*+おしゃべりな瞳+*

―I miss you...?







何も言わない。
何も告げない。






幼なじみの彼女は言った。

「仲直りしたの?」

仲直り…はしていないと思う。
無意味なケンカはしなくなったとは云え、相変わらず溝はまだある。
仕方がない。
離れている事が当たり前になっていたから。
だから、変わろう。近づいて、少しは笑いあえればいい。
そう、思っている。
そう、しようと考えている。
無理なのは承知なのだけれど。
だから、リヴァイアスに乗っている聞いた時は、嬉しかった。
何が?
解らないけれど、嬉しかった。





「昂治、こうじぃ〜?」

話し掛けられる。
イクミだ。
まだ少し気にしているようだけど、普通に接せるようになった。
ともだち。
多分、一生ものの友人を手に入れたと思う。

「なに、なんかあったのか?」

「んにゃ、特にないっスけどぉ。ご一緒に行きません?」

「どうせ、一緒だろ、」

肩のお陰で、オレは実地が少し変わった。
必然的にイクミとはパートナーにならないハズだったけれど、オレの意地とイクミの我が侭でパートナーになった。
負担はあるけれど、迷惑かけているけれど、特別待遇は嫌だから。
通常通りにカリキュラムをこなしている。
疲れるけど。

「もー、大変です。なんかねー、ほら俺もてるからさ。」

「自分で言うなよ、」

冗談を言えるほど回復した。
そう、どっかから聞いた。どうやら精神科の病院に通院してたみたいだ。
でも大丈夫だよな。
ちょうど、他愛のない会話をしていた時だ。
人が行き交いする通路。
紛れて、いいや紛れることなく、奥の方に人が立っている。
細身でけれど、力があって、何でも出来て…。
祐希、
壁に寄りかかるように立っていた。
誰かを待ってるんだろうか、何を見るふうでもなく、立っていた。
会うのは久しぶり。
ここに乗って、初めてじゃないか?

「あ、祐希だな…どうすんの?」

「え?」

間の抜けた自分の声が情けない。イクミが聞いてきた事は何となく解る。
仲直りしました?
祐希と話す?
その辺だろう。勝手に決めて悪いけど。
さて、どうしようか。
ケンカにならないと思うけれど、なったら困る。それは極力避けたい。
無視をする。
それも嫌な感じだ。向き合いたいと思っているワケだし、意味がない。
けれど何を話せばいいか解らない。
それが現実で、涙が出るほど情けなかった。
兄である自分。
何かしようとする。弟とう云う存在に何か、何かをって。けれど、もうそれは必要ないって把握している。
これも現実。

「昂治くーん、もしもーし。」

意識をぼやーっとさせていたみたいだ。軽く笑って、足を動かし始めた。
ここは通路。しかも人通りが多い。広いし。
祐希は目立つから紛れる事はないけれど、オレはこの中に簡単に紛れてしまうだろう。

「昂治、質問の答えは?」

「うん…気づいたら、気づいたで。」

何を話せばいいか解らない。話したくないワケじゃなくて、たぶん話したいのだろうけど。
相手の都合もある。無理に話したって、イラツクだけだ。
ゆっくりでいい。
だから、今日は見るだけ。

「………、」

壁に寄りかかっていた祐希が腕を組む。
そして、視線を横に向けた。
誰か見つけたのかな?
いや、違う。誰かを見ている。瞳が動いている。その誰かに合わせて。
あれ…オレを見てるのか?
オレの歩きと、祐希の瞳の動きが合う。
青い瞳。
自分の瞳と会う。
あ、え…なに?

――兄貴、

声?

「昂治、前!!」

「ぅえ!?」

ドンっと鈍い音がした。鼻打ったよ、絶対。
通路の角に顔面ぶつけるなんて、何て古典的だろう。鼻を擦りながら、横のイクミを見る。

「あ…大丈夫か?」

「…ああ…笑うなよ、」

堪えている顔だ。指摘すると、イクミは肩をポンポンと叩きながら笑い出した。

「あははは、いやー、マジ、昂治かわいい∨」

大声で笑われた。

「かわいいって何だよ!!」

「ははは、え?もう、かわいすぎっしょ、」

イクミが何をカワイイと云っているのか解らなかった。バカにしているようにも思えたけど。
ふと見ると、祐希はもういなかった。
見ていただろうから、何か言われると思っていたが。
待ち合わせてた人が来たか、呆れてか。去っていったみたいだ。

「いい加減、笑うの止めろ!!」

「あー、悪いですぅ!」

ようやく笑いを止めたイクミにオレは聞いた。

「あのさ、俺、呼ばれたよな?」

目を点とさせ、首を捻られる。

「誰に?」

「聞こえなかったのか?」

こくりと頷かれた。深く追求する事もないので、オレは先を急ごうと促した。
空耳か。
祐希の声が聞こえた気がした。
確かに、聞こえた。




気のせいではなかったみたいだ。




それからほぼ毎日、オレは祐希と会う。
会うと云うより、出くわすと言った方が正しいかもしれない。
話そうと思うのだけれど、拒絶に近い空気を感じられて。
いや、逃げてるのか…まだオレは。
話さない。
ただ、瞳を合わすだけだ。
強い眼差し。女の子は、ああいう視線に弱いのだろう。紛れているハズのオレに祐希は瞳を向ける。

――兄貴、

まただ。声が聞こえる。
それは祐希の声で、確かに聞こえる。
違う、聞こえるような気がするだ。祐希の口は現に動いていない。

瞳が話している。

話し掛けている。

オレに?

他に何かを言っている気がした。
けれど解らない。
何より、なぜ瞳を合わしてくるの解らない。
それにしても、おかしいかもしれない。前だったら、いなくなれ…なんて思っていたのに。
今じゃ、祐希の事ばかり考えている。年がら年中ってワケでもないけど。
祐希が見えなくなる。オレが歩いているからだけれど、立ち止まって振り返る。
もしかしたら、解るかもしれない。
何がかははっきりしないけど、だがもうソコには祐希はいなかった。

今なんか変な感じだ。


置いてかれたみたいな。
さみしいなんて、言葉が合いそうな感覚だ。

オマエがいなくて、さみしい?




変だな、オレ…どうしたんだろ。










アナタは何も言わない。
話さない。






(続)
目は口より物を言う…みたいな?


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