***神風メイド鬼憚***

第伍録:雨染みる、独り啼く者












鬼とは狂い醜き姿にて本能に蠢く者なり。
神とは清き姿にて万全なる力を持つ者なり。
人とは愚かな救いを求める罪深き者なり。

神は鬼を見放し
鬼が人を喰らい
人は鬼を狩る――そんな時代














怨臭と共に吐き出された
珠玉の叫び

聞くは包む皓












カチャ…

陶器のティーポットが鳴る。
ティーカップを並べて、祐希は襖から零れる光を見た。


還して
還して

ネェ、ドウシテ……?

耳鳴りを賄いながら聴こえてくる記憶の音たち。
ギリッと奥歯を噛み、それを祐希は消そうとする。
だがそれは逆に溢れてくるようで、胸元を掴み俯いた。



















雨は今だに降り続けている。
そんな雨の中、昴治――蜜月は駆けていた。
跳躍し、屋根の上を走り、塀に下りて、そしてまた跳躍し……
その動きはまるで飛んでいるかのようだった。

「……」




――オマエナンカ消エチャエ!!!





叫びが胸内で響く。
蜜月は耳を手で覆い地に降り立った。
雨雫が髪を濡らし肌を濡らし、そして服にしみこんでいく。

「おまえなんか…消えちまえ……」

呟きクツクツと笑った。
笑い声はすぐに止まり、上を見上げる。

「悪いな、相葉昴治…これじゃあ風邪引きそうだ、」

自分を抱きしめ、腕の辺りを撫でた。
染みる雨水は冷たく、肌を凍らせる。


ビチャッ…ビチャ…ズルンッ



雨音に混じり、何かが這いずる音が聴こえてきた。
その音に蜜月は振り返り、音の主を見下す。
黒い物体に血管の浮かぶ目がたくさんついていた。
そしてその物体のあちこちに人の手足が生えている。

「…雨に紛れて……人を喰ったのか?下衆め、」

そう手足は生えているのでなく、喰ろうている最中なのだ。
蜜月は冷ややかに微笑む。

「オマエナンカ消エチャエ、」

誰かの言葉を真似するかのように蜜月は呟いた。
















俯く祐希の瞳に蒼布に包まれた刀が映る。
手を伸ばし、その刀を形どるように触れた。


――これくらいの痛みなら…平気…だよ…


「……」

刀を取り、それを抱きしめる。
かちゃっと無機質な音がし、祐希は瞳を宙に向けた。


――こんな痛み…全然……平気…


「……ああ…あんな痛み…全然…平気…」

思考に佇む幼い自分は呟き、その通りだと祐希は応える。
痛みは瞬間の事。
苦しみに呻き、悶えて狂った時もやはり瞬きの刻。
もっと激しい痛みを知ってしまった。
もっと激しい苦しみを知っている。

「……っ…」

咽喉がひゅっと鳴った。
祐希の耳に雨音が響き、ひそかに静寂の部屋を賑やかにする。



アナタを呼ぶ事ができナイ




一人でいる時でさえ。
身に残る恐怖と共に横たわり――













(昴治さま、昴治さま、昴治さま、昴治……)

心で叫び、イクミは降りしきる雨の中僅かに残る『昴治』の気配を辿って走っていた。
通常ならふわりとなっているスカートは雨で重くなり、服は水を含み肌に吸い付いている。

(昴治、昴治、昴治…)

昴治の姿が見れない。
何処にいるのか把握できていない。
彼の存在が認識できないだけで、イクミは意識が狂い出しそうだった。

「昴治さまーーーーーーーー!!!」

「なんだ、うるさいな。」

はたっと止まり、イクミは周りを見渡す。
前方から昴治が軽い足並みで走ってきた。
昴治と共に黒い物体が見える。

「眼黒鬼!」

昴治がひゅんっと跳躍すると、それを追うように眼黒鬼と呼ばれた物体が大きく広がった。
黒の触手のような物を昴治は掴み、引き抜く。
それは瞬く間に鞭となり、それで眼黒鬼を引き裂いた。

ビシッ、バシィィィーーーンッ!!

雨音に紛れ、その醜き物体は消えていく。
地に降り立ち、髪を払いながらイクミを軽視した。

「……何だと聞いてる、」

「……探したです……、」

「ああ、相葉昴治をか?大丈夫だ、別にオマエ達に護られなくても
やっていけるからな……、」

「相葉昴治さま…も探してます。
君も探してますよ?」

「はあ?何云ってんだ??」

馬鹿にするような口調で言い、昴治――蜜月は右肩を掴んだ。

「君も昴治さまです…だから俺は探します。護ります。」

「……『契約』だから…な、それが。」

瞳を伏せながら言う昴治の言葉にイクミはふるふると首を振った。
ゆっくりと近づき、伏せる瞳に映ろうとイクミは覗く。

「『契約』もありますです…でもそれだけじゃないですよ?」

「過去の自分への求罰か?
残念だが、俺はオマエに与えるつもりはない。
それに…オマエ虐めても面白くないし。」

「あははは…ワタクシ…どちらかと言うと虐められ願望あるかもーですからね。
確かに面白くないですー。それに比べたら、祐希の方が面白いっすね。」

「今日は一人でいたい気分だ。
オマエは屋敷にでも帰り、祐希と慰めあっていろ。」

クツクツと蜜月は笑いながら言った。
イクミは今だ瞳に映らぬ自分の姿を映そうと瞳をあわす。

「一人は危険ですし、寂しいです。」

「俺はそんなの感じない。」

「……傍にいさせて下さい。
気に召さないのなら、俺をその鞭で叩いても結構ですから。」

「相葉昴治にか?悪いが今日は還らない、」

「相葉昴治さまにも、君にも…俺にとっては全てです。
同じように想えと謂うのは無理ですが…同じ大きさで想っています。
祐希も君を心配しているです…ただ、戸惑ってるだけ…」

「……俺の存在に昴治が呑まれないのかと?」

卑屈に云い、雨ではりつく前髪を掻き分けた。
そして溜息をつき、イクミを睨む。

「俺も…心に陰と陽があります…君とは違うけど。
でもそんな陰も認めてくれる……昴治さまと君が大事です。
君は相葉昴治さまではないけれど、でも昴治さまなんです。
俺が在る意味は昴治そのものだから、」

「笑わせるな…俺は相葉昴治じゃない。」

「そうです、でも昴治…昴治さまですよ。
それに基本的に君は相葉昴治さまを護っていますよね…」

バシンッ

蜜月が顔を歪ませ、イクミの頬を叩いた。
気使うような表情を変えぬままイクミは見つめている。

「オマエもムカツク!!
何か?俺と謂う存在を好むというか?下僕の癖して!!」

「いいえ、違いますです。」

イクミの言葉に蜜月の表情が少し曇る。
それに安心するようにと微笑んだ。

「好むじゃなくて、愛するんですよ?」

髪を掻き分け、蜜月は俯いた。

「俺をか?」

馬鹿にするような口調に、イクミはこくりと頷き微笑む。

「陰を…相葉昴治ではない、俺をか?昴治を壊そうとする俺にか?」

「君は壊さないです…祐希に似て、優しいですから。」

ばっと顔を上げ、蜜月はイクミを見た。
その蜜月の表情は余裕のあるモノでなく、どちらかというと昴治に近い表情だった。

「馬鹿な事を謂うな…愛されるのは、陽だけだ。
陰など愛す者などいない。」

「そんな事ないです、それもその人自身です。」


「笑わせるな、俺を俺を愛するというのか?」

「はいなー、昴治さまは昴治さまで、君は君で愛しますよ。
俺にとって生きる意味ですから。」

「虫酸が走る事を謂うな……」

「あははーー、気をつけますです。」

「……」

イクミはゆっくりと蜜月を抱きしめた。
細い体は雨で冷たく冷え切っている。

「冷たい、冷たいです。早く家に戻りましょか?」

「……オマエ、あたたかいな。」

「えへへー、ぬくもりにはー自信ありますから♪」

「そうか……覚えておく。」



















びしょ濡れになりながらも、蜜月とイクミは屋敷に戻った。
中庭から入り、廊下にぴとぴとと雫が落ちる。

「はにゃーー、ちょいとお待ちくださいねぇ。」

イクミは走り去り、そして戻ってきた時にはタオルと藍の寝着を持ってきた。

「お風呂沸かしましょか?」

「いい、結構だ。」

「そうですかー?ああ、そうだ祐希君がお茶の用意してたんですよー。」

タオルで濡れた蜜月の身体を拭き、服を脱がせ、藍の寝着を直に着てもらった。
彼が裸の状態の時は、視線を横に向けながらの作業だったので些か時間がかかる。

「…着ました?」

「見ればすぐだろ、」

「あははーー…ではではー、いきましょー。」

濡れた服を持ち、昴治の部屋へ行く。
薄暗い部屋には微かなお茶の香りが漂っていた。
見回すと、机の上にお茶の用意がしてあり、壁側に祐希が蹲っている。
近づいてみれば、刀を抱え小さな寝息をたてていた。

「……寝てる、無礼だな…こいつ、」

「お疲れモードだったんですよー、それに…」

「それに?」

「いえいえ……俺の気の所為でしょう、」

「?」

イクミの言葉に首を傾げ、そして眠っている祐希を見下ろした。
辺りを見回して、目に入った布団を祐希にかけてやる。

「お布団、もう一つ用意しないといけませんねぇ。」

「……オマエは俺の相手だ。身体が疼いて仕方がない、」

「ほええええ!」

「うるさい、祐希が起きちゃうだろ」

目を顰め、そして部屋を出て行った。
イクミは慌てて部屋を出て、蜜月を追う。
離れにある空き部屋の障子を空け、蜜月は燈籠に火を燈した。
部屋が橙にほんのりと染まり、蜜月の陰とイクミの陰が揺れる。

「さて…俺を満足させろ。」

「え…ああー、はい。えっと押し倒しちゃって宜しいでしょか?」

「……」

流し目でイクミを見て、そして蜜月は畳の上に座った。
ぼやーっとしていたイクミだがすぐ蜜月の腰を抱くように座る。
広がるスカートは雨の所為で少し濡れていた。

「ピンは初めてですが、失礼させて頂きます。」

そう言ってイクミは蜜月を抱き寄せながら口付けた。
軽めのキスをしているとすぐに蜜月の方から舌を絡めてくる。
ぬめりとした感触に目を瞑りながら、イクミは蜜月の膝を撫で寝着の奥へと手を滑り込ませた。

「ふぅ…ん、ん……」

「んぅ……ん…」

互いに息が漏れながらつつ、キスを続ける。
寝着の間から滑り込んだ手は内股を辿り、そして秘所に指が届いた。
モノは軽く固くなっていて、割れ目の方はしっとりと濡れている。

「はぁ……こんなんじゃ…満足しない、」

「はい…祐希君の分も頑張りますです。」

イクミはそう言ってゆっくりと蜜月を寝かした。
そして寝着の裾を上げて下半身を露にする。

「……何…している?」

「…いえ、どうしようかと……悩んで……」

股を手で開かせて、身体を割り込み考え込んでいるイクミを蜜月は見た。
じーっと見ている先を蜜月は辿る。

(俺の…見てんのか……)

客観的に考えていた蜜月は壁に揺らぐ影を見た。
燈籠の灯りで部屋が少し明るい。

(明るいから…俺のが、よくこいつに見えて………)

「濡れてきました…いいですか?見られるのが、」

「……悪くはないな、」

微笑み、イクミは触らず下半身を見続ける。
畳に愛液が零れる頃、密かに芽生えたらしい感情がじょじょに大きくなっていった。

(…な…んだ、これ……)

開いている股を蜜月は閉じようとする。
それをイクミは手で押さえた。

「昴治さま?どうかいたしましたぁ??」

(……これは……なんだ……なんだか…)

「あの触れて宜しいですか?」

「え…ああ、」

ゆっくりとイクミは顔を近づけ、モノに音をたててくちづけた。
それにビクンと蜜月は震えて、少し身を引かす。

(なんだ…か…)

筋を舌で辿り、割れ目に舌を這わした。

(恥ずかしい…)

「くぅぅん!」

舌が膣に少し入ると、声と共にとろりとした液が多く零れる。
それを舐めとってイクミが丁寧に舐めはじめた。

「ああ…ああっあん……ふぅう」

はじめは声を上げた蜜月だったのだが、すぐに唇を塞ぐ。
頬が赤く染まり、身を捩った。
快楽を欲しているのは欲してはいるが、

「と…燈籠…を消せ、」

「んん…ほえ?……どうしてですか?よく見えていい感じだとぉー、」

「そうかも…しれないが……というか、主君の令を聞……やっ」

「…あの、もしかしてーお恥ずかしいですかー?」

イクミがモノを掴み、膣に指を入れながらそう聞く。
すると一瞬にして蜜月の顔が真っ赤になった。

「羞恥もまた…快楽になりますし、昴治さまも満足するとー思うです。」

「俺が…羞恥など感じはしな……ふあ、ああっ…やああ、」

「嬉しいです…昴治さまが…俺にされる事で羞恥を感じるなんて…」

少し掠れた声が届き、蜜月は腰をくねらす。
寝着は前もはだけさせられ、胸にイクミは唇を寄せながらモノと割れ目を同時に刺激した。

「それって…俺の事を少し想ってくれてるって事じゃないですか…、」

「…自惚れるな……下僕め…っあ…ん、」

「自惚れさせてくださいです…後で罰も受けますから……」

じゅく、ちゅく

部屋に淫靡な音が響く。
イクミはぴちゃりと音を立てながら乳首を咥えた。

「ピンピンに固くなって……下はぐしょぐしょ……ですよ?」

「ふえ…あ、あ…」

頬に手をあて、蜜月が真っ赤になる。
少し頼りなさげな表情は昴治のものだった。
ふるふると首を振って、蜜月は身を上を移動しようとする。

「ダメ…昴治さま……俺の愛しい…昴治さま…逃げないで…傍に…」

「はあ…あ、やああ…」

ひっくり返され、蜜月は四つん這いにさせられる。
イクミが秘部に唇を寄せると腕は崩れ腰を高く突き上げた状態になった。

(愛しい…俺を…?昴治でもない……俺を…?)

「あ…ん、あっあっあああ、」

(愛して…くれる…?愛して……)

真っ赤になりつつ、蜜月は下半身をイクミにすりつけた。
ぱふっと小柄なお尻が舐めているイクミにあたる。
イクミの舌は愛液にまみれたまま、お尻の穴へと移動した。

「んぅ…はあ、同時なんて……何処で覚えた…ぁ」

穴のヒダを舐め解しながら、指で膣内を刺激する。
モノは快楽ではちきれんばかりだ。

「…昴治さまが…色々教えてくれたです……」

「そうか……ん、あ、あああっん、」

「いいですか?」

「まぁまぁ…だな……あんまり…見るな…あ、ああっ」

腰がくねり、ぽたぽたと畳に液が零れる。
イクミは唇を離し、尻をおさえて割れ目に手を添えた。
そしてくちゅりと広げる。

「ふああっん、あ、なに…して…」

「奥まで…よく見えます…」

「はあ…やめ…っ、」

広げられた箇所は、何度も入れて穢れている筈なのに
処女と同様に綺麗な色をしていた。

「かわいいピンク色ですね……昴治さま、」

「う……あ…あああ、」

「ここに入れられるのお好きでしたよね?」

「あっ…あ、あああああーーーーーーーーっ!!!!」

ずぶりと押し広げるようにイクミのモノが割れ目に入ってきた。
腰をがくがくと震わせ、蜜月は畳を掻く。

「あ、愚かもの……っあ、」

「痛かった…ですか?」

「…痛くない…熱い……何とかしろ…」

「はい、」

膣内をかき回すようにイクミが動き出す。
しっとりとした肌を持ち、強く膣内に押し付けた。

「ひゃあ、ああっあん、あ…あ、ああ、」

イクミのモノを包むソコは、充血しながらもだらだらと先ほどよりとろみのある
液体をじゅくじゅぷと音をたてながら出している。
蜜月の腰は揺れ、打ち付けられる拍子に触れる濡れたメイド服の冷たさに
肌が快楽と共に泡立った。

「いいですか?…はぁ…あ…昴治さま、」

そのままイクミが覆い被さる事でじわりと服の冷たさと肌の暖かさが伝わった。

「あっああ、ああ、ああ…もっと…もっと、奥ぅ…」

「奥?こうですか?」

すっと少し腰を上げ、イクミは突き上げた。
するとパタパタとモノから先走りが零れる。

「ふぅぅ、あ、あっあっあっ!!」

「昴治さま…はあ、ぁ……キモチイイ?」

耳に降り注ぐ声に蜜月はゾクゾクとした。

(こんなに…キモチイイのは……何故?)

顔を横に向け、相手を見る。
映る本能に呑まれそうな瞳の煌きに蜜月は目を細めた。

「あっあっあ…あ、あ…い…くみはキモチ…いいのか?」

「はい…飛んじゃいそうです……」

「……あっ…ん、」

きゅっと入れられてるトコロが締まる。
それにイクミはふるふると震えて、蜜月を抱き寄せた。

「すごいです……絡みついてきて…」

「あっああ、ふぅぅぅ…あっあ、あんっ!」

パンッ、パンッ、

ぶつかる音が響く。

「いいですか?いい?」

「…いい、いいよ…ぉ…はああっああぁ!」

「きゅうきゅう締まるです……えっちですね…ココ…だらだら零して、」

「ふぅ、あん、やっああ、」

眉を寄せ、頬を赤く染めながら蜜月は首を振る。
心を満たす感情は羞恥で、蜜月は半ば混乱しながらも受け止めていた。

「いくみ…いくみ、いくみ…うあああ、…あっ!?」

ボロボロとそして涙が零れた。
モノを擦り、頬にキスをしながらイクミは強く腰を動かす。

「昴治さま…傍に……いさせてくださいね……お願いです…。」

「あ、ああっあ、い、いくみっ…そんな、奥はダメぇぇ…」

鼻にかかる声を上げ、けれど言葉とは裏腹にお尻をイクミに擦り付けていた。

「昴治さま…昴治、昴治、昴治!」

「ふああ、ああっ壊れ…壊れちゃ…っ!!!!」

声にならない悲鳴を蜜月は上げ、モノから白濁の液を出す。
きゅっと締まり、イクミのモノに射精感を煽らせた。
それにイクミは喘ぎ声を出し、膣へ液を吐き出す。

「あっ…ふぅ……はう…ぅ、」

熱い迸りを感じ、蜜月の身体はビクンビクンと痙攣した。
ずるりとモノを出されば、糸が切れたように蜜月の腰が落ちる。
落ちた拍子に割れ目から穢れの証でもある、白濁の液がごぽごぽと出てきた。

「昴治…」

「…ぁ……」













「…う…ぅ……」

布団を掛けられた祐希は刀を抱えながら蹲る。
カタカタと震え、その震えを治めてくれる者はココにはいない。

「……っ……」

咽喉が震えるが声とはならなかった。
閉じる瞳から零れるのは透明な冷たい雫。
頬を辿り、ポツリと畳に落ちた。

それさえも見届ける者はココにはいない。






















(…ああ…まただ、)

目の前が花の嵐となる。
昴治は『昴治』の膝の上で横たわっていた。
まどろみに誘われ、今のように『昴治』――蜜月に寝かされている。

「…どうして……だろうな、」

(何が…?)

「壊してやろうと思うのに……全然、壊れはしない、」

覗きこみ、自分の額を蜜月が撫でた。

(…それは……)

「謂うな……オマエは少し眠れ……明日になれば、また“外”に出れる」

(…オマエともっと…話…が………)

「話か?それなら…闇に語りかければ、すぐ話せる…呑まれるかもしれないけどな、」

昴治は目を伏せた。
はらはらと舞う花びらが瞼に落ちる。
それを指で払い、額に手を乗せた。

(……眠い…)

「ああ、知っているよ。」

昴治は瞳を閉じた。
花びらがひらひらと舞い落ちる。

「知っている…何でも……オマエの想い以外は……」













(続)
一番可哀想なのは、誰でしょう?

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