線ぐらいの高さの位置になる。
肩より上ではない。
右手も伸ばして、タオルで頭をわしわしと拭き始める。
すごく昔に同じような事をした記憶があった。
拭いてやりながら、祐希を見れば目を瞑りじっとしている。
普段の態度から想像できないな、こんな状況は。
目を瞑ったままの顔は、これでも同じ血が繋がってんのかと疑ってしまうくらい整っている。
案外、睫毛…長いし。
雰囲気は静かで、何か、なんて表せばいいだろう。
何かの儀式みたいな、そんな感じにさせた。

「拭いてやったぞ、」

タオルをどかすと、まだ少し湿った髪が顔にかかる。
ゆっくりと顔を上げ、瞳がパチリと開かれた。
瞬時に俺は口元を押さえる。

「兄貴…?」

うわっ…と思った。
訝しむ声に俺は口元にやった手を戻し、祐希を見る。
祐希は上を仰いで、俺の肩を押した。

「……」

タオルを持ったまま、俺は後ろに倒れる。
やけに布団に沈むような感じがするのは何故だろう。
天井に向いてしまった視線を顔を上げて、正面をに向けた。
キシッと軋む音と一緒に祐希は俺を跨ぐように移動してくる。
覆い被さるように来て、俺を覗き見てきた。
これもやはり、すごく昔の記憶と重なる。
疲れ切った俺にまだ、遊んでほしいとせがみ上に乗ってきた小さい祐希――今では想像できないけど。
見下ろす祐希の髪が頬をくすぐる。
深く青く煌くその目に俺が映っていた。
無表情に近い表情が少し顰められ、そしてまた上を仰ぐ。
上に何かあるのか?
同じように上に目を向けてみたが、何も変哲もない天井だ。
また視線を戻せば、近づいてくる祐希の顔だった。
…近づいてくる?
ちょっと待て、と言う前にキスされた。
多分、俺が何か云うとでも思ったんだろう、すぐに唇を割って舌が入ってくる。

「ん……」

ぬめっとした感触はキモチ悪い。
他の奴が、キスしようものなら何がなんでも突き飛ばしてるし逃げてる。

「んぅ…ん…」

角度を変えて、深く絡んできた。
ざらつく感じと、カツンと歯に歯がぶつかる。
歯にぶつかるのは痛いから、少し口を開かせるともっと深く舌が入ってきた。
何処で覚えてきたのか知らないが。
キスは上手だと思う。
思う、思う…基準が規定されてないから解らないけど。
目を閉じるのは、何となく悔しい感じがして開いたままでいた。
キスしている本人と目があって、相手の青が揺らぐ。
ああ、コイツとキスしてんのか…。
少しクラクラしてきたのは、酸欠になりかけているからだ。

「んっ……はぁ…、」

「…はぁ…」

唇が離れると、俺と祐希の間で唾液が糸を引いた。
本当に引くもんなんだと思ったのはもう遠い昔に感じる。
あの時とは違う。
あの時はコイツ、風邪の熱で正気じゃなかった。
誰かと間違えて…と思ったけれど、うわ言のように囁かれた声は俺を呼んでた。
風邪の所為にするには、もの凄い惨状だったけれど仕方がないと腹を括るつもりだった。
でも、なんだ?
それで終わるハズだ。
はっきり云って、男に興味はない。
女の子みたいなヤツにだって、こういうコトしたいとも思わない。
だったら、この状況は?
祐希だからだ、なんてそんな事思ったりしない。
じゃあ、なんでだろう。

「…っ……」

布が擦れる音がする。
プチプチとボタンを外して、前をはだけさせられた。
体の中央に手が置かれ、俺を見てくる。
揺らいで、密かに歪んだ。
泣きそうな顔と重なって、だがその表情もすぐに消える。
俺は目を瞑った。
そういう表情をするからだ――少なくとも今だけ、その理由は成り立つ。

「…っ……くすぐったい、」

手の動きはくすぐったかった。
正直に言えば、這わすように手が動いて右肩で止まる。
そこは傍から見れば、悲惨な感じになっている。
俺は気にしてないので、普通に共同シャワーを浴びれるけれど
偶に一緒になるイクミは今にも泣きそうに歪んで笑う。
ケロルド状で少しピンクで盛り上って、その下には後ろまで届く一文字の深い傷痕。
どんな顔してるのか。
気になって、瞑った目を開けるが祐希とは目はあわなかった。
傷痕を見ているらしい祐希は無表情に近い。
そのまま手はゆっくりと撫でて、胸の方へ移動すると代わりに唇が添えられた。

「はっ……」

くすぐったい。
でも、そこを大事に舐められるのは嬉しい。
なんでだか、解らないけれど。

「ん……はぁ…」

「いいのか?」

何がとは聞かない。
そこまで俺は鈍感じゃない。

「いつも舐めるからな、誰かさんが。」

「誰が?」

開いてた手で胸を揉まれる。
揉めるほど脂肪はついていないし、男なんだからあるわけない。
だが手の動きは揉むようなもので、

「ひゃっ、」

中指と親指で乳首をつままれた。
ジンとした感覚は全身に回って、下半身に溜まる。

「…ん、う……ぁ…ん、」

肩から唇が離れ、跨いだままで両胸を弄くり始めた。
何度も、何度も、触られたもんだから…その、感じると云うのも何だが、そんな感じになってる。
けどまだ声は抑えられる。
零れるように出てくる声は、俺は好きじゃない。
女の子のようで、嫌だ。

「んん……」

口を閉じて、声を抑えていると祐希は面白くなさそうな顔をする。
バカにするなと言おうとした矢先、ズボンのベルトに手がかかった。
脱がす気だ。

「……はぁ、」

言葉よりまず、息が漏れた。
期待なんかしてない。
していないと思う…。
跨いでいる足を退けて、祐希は俺のズボンと下着を脱がして放り投げた。
当然ながら、床にバサッと落ちる。

「た…たためよ、人の服を……」

なんだと思ってんだ。

「わっ、ちょ……まだ早……」

なら、いつならいい?
と聞かれないコトに安堵した。
膝を開かせて、間に入り俺のモノを掴んだ。
そんな所、よく触れるな。
でも、それで驚いてたのがバカだったと今では思う。

「ちょ……ん、ふあっ、」

普通に口に含むのだ、コイツは。
そんな風にされたら、声が出てしまうじゃないか。
ただでさえ………なのだから。

「くぅ……い、いやだ…やめろって…んあっ、」

体を移動させても無駄。
足を閉じようとすれば、逆に祐希の顔を太股で押さえる形になってしまった。
確かにソコは不感症ではない限り、誰だってキモチイイ場所だ。
けれど、口に含まれていい気はしない。

「やめ……ん、ふあっ、あっ!」

手を添えて、丁寧に舐める。
空いてる手は太股を撫でて、毛を撫で、袋を撫で…

「あっ、んん、んぅ、はあぁ、」

なんで声が出るんだろう。
前はこんなに出なかった。
けれど最近は触れられただけで零れるようになっている。
軽蔑されるかもしれない。
だが、祐希は玩具で遊んでいるかのように楽しげに口で嬲る。
引き離そうと思って、伸ばした手は湿った祐希の髪に絡むだけだ。
逆にこれじゃあ、押さえつけてるみたいだ。

「い、いぅ…んぅ、ん、はうっ、うあっ、あ…」

チラリと見られた。

「あぅ!?」

見られた、見られた…俺、今どんな顔をしている?
きっと情けない顔だ。
軽くソコを甘噛みされて、俺の腰が震える。
ダメだ、そんな…いくら何でも…

「ん、いやだ…いや…やあっ!!」

強く吸われて、一瞬思考が止まる。
そして一気に熱が発散され、力が抜けていく。

「んぐっ、」

祐希の呻き声が下から聞こえた。
口端から漏れる液体は白の半透明……飲んでる、飲んでやがる。
ちゅぽっと音をたてて離れた祐希の口は濡れてて、少し顔を歪めて何かを飲み込んでいた。
俺が無理にさせたような感じがして、俺は起き上がる。

「…?」

訝しげに見ている祐希を座らせれば、解ったらしく軽く意地悪い笑みを浮かべられた。
そんな表情もできるのか、俺は胡座をかいた祐希の前に座ってズボンのチャックを下ろした。
中から引き摺り出した祐希のは、少し硬い。
何に興奮してるんだろ。
呆然と思いながら、それを両手で擦り始めた。
俺の手より熱いそれは、異様な感触で頼まれたとしても他のヤツにだったらしない。
擦っていく内にぬめりを感じて、先端から液が零れ始めているのに気づく。
ヒクヒクと下腹が動いていた。

「はぁ…」

零れる声は熱い。

「…兄貴…口で、」

舐めろと?

「……」

身を屈めて先端の滲み出てきている液を舐めた。
生温くて苦い。

「入れろよ、」

頬を撫でられた。
弟のクセに命令するなよ…それに、

「いやだ……っ、んぐっ!?」

拒否しても、無理に祐希は口に含ませた。
確かに口でされるのはキモチイイと思う。
でも、でもだ。
俺はあまり好きじゃない。

「んんーー、んっ、んぅ…」

撫でる手は、俺の後頭部を押さえて顔を上げられないようにしている。
何処でこんな事を覚えてくるんだ。
口で含んでいる祐希のが、大きくなってく。
当然だけど、別に俺の口は大きい方じゃないからはっきり言って苦しい。
芯のある柔らかさは妙な感じで、

「んぅ、ぐぅ…んっんっ、」

やっぱ、少しキモチワルイ…。
嫌なんだ、本当は。
苦しくて、広がる味は苦いし、舌で感じる脈動は別の生き物を口に含んでるようで
本当は嫌だ。

「はぁ…」

でも、なんだろう。
コレすると、吐息に似た声を出すし…別にいいや、と思う所もあって。

「ん…う、んぅ、んぅ……」

舌を絡ませて、下の方も弄ってみた。
だが祐希はそれだけじゃあ、満足しねぇと言いたいんだろう。
俺の顔を掴んで、そのまま上下に動かさせる。

「んっ!んん!!んーーっ!」

苦しい。

「んぐっ、んん、ふぐっ、うぅ、ん!」

少しすれば、俺自身から動き始めて…。
こんな事するようになった。
おかしいよな、おかしいよ。

祐希が?

違う。

「ん、ぐぅ、ふぅぅんっ!?」

兄としての俺が。
相葉昴治がおかしいんだ。
お尻の穴に指入れられて、変な声出してる俺がおかしくないなんて言えない。
何指か考える自分がおかしいんだ。

「んぐっ!んっ!!!んんぅ!!」

いつから、こんなになった?
いつから、俺は――。

「はぁ、う…い、やめっ……っ」

ちゅぶりと口から出されて、唾液でぬらぬらと濡れてるのを顔に当てられて…

「ん、やっ……ぁ…」

ぶっかけられた。
とろりとした感覚と生温かさが伝わる。

「っ…ぅ……や…」

指も抜かれて、俺の腰が震えた。
なんだか、もうどうしようもない。
キモチワルイのに、体はふるふると震えて何かを求めている。

「……はぁ…いやだって…言って…」

「…知ってる、」

なら、するな。
そう言おうとした俺をうつ伏せにして、覆い被さってきた。
手まで隠れるくらいの大きな服を着たままで、縛っていない祐希を見ると
やはりすごく昔を思い出された。
行為はそれに全く担ってはいないけれど。

「ドロドロだぜ、アンタの顔…」

笑みを浮かべながら、そう祐希は言った。
オマエが、かけたんじゃないか。
俺がオマエのを出して、顔にかかるようにしたワケじゃなく。
第一、顔がぬるぬるしてキモチワルイ。
なのに、祐希はまるで、俺が嬉しがっているような口調だ。
何かを求めているのは確かだけれど。

「はぁ…ぁ…オマエが…はぁ、」

声は掠れて、不平は音にならない。
祐希が手探りでタオルを取って、俺の顔を拭いてくれた。

「…飲むの嫌なんだろ、」

祐希なりの気遣いか?
数回、飲まされた事はあった。
苦くて、やっぱりキモチワルイのはよく覚えている。
他のヤツだったら、ホントに嫌だ。
だが、祐希なら我慢できるくらいの嫌悪で。

「髪についたら…後が…大変なん……んくっ!?」

会話途中で穴にまた指を入れられた。
最近、覚えた慣らす為にする事。
舐められるよりはマシだけど、指を入れられるのも抵抗はある。

「い…やぅっ、う…はあ、あ…」

「痛いのは兄貴だぜ…」

ほとんど表情を崩さない――単に解り難いだけかもしれないけれど。
そんな祐希は密かに楽しそうなのは解る。
玩具でやっぱ遊んでいるような…そんな…感じ、どうかしてるな。

「ゆっくり…すれば……」

大丈夫だ。
もう何度もしているのだから、慣れてる。
痛みも、痛みの先にある痺れるような感覚も。
――嘘だ、慣れてない。

なんで、こんなコトしてんだろう。

触られて、弄られてる間に色々なコトを思い考える。
余裕がないのに、考えて深く悩む。
答えはあるのに認めず無視する。
意味ないな。
そう解っているけれど。

「はぐっ!う…」

自分のモノを入れる所に宛がい、ずっと入れられる。
ずっ…ずっ…とホントにゆっくりと入ってくる。
指とは違い、大きくて熱い。
苦しく痛いハズが、あまりにもゆっくり入ってくる所為か痛みは少なかった。
でも、

「あっ、や、あぐっ…ひあ…ぁ…」

なんか、これじゃあ…

「や…いや…やぁっ!」

内部に入ってくるのが、どれくらいの大きさでどんなカタチをしているのか。
それを知らしめるようで、リアル過ぎる。
リアル過ぎて、俺の感覚が耐えられなかった。

「やだっ…早くし…ろ、」

「…兄貴が…ゆっくりって言ったんだろ、」

自分の云ったコトは責任持てと、速めずにゆっくりとした動きのままだ。
情けない顔してるのは解るから、俺は隠そうと手で覆う。
でもそれも悪足掻きで、簡単に祐希は手を取り払った。

「ひぅっ!?」

「ここか?」

首を振った。
そこは、本当に…

「や、やめっ…ん、んぅ、あっ!ふあっ!?」

ちゅぶ、ちゅぼ…

音が耳に入ってくる。
なんでこんな音が出るんだ。

「あ…ん、ん、んっ!はあっ!ひっ…う、やぁあ!!」

動きがゆっくり過ぎて、ダメだ。
本当にダメだ。
同じトコばっかで…

「い、うあっ、あっ、やぁ、やっ、やだっ!!」

喧嘩して殴られた時。
こんなにも懇願の言葉を出した事はない。

「ひあっ、いつっ…んぅ!はああっあっ!」

触られる。

「やうっ!う…ふえぇ…あっ!」

息使いが聞こえて、見れば頬を赤くした祐希の顔があった。

「はぁ、はぁ…」

キモチイイのか……オマエも…

「やあっ、やめっ、ふああっ!ひうっ!!」

モノを中心のように回し、俺をうつ伏せにさせる。
嫌だ、この格好は。
楽だけど、祐希は早く動くし、祐希が見えない。

「いや…だ、この…あっ…格好……ヤ…ひああ!?」

嫌だと言っても聞きやしない。
体を支えるのは無理で、腰だけ上がった格好になりもっと嫌だ。

「やだっ、あっ!!ひあっ、や、やめっ、ふぅ、んん!!」

シーツを掴み、それを手繰り寄せて口で噛む。

「んぅ、んぐっ!んんーー!はぁ、あっ、んっ!!」

俺の不平も拒否も受け入れない。
それは事実じゃないから。
自分でも解る。
俺の腰が動きに合わせるように動いてる。
モノは立っていて、液を零してる。

「兄貴…」

「はあっ、ゃ…ぁあ!?」

一端止まって、深く突かれた。
背中に覆い被さる祐希は、ずり落ちたシャツの間から見える右肩にキスをする。

「ふぅん!?」

手が噛んでるシーツを引っ張って取る。
もう声を抑える術を全部取られた。

「ひああっ、あっ、んっああ!やあ、やっ、やだ、ん…ふぅ!」

頭の中が真っ白になってきて、
もうどうでもいい。
もうどうだっていいや。
もっと、もっと俺がおかしくなる。

「いいのか?」

辛うじて残ってる理性が首を左右に振らせた。

「兄貴、」

「ひああっ!!!あっ!!ふかぁあ…い、」

痛い。
キモチワルイ。

「はぁ…あにき…」

「んっ!やめぇ…あ、壊れ、壊れる、壊れっ…おなか…ひぐっ!?」

キモチイイ。
いいよ。
もうどうだっていい。
どうなったっていい。

オマエが……

「ひっあっ!?」

光が明滅して、浮かぶ何かを消し去って行く。

「んっ…」

鼻にかかった祐希の声が耳を擽り、

「ぁ…ぁ…」

奥でびゅくびゅくと熱い液体が当たった。
震える俺から、ずるりと祐希のが出て行く。
触れる手はシャツ越しに触れて、まだ終わりではないと知らせた。

「ぁ…ゆうき……」

「……」

頬にキスされた。












意識が微睡みに漂う。
もう何度交わったか知らない。
身体中がドロドロなのだけは解った。
俺のか、祐希のか解らないくらいにだ。

「……」

なんで、こんな事をする?
なんで、こんな事を続けてる?
答えを出せば、きっとコレは終わる。
終われば頭痛のような思考もなく、普通に過ごせる。
そして祐希とはまた喧嘩して――いや、もう喧嘩などせずに互いに無視をして。
必要だったのは、俺とオマエが話し合う事。
必要じゃないんだ、この行為は。
ホントの事云えば、キモチワルイし好きじゃない。
いや、違う。
キモチワルイけど好きなんだ。
だから続けてる。
なら他の奴でもいいじゃないか。
祐希じゃなくても、いいハズだ…ハズなだけで。
祐希でなければダメなんだ。

「……」

答えは出ている。
言葉だって知ってる。
でも声に出すほど、俺は素直じゃない。
言えるワケない。

「……」

キシッ

ベッドの軋む音。
霞む視界に祐希の後ろ姿が見えた。
待てよ。
顔もいいし、頭もいいし、才能もある…だからいいだろ?
少しぐらいいいだろ。
待ってくれたっていいじゃないか。

「…置いてくなよ……」

手を伸ばして、俺は言った。
これは夢だった。
ツゥっと雫が頬を伝ってる。

「先に置いてったのは、にいちゃんだろ。」



弟は泣き叫ぶように言った。



















「……」

次に意識がはっきりとしたのは、祐希の部屋ではなく自室だった。
体にはドロドロはついてなどいない。
シャワーを浴びて、ココまで連れて来られたような記憶はある。

ピー、ピー、ピー…

起きたのはIDの呼び出し音。
布団の上で鳴っているそのカードを手に取った。
表示されているのは、時刻と呼び出している人物の名前。
布団にうずくまりながら、俺は回線を開いた。

『おそよー、まだ睡眠中だった?』

「…今、起きる所だった。」

映る顔に答え、枕に顔を埋める。

『眠そうっすね、大丈夫っすか?』

「ああ……で、何か用があんだろ?」

『いや…特には…』

ボソボソと云うイクミに笑みが浮かんだ。

「おはよう、イクミ…」

『…おはようございますです。』

誰も知らない。
俺と祐希があんな事しているなんて。
誰も知らない。
誰も解りはしない。



そして俺も解らない。
祐希の傍にいこうとする理由、傍にいる意味。








先に置いてったのは、にいちゃんだろ。








チクリと何かが刺さって、それはすぐ友人の明るい声に消えた。
あとはいつもと同じ、日常が始まる。














(続)
文章の書き方は今に近いですかね?
つーか、あんま変わらない?

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