***神風メイド鬼憚***
第八録:滴る蜜、甘い疼き
鬼とは狂い醜き姿にて本能に蠢く者なり。
神とは清き姿にて万全なる力を持つ者なり。
人とは愚かな救いを求める罪深き者なり。
神は鬼を見放し
鬼が人を喰らい
人は鬼を狩る――そんな時代。
お願い。
お願いだから……
血が視界いっぱいに広がったように思えた。
白のエプロンに滲み、赤黒の服にさえ映えるほどに血が滲む。
呼気をしているのか、していないのかも見ただけではワカラナイほど。
名を呼んでも、体を揺すっても
(怖い…)
怖い、怖い、怖い、怖い、怖い。
イヤだ、嫌だ、嫌だ。
何が?
闇と花散る場所に昴治は身を抱えるようにして蹲る。
咽喉が鳴り、声は出ずにただ震えた。
「……」
昴治は顔を上げ、上を見つめる。
何処までも続く闇からは花びらが途絶える事なく降り続けている。
「……出してくれ…ここから…」
立ち上がり、拳を握った。
「ここから、出せーーーーーー!!!!」
叫ぶと頭痛が貫き、そして視界がぐにゃりと歪む。
花びらが嵐となり、昴治を包んだ。
パシンッ
「っ!?」
バチリと目を開く。
上は見慣れた部屋の天井。
(出れた!)
昴治は身を起こし、胸元に触れる。
確かに自分の身で“彼”の云う“外”だった。
寝ていたのだろうか。
大きめのワイシャツにズボンという軽装だった。
「…夢……」
(そんなワケない、)
口から出た言葉を自分自身で打ち消し、昴治は立ち上がる。
部屋の襖を開き、飛び出そうとするのだが部屋の前にはイクミが立っていた。
少しデザインの違うメイド服とそしていつもと変わらない表情。
「…昴治さま…びっくりしたです。」
「イクミ……イクミ、平気なのか!!!」
「ほえ?あーー大丈夫ですよー。俺って頑丈だし♪」
「イクミ!!」
昴治がイクミの肩に手を置き、じっと見る。
それに相手は破顔した。
「大丈夫です……。」
「……祐希は?祐希は!!」
「すぐ止血しましたし。祐希クンも頑丈ですから大した事ないですですー。」
「何が、何で、なんなんだよ!!!」
声を張り上げ、自分でも何を言っているのか解っていないようだった。
それほど感情を高潮させているのだろう。
けれどそれを止めるかのようにイクミが昴治の唇に人差し指を当てた。
「大丈夫です、大丈夫なんですよ。祐希は大事を見て…俺が看病しますから……
明日になれば…元気に短気な祐希クンが見れます、」
「イクミ!」
「もう夕食とお風呂も終えましたし、おやすみになってくださいです。」
にっこりとイクミは微笑んで言った。
それは否応もなく、そうして下さいと言っているようだった。
昴治は俯き、肩から手を離す。
「…ありがとうございます……おやすみ、昴治さま。」
そう謂い、イクミは昴治を押すように部屋へ戻した。
目の前で襖が閉められ、昴治は俯く。
自分の性質に嫌気を感じていた。
ペタリと座り込み、そのままじっとする。
カチ、カチ、カチ……
過ぎ行く秒針の音をどれくらい聞いただろうか。
昴治はゆっくりと立ち上がった。
襖を開け、周りを見渡し廊下を歩き始める。
夜に映える桜は相変わらず咲き乱れ、そして散っていた。
ちょうど渡り廊下の所だ。
「昴治様、何処行くんですか?」
「え?」
振り向くとファイナが立っている。
メイド服の上に藍のストールを羽織り、手には何かを持っていた。
昴治は苦く笑い、そして言葉にする。
「咽喉が渇いて…」
「台所はこっちよ?」
相変わらず嘘が下手だった。
何とかイイワケを昴治は考える。
祐希の様子をこの瞳で見たい。
けれど何故だろうか、他の者に云うとなれば必ずとも阻止されてしまうような気がした。
そう、先程のイクミにさえ。
意地悪をされているワケではない。
何かを隠すような、小さくけれど強い何かで。
「尾瀬君は寝かせたわ。あの体じゃ、看病は無理だもの。」
「…え…大丈夫なのか!」
「ええ。一緒に…と思ったんだけど、さすがに手に負えないみたい。
昴治様には大変申し訳ないんだけれど。」
ファイナは赤の瞳を揺らめかせ、そして持っていた何かを差し出した。
それは小さな洗面器に水がはってあり、中に小さなタオルが入っている。
「寝汗を拭いてあげてください。」
そう云ってファイナは身を翻した。
「ファイナ…」
「いつでも私はアナタの味方……それが全て。」
瞳だけ向けてそう謂い、後は振り返らずスタスタと歩いていった。
消えた背を見て、そしてたゆたう水を見る。
それは小さく指し示された了承だった。
昴治はきゅっと口を引き締め、廊下を足早に歩き出す。
いくつかの渡り廊下を過ぎ、階段を上ってすぐにその部屋はあった。
障子を前でコクンと咽喉を鳴らし、そしてゆっくりと昴治は開ける。
中は燈籠で淡く明るかった。
部屋の中央、畳の上に布団が敷かれその上に祐希は寝かされている。
駆け寄り、そして膝をついて顔を覗きこむ。
左頬と瞳を覆うように包帯が巻かれ、静かな寝息を吐いていた。
フリルのカチュウシャは取られているが、赤椿の髪飾りはそのままだ。
「……」
昴治は息を吐き、持っている洗面器を横に置く。
(良かった…)
自分と云う意識があったまでの記憶。
そこでは彼が生きているという感じがなかった。
だが目の前の彼は痛々しいけれども、生きていると実感させられる。
このままゆっくりと寝かせておこう。
そう思いながら、相手の頭にそっと触れた。
(何が…どうして……)
得体の知れぬ物が自分を襲ったのか。
そしてどうしてイクミも祐希も自分の身を投げ打ってまで、守ろうとするのか。
解らない事だらけだった。
ゆっくりと昴治は祐希の頭を撫でる。
当たり前のように、何の反応はなかった。
聞こえるのは小さな寝息。
もし、このまま…
「っ、」
昴治は息を詰まらせ、咽喉をひゅっと鳴らす。
頭を撫でていた手で肩に触れた。
もし、このまま…目を覚まさなかったら…
漠然と浮かぶ思考。
それは昴治の内部を掻き乱す。
ゆっくりと寝かせて、安静にしておくのが相手にとって最善の事だろう。
けれどすぐに、その瞳を開けて欲しかった。
「祐希…祐希、祐希、」
名を呼び、そっと揺らす。
反応のない彼に、狂い出しそうだった。
――……オマエは誰か好む…愛する者はいるか?
(ああ、いるよ。今なら応えられる、)
「祐希、」
強く相手の名を呼んだ。
すると目元がピクリと動き、そしてゆっくりと瞳が開く。
ぱっと昴治の表情は思いつめたものから、穏やかに破顔した。
「……」
瞳を開いた彼は瞳を動かし、肩に触れている昴治を見た。
「……何でアンタがいるんだよ、」
表情を険しくさせ、そして吐くように祐希は謂った。
すぐに体は大丈夫なのかと聞こうとした昴治の喉奥は震えるばかりで、音が出ない。
「おい、聞いてんのか…っ…」
肩に触れていた昴治の手を掴み起き上がる祐希はけれど、ふらりと揺れて昴治の身を引く事になった。
近づく体と体。
(っ……)
昴治の頭の中で映像が浮かぶ。
『彼』が見せたあの映像が――
触れて欲しい
触れて欲しい
誰ニ?
触れて欲しい
誰ニ?
触れて欲しい、今すぐに
誰に?
祐希に、
相手の肩を掴んだまま昴治は顔を近づけた。
そっと祐希の唇に触れ、震える体と共に首に腕を回す。
赤くなる頬を隠すように肩に顔を埋めた。
見せられたあの行為の時の自分――蜜月は強い口調で淫らな事を謂い、誘っている。
当然、思考は違うにしろ『彼』は自分だ。
「……触れて…」
声が震えないように昴治は強く言った。
怪我を考えれば無理な事を言っている。
いけない事だと解っていても、今は触れて欲しいを強く感じる。
このどうしようもない、不安と愛しさが…
「いつものように、」
神経がはち切れそうそうだった。
経験のない昴治の意志としては、最大限の誘いだ。
暫くして祐希の手が自分の腕に触れる。
それに促されるように、昴治は埋めていた顔を上げた。
表情のない祐希の顔が映る。
震えるよりも早く、祐希が齧り付くように口付けしてきた。
「んっ!?」
荒々しく口腔を貪り、強張る体ごと押し倒される。
布団の感触と打ち付けられた傷みが背中に伝わった。
触れて貰えるという歓喜の前に、恐怖が横たわる。
唇を離し、唾液で少し祐希の唇が濡れていた。
煌く瞳は揺らぎ、暗く自分を映してはいない。
「ゆ、祐希…」
体が震え出した。
覆い被さる祐希は昴治の襟元を掴み、
ビリリッ!
左右に開くように服を破った。
近づく体に昴治は目を見開き、
「い、いや、いやだーーー!!!!」
叫んでいた。
そしてを噛み、瞳をぎゅっと閉じる。
「バカだな、アンタは相変わらず。」
次の行為はされる事なく、突き放すかのように祐希が身を離した。
ゆっくりと瞳を開き、昴治は相手を見る。
見下す表情で祐希は見ていた。
「いつものようにだって?誰がアンタなんか触るかよ。
アンタの下僕じゃなければ、とっくにアンタなんか見捨ててるぜ!」
瞳が見開かれるのを見えないように、祐希は目を逸らした。
「気色悪ぃ、とっとと失せろ!」
祐希は目を伏せた。
傷つける言葉しか出てこない自分に奥歯を噛む。
(アイツなら…上手くやっただろうな……、)
拳を握り、そして相手の反応を待つ。
どう言う心情で謂ったのかは解らないが、
説教のような言葉と同じく暴言が返ってくるだろうと祐希は思っていた。
「…た…くせに……」
ボソボソと呟く相手に睨むような視線を向ける。
押し倒されていた昴治は瞳に涙を浮かべ怒った表情で起き上がった。
「触ってた癖に!!!」
「な、何言ってやが……」
「違うとは言わせない!!俺は知ってる!!知ってんだ!!!
アイツが…アイツが、蜜月が!!!」
「っ!?」
ビクッと祐希の体が震える。
困惑する祐希とは逆に昴治の口は饒舌になっていく。
(なんで…知って……)
祐希は怒る昴治を見た。
相手は嘘をつけないと重々承知している。
だから、彼の言った事は本当なのだろう。
「蜜月が教えてくれた、アイツは何なのか…俺には解らない…けど、けど!!」
「蜜月って何だ、何言ってやがるか理解できねぇな!」
祐希は抑えつけるかのように怒鳴った。
何を言っているのか知っている。
けれど敢えて祐希はそう云ったのだ。
もう何も言わせない為に。
だが、向こうは開いた瞳からボロボロと涙を零し始めただけだった。
「蜜月ならいいのか!蜜月だったら触るのか!!
俺の体なのに、俺だったらいけないのか!!
いけない事だって解ってる…でも、祐希に触れて欲しいって思ったから!!!」
アナタハ何モ知ラナイカラ、ソンナ事ガ謂エルンダ
「それでキモチワルイって?散々触れた癖に!!」
コノ気持ちサエ、アナタハ知ラナイカラ…
「っざけんな!ふざけるな!ふざけるな!!!!」
癇癪を起こす子供のように昴治は喚き散らした。
もう既に怒りの所為か、言葉も余り意味をなしていない。
祐希は腕を伸ばし、頬に触れた。
「触るな!!」
「……」
涙で濡れる頬に触れると、昴治が手を払った。
祐希は気にする事なく、相手の体を抱き寄せる。
もがき暴れる体を押さえ込むように強く懐に抱きいれた。
(今日は…力を使い過ぎた……月は新月……)
暴れる昴治の動きが止まったのは、左頬と瞳を覆い隠す包帯が緩んだ時だった。
一転して気遣うような気配はけれど、すぐに驚愕しているようだ。
祐希はうっすら唇に笑みを浮かべる。
傷がある筈の左顔は綺麗なままで、ぱちりと瞳が開いてたのだ。
「なぁ…アンタは俺に触れて欲しいのか?」
「…っ……」
覗き込むと顔を上げた昴治の瞳と会う。
戦慄いている唇を見て、祐希は言葉を変えた。
「アンタに俺が触れていいのか?」
「……」
先程との態度の違いに気づいたのだろう。
昴治はメイド服の胸元を掴み、こくりと頷いた。
「じゃあ…約束してくれ……」
「?」
自分が今、どんな表情をしているか把握できて祐希は内心で自嘲する。
「明日になったら、今からする事を全部忘れる…何もなかった…事にする。
いつも通りに……そして、何も聞かない。理由も、全て――約束できるか?」
何故かとは聞いてはいけないように思わせた。
それは祐希の思い詰めたような表情の所為もあるだろう。
何よりも触れて欲しいという強い想いが強かった。
目を伏せ、頷く昴治に祐希は安堵したようである。
「約束…だぜ?」
片手を差し出し、祐希は小指を立てた。
子供のような仕草に昴治は笑みを浮かべ、その小指に自分の小指を絡める。
数回振り、祐希は小指を離した。
すっと立ち上がり、祐希は髪飾りに触れる。
ゆっくりと赤椿の髪飾りを外し、隅にある机の上に置いた。
目を顰めている昴治に軽く苦笑いをし、布団の上に座ったままの昴治の前に
スカートをふわりと広げるように座る。
「祐希…?」
「……約束、忘れるなんよ……兄貴…」
「っ……」
兄と呼んだ事に驚いたようだ。
相手の肩を掴み、顔を近づける。
「俺に呼ばれんの、嫌か?こうじサマの方がいいか?」
「いや…その、ただ驚いただけだ……」
そっと祐希は唇に触れた。
震える体をゆっくりと布団の上に倒し、覆い被さる。
先程の行為が少し恐怖を煽っているのかもしれない。
頬を撫でる手に目を薄っすらと閉じようとする昴治の瞳がパチリと開いた。
「怪我…怪我、大丈夫なのか!?」
「もう傷痕もない、そういう体だから。」
「どうし…て……」
問う唇に人差し指を当てた。
すると『約束』を思い出したのだろう、昴治は言葉を濁す。
「ゆうき……んぅっ!」
触れるようなキスから少し激しいものにする。
ビクビクと震える体を抱きしめ、唇を少し離した。
「俺の舌に兄貴の舌…絡めてみろよ。」
頬を染める昴治の表情は怯えが少し混ざっていた。
唇をゆっくりと咥えこみ、そして閉じる唇を割って口腔に舌を入れる。
「ん、んう……んん…はぅ…む……」
数秒の躊躇の後、昴治の舌が祐希の舌におずおずと触れてきた。
蜜月ならあんなに上手な舌の動きも、今の昴治ではそれの印象さえ与えない。
くちゅりと音をたて、服を掴む手が強くなるのを見た。
「はぁ……息は鼻でしろよ、」
「……そんな……んっ、」
息を奪うほど祐希は口付けた。
逃げようとせず、ひたすら耐えようとしているのが印象的である。
先程破った服の合間から手を差し入れ、少し柔らかい胸に触れた。
唇を離し、顔を覗けば瞳が涙で滲み頬が赤く染まっている。
少し訴えようとしている表情に祐希は笑みを零した。
「な…なんだよ、」
「…いや…別に……」
そのまま少女のモノを揉むように手をこね動かす。
頬を染めながら、目を瞑った昴治の口から吐息が零れた。
「んくっ……」
震え出す体を気にしないかのように、そのまま淡く色づく乳首を抓る。
「ふあっ、…いたっ…!」
背が反り、少し体が浮く。
さらりと首筋に祐希の髪が落ちた。
「ふぅ、あっあ……ぁ……んーーっ、」
唇を噛み、声を消そうとする昴治に祐希は瞳を向けた。
「声、我慢すんなよ…」
「……」
「兄貴?」
「……蜜月は…声、我慢してなかった…のか?」
「……まぁ…してなかったけど…それが?」
昴治は瞳を伏せ、そして軽く口を開ける。
相手の質問に眉を顰めながら、祐希は胸に唇を寄せた。
ふるっと体が震える。
「っ…ん……ぁ…あ、」
漏れる吐息に耳を澄ませて、祐希は少し強めに乳首を吸った。
「ひゃあ、あっ…あ、ふぅああ、」
見れば表情を真っ赤にさせ、声を漏らす昴治の姿が見える。
声を我慢しない事で羞恥が身に取り巻いているのだろう。
胸に唇を寄せたまま、下肢に手を伸ばした。
「っ…ゆ…祐希、」
「…ん?」
「知ってる…よな?」
「……ああ、」
何がとは聞かない。
「そ…うか……」
軽い安堵を昴治の表情から汲み取る。
昴治が問いたかったのは、自分の下肢に対しての事だろう。
ゆっくりとズボンを下着ごと脱がし、モノに触れた。
既に感じている硬度の増したそれを辿り、少女の割れ目に近い女性器に祐希は指を突き入れた。
きちゅ、
「っ、いたっ…い!?」
「あ…え?」
祐希は目をパチパチさせる。
見える昴治の顔は苦痛で歪んでいた。
「い…いた……い……」
「……」
内面が違うと体も変わるのか。
祐希はそっと指を抜き、昴治を抱きしめるように覆い被さった。
ふわりとメイド服のスカートが広がる。
「…兄貴…舐めていいか?」
「舐め…るって……、」
「あんまり濡れないから…痛いんだろ?指じゃ、」
「……」
黙る昴治に軽くキスをすると、昴治は瞳を揺れさせながらも頷いた。
それにゆったりと微笑み、体の中心を辿るように舌を這わす。
「ひぅ…ぅ……」
くすぐったいのだろう。
軽く身じろぐ腰を掴み、膝を顔につけるかのように昴治の体を曲げさせた。
真っ赤になる相手を見ながら、割れ目に祐希は舌を這わす。
「んあ!?」
ビクンと震える。
カタチをなぞるだけの動きだが、感じるようだった。
「あ、や、やあっ…やっぱ、ダメだ……っ」
「何でだ?」
「ふああ、あっあ…あ……」
脚を戻すにも祐希の手で押さえられている為、布団に当たるだけだった。
昴治は両手で顔を隠すように覆う。
「んっ!ん…ふぅぅ…あ、あっあ……」
舌の動きにあわすかのように、透明な雫が零れてくる。
濡れてきているが、やはり蜜月の時よりは若干少ないように思われた。
なぞって舌をちゅぷりと中に入れる。
「いや、だめぇぇ……んあっう……あぁあっ…」
狭くなっている場所を解すように舌を動かす。
鼻腔にむっと甘い匂いが入り込んできた。
その匂いは嗅ぎなれたモノであるが、いつも自分を狂わす匂いだった。
「いや、いやっあ…あ、舌…中…ダメ…あんっ、」
「じゅくじゅく…だぜ?ダメじゃ…ねぇんだろ?」
くちゅ、ちゅぷ、
音を立てるように舌を抜き差し始める。
首を左右に振り、顔を覆っていた手は布団を掴んでいた。
「だめ…ん、ん…あっ…ぁ…やあ……や!」
「…やめるか?」
舌を中から出し、股の間から昴治を覗く。
一瞬落胆したかのような表情になり、続けて真っ赤になり怒ったような表情になった。
それでも動かず、見たままの相手に眉を泣きそうに寄せる。
シーツを掴んでいた手が自分の太股を掴んだ。
「兄貴…?」
「……はぁ…はぁ…」
深呼吸をし、意を決したかのような顔になって太股を掴んだ手が股を開かせるように動いた。
言葉で表すのはあまりにも恥ずかしく、行為で示したのだ。
行為で示す方が恥ずかしいなどとは昴治は知らないのだろう。
「濡れてる…とろとろだな、兄貴。」
「っ、」
息を呑んだのが聞こえる。
「指…もう入りそうだ。」
「……んぅ!?」
曲げられた状態の昴治を引き寄せると脚が宙を掻く。
指を上から入れるように突き入れると難なく内部に入った。
「…2本…いけそうだな、」
「っく…くるし……いから…」
「……俺のはそんなに小さくないぜ?せいぜい指が3本は入らないとな。」
「っあ……」
ここに自分のモノを入れるという含みが混じった言葉に昴治は吐息を零した。
興奮しているのだろう。
「ふぅ、うう……はぁ、あ…ん、」
くちゅ、ちゅぶ…
昴治が痛がるのが解るくらいに、締め付けが強く中は狭かった。
汚してはいけないと、躯で知らしめているようだった。
「はう、う……ん、やっ!?」
「やっと3本…もう少し、いけんじゃねぇ?」
「無理…無理…くぅ……」
トロトロと蜜が零れる。
モノから先走りが零れて昴治のお腹を汚していた。
「はぁ、あ…ん、んん……」
「……兄貴…」
指を引き抜き、息を零した昴治を眺める。
かなり祐希も興奮しているようだ。
自制が上手く効かないところまで来ているのがよく解る。
昴治の脚を下ろさせ、自分の脇に抱えるように置いた。
「あ……」
スカートを捲り、ガーダーベルトの見える素足が見える。
そこからモノを引き出し、それを割れ目に当てられたのが昴治にも解った。
入レラレル
犯サレル
侵サレル
「兄貴…いいか?悪い、限界……」
「い…痛いかな?やっぱり………」
「苦しいだけだ。力抜けよ。」
コクリと頷き、目をぎゅっと瞑る昴治はカチンコチンに硬くなっていた。
祐希は苦笑して、昴治の顔横に肘をつく。
「…力抜けって……」
「ふぅ、あっ」
入れずにモノを割れ目に擦りつけるように動かす。
指や舌とは比べ物にならない熱と湿り気が昴治を震わした。
「あ…やっ、あ…」
「兄貴のココ、俺のもん…咥えこもうとしてるぜ。」
「う…ちが…違う…やっあ、ああ…」
「…ほら……入ってくぜ。」
「っ!?」
力が抜けたのを見計らい、祐希は突き入れる。
ビクビクと震え痙攣して、昴治の顔色が青ざめていった。
「いっいたっ…い……」
「……」
半分も入ってもいない。
だが昴治の表情は痛みに歪み、ボロボロと涙を零し始めた。
普通の精神なら、ココで止めていただろう。
だがその表情すら、今の狂気にも似た欲には虐めたいと思わせるだけだ。
「い、ひぎゃあああ!!」
腰を強引に引き寄せた。
悲鳴が部屋に響く。
「ひっ…ぅ…いっ…ひぃ!」
白い肌は益々白くなり、引きつったような悲鳴が零れる。
顔は痛みの涙でボロボロになっていた。
震え出す相手が快楽を味わせる為、モノに触れたりするのだが効果はない。
「……兄貴、」
「うぅ…くぅ……っ…ん、」
「兄貴…」
胸が痛む。
祐希は眉を顰め、目を瞑った。
痛めたいワケではない。
痛みも賄うのは自分だけでいいと決めている――随分と前から…
突き刺したモノを出そうと細腰を掴んだ時である。
「…ゆ…ゆうき…」
「…安心しろ、もう…」
「俺……としては、はじめ…てだからさ……。
痛…いの、我慢…我慢…だから…好きに…していい……」
アンタは何も知らないカラ…
言葉は咽喉に詰まり出なかった。
昴治は痛みに耐えながらも、笑おうとする。
「ただ…触れて……感じて…欲しい…んだ、祐希に…。」
「…知らない、ぜ?」
コクコクと一心に頷く昴治に祐希は苦く笑う。
「…力…できるだけ、抜けよ。」
「ん、……くぅぅ!?」
細い腰を掴み、ゆっくりと動かし始めた。
初めてではない筈の躯は初めてであるかのように――それ以前の痛みが襲っているようだ。
慣れれば悦楽に覚える行為も一向に慣れる様子はしない。
「ひぐっ、い…んん、」
涙で濡れ、痛みで歪む表情。
それは無理に犯しているようだった。
貫くモノを包む肉壁は狭く締め付ける。
「痛い…なら……痛いって言え……少しは楽になる、」
「……く、いっいた……ひあ、…うっ」
(最悪だな…俺は…)
我ながら酷い事をしていると祐希には自覚がある。
痛がる相手の小さな呟きだけで行為を続け、痛みを訴え只耐えるだけの姿を見ても
やめようとしないのだ。
「い、いたっ……いたいよぉ……」
「ああ…知ってる…解ってるぜ、兄貴。」
身に覆い被さり、今にも壊れそうな躯を祐希は抱きしめた。
メイド服越しに伝わる温もりに震える睫毛を上げる。
「はぁ…はぁ……き、きもち…いいか?」
「……ああ、」
掠れた声の問いに祐希は静かに返す。
良かったと微笑みたかったのだろう。けれど痛みに苛まれ、口端が少し上がるだけだった。
「んくっ!?ひ、い……っい、いたあ!!」
白い太股に赤の鮮血が滴る。
悲鳴と卑猥ない音、そして独特の甘い匂いが身と心を取り巻いていく。
痛みに歪む視界の中で昴治は相手を見た。
(…キレイ……だな…)
髪が肌に吸い付き、唇が赤く濡れている。
煌く瞳は強く自分を見つめていた。
漏れる吐息は昴治の耳を擽り、艶やかな表情は思考を曇らせる。
痛みしかないのだが、確かに熱は内部から伝わってきている。
昴治は遠慮がちに背へ腕を回すと、強く抱きしめ返された。
「はぐぅ、う…いっ…ひっ……はあ、」
動きが激しくなり、昴治の声が途切れる。
強く打ちつけられ、
「んっ…はぁ…」
祐希の吐息が耳にかかる。
ビクビクと震える躯が感じるのは、熱い液体が内部へ打ち付けられる感覚。
何ともいえない感覚は昴治の意識を遠のかせていく。
(…約束……だったけど…)
「……ぁ……に…てくれ……」
優しく祐希が頬を包む。
瞳の揺らめきは泣いているのだろうか。
「……明日にな…って…も傍に…いて……」
「……」
視界が霞んでいく。
「……そうなれば…いいな、」
意識を手離した昴治に届いたのは弟の言葉。
力なくぐったりとした躯から祐希は己がモノを出した。
ずるりとモノが引き出された割れ目からは白い液と血がごぽごぽ溢れ出す。
「兄貴……」
呟きが聞こえたのか、気を失った昴治の唇に笑みが浮かぶ。
明日になっても傍にいてほしい。
この行為を忘れたくはない。
なかった事にはしたくない。
――傍にいてほしいんだ…
――傍にいるよ
――約束…破っちゃうな……
「安心シテヨ、罰ヲ与エルカラ」
冷たい何かが取り巻き、そして消える。
見知らぬ声は脳裏に響き続け、
「っ!?」
恐怖にも似た身震いが全身を走った。
映るのは見慣れた天井。
身をゆっくりと起こし、周りと自分を見る。
障子の隙間から陽が差し込み、昴治は寝巻きを着ていた。
(夢……?)
「…いたっ!?」
お腹に力を入れた途端に痛みが走る。
ジンジンと痛むそこは紛れもない繋がった場所。
「ははは……夢じゃ…ないな……痛いし…」
自分で自分を抱きしめ、周りを見た。
弟がいたという気配さえない部屋は昴治の胸を締め付ける。
(……忘れられない、忘れられるわけない……)
昴治は目を伏せ、嘲笑する。
(偶に……触れて欲しいって…言おうかな……)
アナタにこの想いを受け取って欲しい…
だが、それは果たされる事はなかった。
(続)
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