*+おしゃべりな瞳+*

―What you want...?







わからない
それは何も言ってくれないから








もう、二週間めに入る。
何がというのは、祐希と会う事だ。
二週間。
通路、食堂…などあらゆる場所で、一日に一回は会う。
話をするわけではない。
ただ瞳が合う。
そして、

――兄貴、

声が聞こえる。
それはオレだけしか解らない声で、多分、空耳と言うヤツだと思った。
最初はね。
それが5回以上続けば、必然的に空耳ではないと解る。
耳がおかしくなったかと思って、医務室に行ったけれど以上はなかった。
これでちゃんと、空耳ではないと解った矢先、今度は違う難題が降りかかる。
何故、声が聞こえるのか
何故、祐希はオレを見るのか
そして、他に何かを言っている気がする
オレが最近、気づいたのはその声は瞳の揺らめきだと言う事。
声じゃなくて、言っている気がする。
そんな感じの曖昧な感覚。
以心伝心
オレ達みたいな仲違いしたままの兄弟に使うのも、あれだけど、言うなればそんな感じだ。
もしかしたら、
そう、もしかしたら、他に言っている事が解れば理由が解るかもしれない。
理由。
どうしてオマエはオレを見てくるんだ?
こんなの、オレが兄として話を持ちかければいい。話をしようとすればいい。
もっと自分から歩み寄れば…。
できないと思うのは、自分の弱さだ。これは認めなくてはいけない。
そう云えば、今日はまだ会ってないな。
……
別に、待ち合わせしたワケじゃないんだ。
……
オレがため息をついた時、ふと視界にメタルピンクが広がる。

「…ネーヤ?」

「うん、」

しがみつかれていた。
重力制御ができるらしくて、体重を感じない。
ネーヤはふっと降り立って、腕を回してきた。

「元気、ないの?」

「そんなコトないけど、」

よかったと微笑む。
ネーヤは可愛い。
こうふわっとしてて、妹みたいな感じがする。
実際、こんな妹がいたら…なんて思ったけれど、

「いもうと?」

「あ、ごめん。」

「ううん、いもうと、妹!こうじと一緒、」

彼女は心が解る。
恐く感じるかと思っていた自分。けれど、恐怖とかそんなのなくて、ただ感心する。

「こうじ、ほわほわ。」

「ほわほわ?ああ、ほわほわか…ふわっとした?」

「うーん、ほわんってしたよ。でも、今はふわふわ。」

「そっか…でも俺といて、ふわふわするか?」

「うん。一番、ふわふわ。」

「ありがと、」

ネーヤとの会話は難しいと誰か言っていた。科学者の人もそう言ってたっけ。
でも解る。
言いたいコトが伝えたい事が、胸の中に響いて。
そんなに長く過ごしていないのに、はっきりと鮮明に…どうかと、口で説明しろと言われると
困るけれど認識できた。


「ユウキも、こうだったらイイのに、」


ネーヤが笑った。

「え?」

間の抜けた声が出た。

「わからない、わからない…なにが、言いたいんダ?ユウキ、」

「…オレのキモチを言ってるんだね、」

ため息が出る。寄り添ってくるネーヤを見て、上を仰いだ。

「こうじ、」

「ん?」

腕に頬を寄せて、上目で見てくる。

「わかるよ、こうじだもの。」

その言葉に笑いがこみ上げた。
そんなわけない。
そんなの買いかぶりすぎだよ。
オレは解らない。

「こうじ、今ネーヤどう思ってる?」

微笑むネーヤ。

「楽しい?」

こくりと頷く。

「嬉しい?」

こくこくと頷く。

「もっと話がしたい?」

そう言うと、にこっと笑って上に浮き上がった。それを目で追うと、ネーヤは目の前に立った。

「そうだよ、こうじ。アタリだよ。ホラ、わかるよ。」

「…それは…、」

微笑んで、そのままネーヤは抱きついてきた。

「そのヒトの気持ち。そう感じるから、キモチなんじゃないかな?」

「…かんじる?」

「そうだヨ、こうじ…見るから伝わる…わかる、」

ふわっと舞い上がって、額に手を当てた。

ちゅっ

そんな音がした。
キス?されたのかな…額に。

「それがアノヒトのキモチ…わかる、わかるよ…だって、こうじは、」


声ガ聞コエタ


直接、胸の中に響く声と一緒にネーヤは消えた。
わかる?
アイツの言いたいコトが?
何も言わないのに……、
感じたキモチがその人の気持ちなんて、自分勝手な感じもする。
それは思い込みに近いから。けれど、そうかもしれないと思う。不確かだけど。
キモチなんて、その人のもので、自身でも解らない時もある。
それが相手にはっきりと解るワケがない。
でも、こうやって、いるコトができるのは、自分の思っていることが相手に解るから。
キモチは言葉では表せないものだから。
そう感じたキモチは、自分に伝わった相手の気持ち。

「…悩む必要なんて、なかったな。」

伝わったキモチを返せばいい。
まちがっているなら、そう反応を伝えてくるはずだから。
額に手を当てた。
キス。
あたたかい何かに囲まれるような気分。
なんか、おまもりみたいだな。

ありがとう、ネーヤ。



「昂治ぃ〜〜!」

さっきの通路より人が多くなった。ここは頻繁に使われる通路だからだろう。
イクミが手を振ってこっちに来る。
なんでだろう、イクミはオレ見るとすごく嬉しそうな顔するんだろ。

「うにゃー、どこ行ってたんですぅ?」

「え、まあ…ネーヤと会ってた。」

「また?ホント、懐いてますねぇ。」

「オマエより、よっぽど可愛げあるよ。」

「あーひどい!いいすぎっしょ!!」

泣きマネをするイクミに呆れていた時、ふと自然に視線が上にいった。
上にも当然、通路があって、そこに

祐希…

また見ている。
そして、

――兄貴…。

響く声のような波動。
他にも何か言ってるのが解る。
それが何かは解らないけれど、ネーヤが教えてくれた。

そう感じるから、キモチじゃないかな?

自意識過剰かもしれない。
けれど、オレにはそう伝わったんだ。
笑う。
微笑んでみた。
オレはこう伝わったと、表情で返してみる。
少し遠いので、表情は細かく解らないけれど睨まれた気がする。
間違えたかもしれない。
でも聞こえる声は棘々しくなく、包み込まれるような感じだったから。
だから笑ったのだけれど、嬉しいよって。
ゆっくり祐希の手が上げられるのが目に入った。
それはオレに向けられ、

バンッ

撃たれた。
指が撃つように動かされた。

あ……

祐希は去っていく。

足から力が抜けた。
へなへなとオレは尻をつく。

「おい!?どうしたんだ!!」

「え…いや…その、なにも。」

心臓がバクバクしている。どうしたんだろうか。

「昂治、ほら!」

手が差し伸べられ、それを掴み立とうとするが出来なかった。
オレは腰が抜けていた。






祐希、祐希、祐希…

頭の中にオマエだけが広がる。

撃たれた。

そんな感じで、オマエの事を考えないと空っぽな感じがする。

心を撃ち抜いたみたいに。


なんだよ…これは。

このキモチは

なんだ?



オマエは何がしたいんだよ

オレは何がしたいんだ?







今日もオレは祐希と瞳が会う。







(続)
祐希の真面目な顔、好きですね…はい。
ばっきゅんこ、ですね。ばっきゅんこ。

>>back