*+おしゃべりな瞳+*

―You say love me..?







できるよ
やってみればいい

頭にそう響いた。




あいかわらずの日常。
あいかわらずの自分。
何も変わらない。
…わかってる、自分が変わろうとしてないんだ。
正確にはしようとしてるけど、行動に出していない。
ホント
馬鹿みたい。

でも

いつもふと思う。
変わろうとしている自分。何に変わろうとしているのだろうか。
胸に手をあてると、何故かスース−と風が通る感じがする。


バンッ


そんな音がするハズもないのに、耳に響く。
だいいち、声が聞こえているのがおかしいか。
打ち抜かれて、空っぽになった気がして、そして…なに?
ここで俺の自問が止まる。
答えられないからだ。自分のことなのに答えられないなんて。
イライラしてくる。
怒りじゃない、これは焦りだ。
何に対して焦りを感じているのか解らないけれど。

「昂治?どうしたんだ?」

え?

「こおじくーん、もしもーし。」

イクミの声がする
何処から…

「こ・お・じぃーーーー、」

「うわぁ!!!!」

「何ですかー、そんなに驚くなってヒドイっすよ。」

ブツブツと云う友人を睨む

「覗きこんでくるからだろっ、」

「だーって、昂治、俺の話聞いてくれないんだもん。」

「え…話してたのか?」

唇を尖がらせて、イクミは俺の服裾を掴み引っ張る。

「どーして昂治は、いつも聞いてくれないんすか?…尾瀬クン悲しいぃ。」

聞いてくれない?
確かに今はぼーっとしてたから聞いてなかったけど、
いつもってどういう事だ?

「イクミ、いつもって、」

「あにゃ?何て言うんでしょー、上の空って感じぃ?」

上の空?
そんなコトないよと返せば、イクミはハハッと軽く笑った。

「ま、いいけどねvこうじぃぃーーー!!」

「ぐあ!?苦しい!抱きつくなよ!!」

まとわりついてくるイクミを昂治は払う。

「冷たいのね、怠慢期?」

「怠慢期って…あのな、」

「えへー、結婚式あげたじゃぁない。」

「いつ挙げたよ…たくっ、そーいう冗談はキライだ、」

笑ったままのイクミを、ため息交じりで見る。
結婚なんて、だいいち男同士が出来るはずがない。
そう言えばココ数日、オレに告白してくる男がたくさんいる。
どういうつもりで揶揄いに来ているのだろうか、
最初は吃驚したけど慣れの所為か、その揶揄いや冗談も軽く返せるようになった。
いきなり飛びついてくるのは、あいかわらず鳥肌が立つけど。
オレを揶揄って何になるだろう。
おもしろいとか?
じゃあ、アイツも――

痛っ

胸の辺りが痛む。
何でだろう。
…祐希はオレを揶揄ってるんじゃない。
そう言い聞かすと、すぐに胸の痛みは消えた。
何でだろう。

祐希とはまだ、話をしていない。
毎日、瞳は会う。
声が聞こえる。

その声は、いつも同じだと最近になって気づいた。
簡単に表すなら、呼んでいる。
こっちへと誘っているみたいに、オレはそう聞こえてる。
違うだろうけど。

「昂治、まーた聞いてくれにゃい。」

「聞いてるよ、」

「…悩みごとでも、あるんすか?」

腕を頭の後ろに組んで、イクミが聞いてきた。
悩みごと…あるけどさ、

「ないよ、心配させちゃってごめんな。」

「んー、何かあったら教えてくださいな!ちょっとは役立つからさっ、」

にかっと笑うイクミにオレは苦笑いをした。

「すごく役立つよ、イクミは。」

けれど言えるわけない。

「もうダイナマイトはっぴーvそんなに頼りにしてもらってるなんて!」

「じゃ、さっそく。夕食おごってくれな。」

「…昂治クーン、それはないっしょー!」

言えるわけない。
言えるわけないじゃないか、
祐希の声が聞こえて、ずっと祐希のコトで頭がいっぱいで…困ってるなんて。








もうそろそろ今日が終わる。
あとは部屋に戻って、明日の仕度をして寝るだけだ。
そう言えば今日、祐希に会ってない。
……
別に待ち合わせてるわけじゃないのに、
会わないと、しっくりこない。
慣れってヤツかな。
周りの空気がふと変わった。

「…ネーヤ?」

その空気の持ち主を呼んでみた。

「当たり…だヨ。」

後ろからネーヤが抱き付いてくる。重さはなく、負担はかかってこなかった。

「かくれんぼ…こうじの勝ちだね。」

「ネーヤが隠れても、すぐ解っちゃうよ、」

「ドウシテ?」

ネーヤの腕に触れて、オレは顔を後ろへ向ける。

「雰囲気が…まわりの空気が変わるから、」

「そっか、ダカラかな…あのヒトも。」

「あのヒト?」

こくりと頷くだけでネーヤは“あのヒト”の名前を言わなかった。
ネーヤが覚えてない名前の人なのかもしれない。

「…こうじ、もやもやダヨ。」

「もやもや?」

「うん、でも…ネーヤがんばってみたヨ。」

「がんばる?」

「そう、こっち。こっち…、」

ふわりとネーヤが上に舞って、オレの前に立つと手を握ってくる。
そのまま前へ手を引いていった。
何処かに連れて行こうと…してるのかな?

「ネーヤ、どこ行くんだ?」

「近くだよ、すぐ…ソコ。」

確かに近くだった。
何も変哲のない部屋。
ココは会議とかに使われる部屋だった気がする。

「ネーヤ?」

「ココ。」

手を離し、ネーヤがドアを指差した。
中に入れってコトだよね。
ドアの前に立つと、シュンと音を立てて開く。
中は灯り点いていて、端にイスやテーブルが折りたたんで置いてあった。
何でココに?
と聞こうとした時、部屋の端に誰かがいるのに気づく。

「…ゆ…祐希、」

向こうもオレに気づいたようで、こっちを見てきた。
どうして…おまえが?

トンッ

「うわっ!?」

前に押された。
よろめいて、何とか転ぶのを耐えて後ろを振り返る。
微笑むネーヤがドアの所に立っていて

「お話…できるよ。」

「え?」

シュンとドアが閉まった。
閉まった?
まさかと思い、ドアの前に立つ。
反応がない。

「ちょっと、ネーヤ!!」

お話…したい。

大丈夫…同じだから、

ネーヤの声が頭に響き、次には彼女独特の雰囲気が消えた。
閉じ込められた。
それも…

「…アンタ、どーいうつもりだ、」

祐希とふたりっきりで。
オレは息をつき、振り返った。
すると端にいた祐希が近くに立っていたので、ちょっと驚く。

「ネーヤがさ…、」

「人を呼んといて、」

「呼ぶ?ネーヤが?」

ギロッと祐希が睨む。
少しオレは視線をずらしてソレを見た。

「アンタが呼んだだろ、」

呼んだ?
いつ?オレが祐希を……

「呼んでないよ…つーかさ、おまえ…、」

オレが呼んだって解ってるのに、ココに来たってこと?

「何だよ、」

「…たぶん、ネーヤだと思うよ。どーいうつもりか、わかんないけど。」

ふいっと祐希が目を逸らしたみたいで、オレも息をつきながら目を逸らす。
祐希の声を聞くのは久しぶりで、何となく変な感じだ。
静かになる。

お話…できるよ

ネーヤの声が頭に反芻する。
そうだよな。そうだよね。
いつまでも、悩んでいたくない。
息を呑みこんで、祐希の方を見た。

「祐希、」

すぐに瞳が向けられる。

あれ?

聞こえてこない。
どうしてだろうか…いつもなら、

「……、」

機嫌の悪そうな表情。

「…あのさ、」

「アンタが呼んだんじゃないのかよ、」

「え?ああ…ネーヤだと思う。」

遠まわしにオレが呼んだ事になるのかな。
ネーヤはオレの事を思って、呼んでくれたんだと思うし。
オレの言葉とともに、また一層に不機嫌そうな顔になった。

「祐希…あのさ、」

瞳が合って、射抜くように見られる。

「……」

「何だよ、」

息を吐いて

「どうして、オレを見るんだよ。」

言葉を出した。
向こうはふと目を逸らして、またオレを見た。

「関係ねぇだろ、」

関係ない?

「何言ってんだよ、関係あるに決まってるだろ。
毎日、毎日、おまえと目が合うんだ。」

そして声が届く。

「だからどうした、」

平然と返される。
どうしたと言われても困る。

「…俺をそんなに困らせたいのかよ、揶揄いたいのか?」

そう言うと、より一層に不機嫌な顔になった。
もう少し傍にいれば、きっと殴られている。

「ああ、そうだよ、」

押し殺したような声。



「俺は兄貴なんかキライなんだよ、」



だから困らせる。
だから揶揄う。

キライ?
嫌いか…だから、
部屋の灯りが消える。消灯の時間だ。
真っ暗で、相手の表情が解りにくくなる。

チカッ

何か煌いた。
それは祐希の瞳。

――兄貴、

――兄貴、好きだ

「え?」

声が聞こえてくる。
祐希の声。
気のせいか?だって、さっき嫌いだって言った。

――好き、

瞳がしゃべってる?
瞳が語ってる?
頭に直接響く、声は祐希のモノだ。

「好きってなんだよ!」

「はぁ?」

祐希が近づいてきた。
俺を見る。

――好き、好きだ

「何いってんだよ!」

「アンタこそ何いってんだ、頭でもおかしくしたか、」

祐希の声が頭の中を埋め尽くそうとする。
胸が痛い。
破裂しそうに心臓が早鐘を打ってる。
どうして?
わからない、わからない、わからないよ。

――兄貴、好きだ

この声は何処から?
瞳からだ。
祐希がオレを見るから
こんなにも解らないコトだらけになる。

「見るな…見るなよ!」

「あァ?」

流れこんでくるのは、何だ?

「オレを見るな!!見るな!見るな!見るなぁーーーー!!!」

祐希がオレを肩を掴む。

――兄貴、

わからない、わからないよ!
頭がおかしくなる。
おまえの声が
おまえの瞳が
オレを、おかしくさせる。
オレを変えようとする。
何に?

「離せ!ちょっと!!なんなんだよーーーー!!!」

「アンタ、何いってんだよ!」

「何でオレを見るんだ!何か言いたいなら口で言えよ!」

「さっき言っただろうが!」

「嫌いだったら見るなよ!!!オレを見るな!!」

叫んでた。
オレは叫んでいた。

ダンッ

壁にオレは叩きつけられた。
背中、後頭部…がジンジンと痛む。
目の前に祐希の瞳があった。

「俺はアンタを見る、」

言葉が出ない。

「アンタが何と言おうととな、」

煌き、揺らいで

「俺は…兄貴が…好きだから、」

――兄貴が大好き

え?

声が重なって
祐希の顔がぼやけて
唇に感触が…
感触?


「どーいう意味か、アンタでもわかるだろ、」

わかるって…今のは――

祐希の顔がまたぼやけて、

チュッ

可愛らしい音が頬からした。
頬から…?
そして、何事もなかったように祐希が離れていく。
ズルズルとオレは床に尻をついた。
軽く祐希は目を細めて、ドアの方へ歩いていく。
オレじゃ開かなかったドアはすぐに開き、祐希は何も言わず去っていった。
……
呆然としていたオレは唇に指をあてる。
湿っぽい。


「はは…俺…祐希と…」


キス…キスだよな…今の

思い起こせば

頬が熱くなって、脈拍が速くなった。









もうかなり前から、変わっていたのかもしれない。


そう今は思ってる。







(続)
i一人称は書きやすいです。
上手い下手関係なく。


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