*+おしゃべりな瞳+*
―I love you―saying..?
ふつふつと沸き起こって
自分を絡めていく
そんな気がした
「あのー、昂治クン?」
「え?」
目の前にイクミの顔が広がる。
顰めている顔はオレに疑問を抱いている感じで
「何?」
いちおう聞いてみた。
「んにゃー、何かあったっけ?今日。」
「今から、おまえはブリッジに行くんだろ?」
「そーじゃなくてさ…うーん、」
言葉を濁すイクミに、首をかしげた。
どうかしたのだろうか?
「なんだよ、はっきりしろよ。」
「うん、はっきり言いますとー、何かありました?」
「何かって?」
びしっと指を鼻先に差される。
「昂治に、何かあったのかなぁーと思って。」
「なんで、そう思うんだよ。」
「いつもよりぼやーーーってしてるんだもん。」
唇に笑みを浮かべて云うイクミに、オレは応えようとした。
何もないよと。
唇が湿って
熱くて
これは何?
キス
「昂治?」
「な、なに、」
「真っ赤ですけどー、思い出し?」
首を振った。
忘れようと思った、いや忘れたフリをしていた記憶がまざまざと甦る。
ワケのわからない熱が体を取り巻いて、体が火照る。
相手は弟だ。
あの憎たらしいハズだった弟。
こんな感情はおかしい。
男に…
え、なに?
感情の一端が見えると、それは簡単に消えた。
理解をしようとしていた意識から遠ざかる。
「こうじぃ、無視しないでー。」
「あ、え?なんだよ。」
「あのさ、一人で考え込むの大変っしょ?相談のれるよ、こんな俺でも。」
イクミが眉を寄せて云う。
少し寂しそうな顔は、何というのだろうか。
大そうな言葉で言えば、母性本能がくすぐられる。
面倒を見てやりたい、そんな気分。
「ありがとな、」
微笑めば、イクミは笑みを返してきた。
胸があたたかいモノで満たされて、
とても心地が良い。
「で、悩みはなんでしょ?」
「…悩みなんて、ないよ。」
「そう?」
「そうだよ、」
あたたかくなった心は、ひどく落ち着かせる。
でも
さっきまで冷たかったワケじゃない。
たぶん
熱すぎた。
ピー、ピー
IDが急に鳴った。
オレはポケットから取り出して、呼び出しに出た。
『相葉君』
「…ユイリィさん、あの何か用でも?」
ユイリィさんからの呼び出しとは思わなかった。
驚いている顔をしたのだろう、相手が申し訳なさそうな顔をした。
『ごめんなさい…申し訳ないんだけど、ブリッジに来てくれないかしら?』
「ご用件はー?」
後ろからイクミが抱きつき、そう言った。
「イクミ、」
怒鳴るワケにもいかない。
語調を少し強めに言ったが、向こうはてんで無視だ。
『スフィクスのネーヤさんを呼んで欲しいの。今、調整する為に協力してほしくて。』
「ネーヤを?いいけど…来るか、わかんないけど、」
『来ると思うわ…あの、相葉君…ダメかしら?』
「いいよ、行く。」
『ありがとう。』
通信が少し間をおいて切れた。
ネーヤ…確かに呼べば来るけど。
それは皆もできる事だと思う。
ネーヤは応えてくれる。
断片的な答えを言葉に滲ませて。
「ブリッジか…ん?」
「どったの?」
「おまえ、ブリッジ行かなくていいのか?」
「…あ、忘れてましたー。」
人事のように云うイクミにため息が出た。
「忘れてたじゃないだろ…ったく、早く行くぞ。」
「ふあーーーい、」
肩に手を回したまま、歩きだす。
コイツ…こんなにくっついてくるヤツだったっけ?
何はともあれ、オレはブリッジに急いだ。
ブリッジにつき、中に入る。
「あ、ごめんなさい。急がせちゃって。」
入るなり、ユイリィさんが近寄ってきた。
よくわからないけれど、彼女には親近感がわく。
友だちとか、そういう馴れ馴れしいものじゃなくいけれど。
「いやいやー、大丈夫っすよ。」
イクミがひらひらと手を振って言った。
「おまえが云うなよ、」
「代弁してあげたんですv」
「あのな……」
周りを見渡せば、ユイリィさん以外誰もいなかった。
「あの、他の人たちは?」
「他の微調整の指揮に行ったわ。尾瀬君、来てすぐで悪いんだけど
リフト艦に急いでくれないかしら?」
「…んにゃ、わかった、」
オレから離れて、
「いってきまーす。」
そう言いながら、リフト艦へ走っていった。
「…あのさ、何かあったの?」
状況が少し慌しく思える。
何より、ココにユイリィさんしかいないのも不思議だ。
「各コントロールが微妙にずれるの…」
「そうなんだ、で、ネーヤを?」
「そう、ルクスンたちが探してるんだけど…」
「呼べば来ると思うけど、」
誰の声でも、ネーヤは聞こえるハズだ。
あのキレイな心で接してくれる。
「ネーヤ、」
普通の声の大きさで言った。
すぐに、ふわっとして――。
「なに?」
ネーヤが来た。
くるくると回って、オレの横に立つ。
「こうじ、何?お話、していいの?」
「…あ、お話は後だよ。先にユイリィさんの話聞いて。」
首を傾げて、ネーヤはユイリィさんを見た。
「ごめんなさい、艦内のコントロールが少しずれるの。
合わす事できないかしら?」
「……」
ネーヤが上へ手を伸ばした。
そして、下ろす。何もしていないようだけれど、何かしたのだと
なんとなくわかった。
ピー、ピー
呼び出し音が鳴る。
『ユイリィ、いますか?』
ヘイガーの声だ。
「え、ええ。いるわ。」
あわてて、デッキにユイリィさんが行く。
『コントロールのずれが直りましたが、やはりスフィクスのお陰でしょうか?』
「ええ、相葉君が読んでくれたわ。」
『そうですか、ではそちらに戻ります。他の方にも連絡を。』
「わかったわ。」
どうやら、一件落着したらしい。
オレは肩を下ろすと、隣りにネーヤが来た。
「どうしたんだ?」
「ココロ、ぐしゃぐしゃ…こうじ、悩んでる?」
「え…?」
「でも同じだよ、ココに来れば…会えると思った…?」
会えるって誰と?
急に浮かんだ思考に、くらくらした。
コントロールのずれ。
原因は政府が組み込もうとしたプログラムの所為らしい。
詳細はわからないけれど、誤作動をしたのは確かだ。
ネーヤが直したカタチになっていたが、細かい所は手作業になる。
オレもその作業に追われている。
特に手間がかかるヴァイタルガ―ダーのプログラムとかは連日、徹夜作業。
オレなんかは、今みたいに消灯時間には終わる程度だ。
イクミの疲れが目に見えて、何もできない自分が悔しくなる。
…祐希も疲れているだろうか…。
今日も会ってない。
前までは毎日、顔をあわしていたのに。
あの時から合っていない。
まざまざと思い出す記憶は、頬が熱くなる。
よくわからない、この感情は
祐希に会いたいなどと、思わせる。
別に悪いコトじゃない。
祐希に――弟なのだから会いたいとか思うの変じゃない・
けれど、仲違いしたままなのに。
どうして急にそう思うようになったのかが、変に思えた。
だっておかしいじゃないか。
アイツは好きだって言った。
このオレに。
キスをして、そして去っていった。
浮かぶ言葉は、また遠のく。
これの繰り返し。
応えが欲しいと思う。
答えなんかいらないと思う。
感情が二つ沸き起こって、少し混乱しているのは確か。
展望室。
ココは擬似映像だけれど、外の景色が見えて。
何となく安堵を覚える場所だ。
利用する人も少なくないハズだ。
けれど、今は恐いくらい誰もいなかった。
めずらしい…
ここにいるのは、オレだけ?
偶然なのだろうけれど、得した気分になる。
消灯時間まで、まだ時間がある。
少し、ココにいようか…そう思ったときだ。
片隅のベンチで寝ているヤツがいる。
…祐希!?
驚いた、正直。
まさかココで会うとは思わなかった。
「……」
たぶん、祐希が寝ていなかったら
情けないけど、走り去っていたと思う。
軽い寝息をたてて、普段じゃ予想されはしないだろう穏やかな顔で寝ていた。
どうしてココにいるのだろうか。
今日も徹夜だと、イクミが言っていた。
屈んで、祐希を覗き込んでみる。
前髪で影になってるけれど、目の下には明らかにクマができてる。
全体的に少し痩せた印象もあって……
「ん…ん…」
少し身じろいで、祐希の体が震えた。
そう言えば、少し寒いかもしれない。
起こした方がいいか、でも――
オレはブレザーを脱ぎ、そっと祐希にかけた。
息をつき、祐希の顔を見る。
……
キレイな顔してる。
睫毛長くて
触れれば
どんなに熱く
どんなにやわらかいだろう
どんなに心地いいだろう
触レタラ…触レタラ?
祐希の顔がぼやけて、
冷たい熱。
「……っ!?」
今、オレは何して…
唇にやわらかい感触。
いま、オレは祐希に何をした?
唇を押えた。
熱い。
熱い…
こんなの…こんなのって、
頭が真っ白になる。
くらくらとしてきて
オレは駆け出していた。
「……」
青い瞳を開け、
かけられたブレザーを握る。
息を吐けば、少し熱い。
オレは、そんな事知る由もない。
(続) |