***神風メイド鬼憚***

第弐録:深夜の花、蜜月の宴












鬼とは狂い醜き姿にて本能に蠢く者なり。
神とは清き姿にて万全なる力を持つ者なり。
人とは愚かな救いを求める罪深き者なり。

神は鬼を見放し
鬼が人を喰らい
人は鬼を狩る――そんな時代














深夜に花は咲く。

夜を好むその華は宴も愛し、我を呑む。







晴れやかなる午後。
のどかな雰囲気の中、昂治、カレン、あおい、こずえは授業を受けている。
使用人――メイドである祐希とイクミは教室外の廊下にいた。
七色の糸であしらった洋布を敷き、その上に茣蓙を敷いてイクミと祐希は座っていた。

チャチャチャチャ、

そんな音をたて、イクミは茶を作っていた。

「ほい、出来上がり♪」

「……」

碗をすっと祐希の方へ渡した。
祐希はそれを取り、三回、手で回して口をつける。

「お味はどうっすか?」

ズズズ…

最後の一口を音を出して飲む。
仏頂面のまま祐希はお茶を作ったイクミを睨んだ。

「下手、」

「えーーー、これでも師範代ですぞ!」

「……誰が決めたんだよ、」

「オ・レ・♪」

溜息をつき、祐希は外を見た。
格子の窓からは午後の陽が注いでいる。

「嫌な天気ですねぇ…」

「空が紫に染まってるからな、」

イクミはまたお茶をたてはじめた。

「上達しねぇから諦めろ、」

「お茶は日本の心なり♪」

祐希は目を伏せるだけで何も言わなかった。
外は祐希の言うとおり、少し紫がかった空が低く見える。
草木はその色を受け、赤みのかかった色となっていた。




















「今日はすぐ帰り?」

授業が終わり、帰りの仕度をしている昂治にカレンが話し掛けた。

「いや、買い物していこうと思ってるけど。」

「買い物?」

「格闘雑誌、今日発売だもんね。」

横から割り込むようにあおいが言った。
ぶすっとした顔をする昂治にあおいは見下ろすように見る。

「なによ、正解でしょ。」

「知ったような口聞くなよ。」

「いいじゃない、別に。」

「なんだよ、それ。」

ぽんっと昂治とあおいの肩をこずえが叩いた。
そしてにっこりと笑う。

「やっぱ、デキてるって噂、ホント?」

「「できてません!!」」

声を合わせて否定する二人に疑いの目をこずえは向けた。

「ほんとー?」

「つーかさ、こんなヤツとくっつけられたら俺が困るよ。」

「むっ!何よ、その言い方!!」

「お兄さん、早く行かなくていいんですか?」

上手くカレンが話題転換した。
昂治はポンと手を叩いて、鞄を抱え込む。

「そうだった、じゃあ、また明日!」

そう言って昂治は教室を走って出て行った。
駆けていった昂治に手を振るカレンとこずえ。
こずえは横にいるあおいに目を向けた。

「素直じゃないね、あおいちゃん。」

「…何のこと?」

「そうですね、こずえさん。」

「あ、カレンちゃんもそう思う?」

意気投合している二人にあおいは頬を膨らます。

「ちょっと!それってどういう意味!!」























昂治は急いで靴を履き、外に飛び出した。
出るなり肩を竦めて、周りを見渡す。
高校の生徒が和気藹々と帰途についていた。
それにふぅっと息をついて、昂治は走りだす。

(祐希とかイクミとか連れてったら買えないだろうしな。)

帰宅は当然のように祐希とイクミはついてくる。
初めは目立ち過ぎて恥ずかしくて嫌だったのが本音だ。
今では慣れと言うのも何ではあるが、嫌ではない。

(それに俺の勝手に付き合わせたくないし……、)

人は誰しも自由を願うものだ。
そのカタチが何であれ。
主従関係という絆で束縛はしたくないと昂治は思っている。
忠誠があると云われても、昂治としては納得はしていない。

(だって……)

祐希は弟。
イクミは友人。

(だと思っているのは俺だけかな……)

苦笑いをする。
走る事で景色が過ぎ去る。
日をおう事に消えていくような感覚を昂治は理解できなかった。
何故か、理解してはいけないような気がしていた。

「…にゃーー置いていくなんてヒドイ…」

「……」

走り去る昂治を物陰から祐希とイクミが見ていた。
泣きマネをするイクミを冷ややかに見返す。

「行くぜ、」

「あーー、ツッコミ欲しいんですけど。」

「…する価値もねぇ、出直せ。」

スタスタと祐希とイクミは走る昂治の後を追った。
当の昂治はそんな事など気づいてはいない。

(だいたい、年も変わらないヤツと主従関係できるか…ふつう、)

考えが内面に巡る。
それは苛立ちを賄い、紫ががる空の反射で昂治の肌も少し染まった。

(それに…あのメイド服…祐希が着るとは思わなかった…)

ある日、
目覚めたらメイド服を着用し、髪飾りをしていた弟と友人。
イクミは家族の事情で養子として此処に来ていた。
だから使用人になって当然だとイクミは言っていた。

(当然じゃ…ない、)

頭も運動も顔もいい。
そんな弟もだ。
一子相続。
だから使用人になった。
そう祐希は静かに謂った。何か寒い感じのする瞳で。

(なんだよ、わかんない。わからないじゃないか!!!)

苛立ちは憤慨となり、感情はまともな答えから遠ざけていく。
昂治は走る足を止めた。
周りは辻道の多い、住宅街。
風が昂治の髪を揺らす。
何とも謂えない、浮遊感のような感覚。
よく解らない感覚は昂治を不安にさせた。
伏せたいたらしい瞳を上げる。
その途端、身体が跳ね返されるほどに何かにぶつかった。

「あ、すみません!」

いつのまにいたのだろう。
自分の前には人の胸が見える。
視線を上げれば、頬に傷を持った青髪の青年だった。
凛とした雰囲気を纏う綺麗な容姿。
その雰囲気は少し弟に似ていると、昂治は思った。

「……」

軽く相手は目を細めただけだった。
黒の上下は相手の青年によく似合っている。

「あの……」

青年は昂治を流し目で見て、そしてゆっくり歩いていった。
気分を害したのか、それとも気になどしていないという事なのか。
去っていく相手を引き止めて聞こうにも、もうその相手は見えない。

(俺って…最悪だな、)

ふぅっと溜息をついたときだ。
心臓が急に高鳴った。

(え?)

昂治は周りを見渡す。
ふと足元を見ると、朝治療をした猫がいた。

「あー、おまえ…何処行ってたんだ?」

傷の手当てをしたら、ぴゅーっと逃げるように去っていった。
猫はそういうモノだと祐希にバカにされたのを思い出す。

「…まぁ…そうかもしれないけど……心配したんだぞ?」

屈んで、猫と目線をあわす。
そして手を差し伸ばした。
一方、物陰に潜んでいる祐希とイクミは屈んだ昂治に訝しんだ。

「みゅ?みゅーーー……猫、朝の猫っすね。」

「あァ?」

微笑みながら昂治は猫を見た。
猫の瞳は赤く煌く。

(え……?)

その煌きは、思考という意識を揺るがした。
そして目の前を霞ませる。

(…なんだ……これ…)

視界が真っ暗になり、昂治は意識を遠のかせていく。
身体は地に倒れる事はなかった。

「「っ!!」」

子猫だった身体が変形し、不恰好に四方に足が突き出ている黒い物体になる。
数本の蜘蛛のような足と、滑りのある触手が昂治を取り巻いていく。

「くっ!!“黒鬼蜘蛛”かっ、」

祐希は舌打ちをして剣の柄を掴みながら、物陰から出ようとした。
だがジロリと後ろを睨む。

「こうじが…こうじが……なんで…気づかなかったんだ…俺、俺は…」

ブツブツとイクミが呟いている。
嘆息し、祐希はイクミの胸倉を掴んだ。

「ノロノロしてんじゃねぇ!!死ぬぜ、こ・う・じ・サ・マ・がっ」

「させるかーーーーーーーーー!!!!」

バシンッと祐希にイクミは攻撃した。
祐希は後ろに飛躍してそれを難なく交わす。
そして昂治を捕まえた“黒鬼蜘蛛”を刀で指し示した。

「俺を攻撃する前に、アイツを攻撃しろっブラックが!
でないと、本当に殺されるぜ。」

「……」

「行くぜ、」

「当たり前だ…鬼は無へ還す。」

普段の彼では想像すら出来ないほど、低い声で言った。
瞳は据わり、空虚さえ思える雰囲気である。
イクミは手を振り…その手には鋭利に煌くバグナグが装着された。

「シャァァァーーー!!」

黒鬼蜘蛛が咆哮する。
気絶している昂治に無数の触手が絡んでいた。
体液か、緑のべとりとした液が肌に髪にこびりついていく。

「穢れた身体に御身に触るな、下衆がっ」

イクミは腕を交差させながら飛躍し、黒鬼蜘蛛の懐に入る。
ダークレッドのスカートはひらめき、すっと本当に軽くだ。
交差された腕を下ろす。

バシィィィーーーンッ

だがそれは爆風が起こし、黒鬼蜘蛛の身を切り裂く。
咆哮し、けれど無意味だと云わんばかりに身体から触手が突き出た。
突き出た勢いのまま、触手は宙にいるイクミを突き刺さんと向かう。

「……、」

宙でイクミは身体を捻り、そして回転をしてそれらを避ける。
足音をほとんどさせずに、イクミは祐希の横に着地した。

「すぐ突っ込むんじゃねぇよ、」

「……ああ、オマエの悪い癖が映った。」

無表情のままイクミが祐希に悪態をついた。

「…ブチ切れ野郎がっ、」

それを祐希は目を顰めながら返す。
二人は構えて、ズルズルと蠢くその化け物を睨んだ。

「足を引っ張るなよ、」

「誰に言ってやがる、」

イクミは黒鬼蜘蛛へと走り出した。
祐希もほぼ同じスピードで相手へ走りこむ。
触手が二人へと伸ばされた。
肩を並べるように走っていた二人だが、瞬間移動でもしたかのような速さで
二手に分かれる。地面を裂くように触手が伸びた。
祐希は軽く飛び、剣を後ろへと構える。

「疾風・三段っ」

振刀。
剣筋は一陣の風となり、それが三つに別れ相手を切り裂く。
効いてはいるようだが、伸びる触手は衰える気配はない。

ドォォーーーンッ

辻の塀が壊されていく。
祐希の速い動きに、黒鬼蜘蛛の触手は少々追いつかないようだ。
伸びていた触手が祐希へと意識を向け始める。
その触手の上にスカートを揺るがし、イクミが飛び乗った。
そしてその上を駆けていく。

「…天舞鉄爪、」

イクミは静かに云い、手を振り下ろす。
バグナグが煌き、引き裂く爪の残像が花びらの如く相手へ攻撃。
飛び飛び、祐希がイクミの横へ来た。

「外すなよ、」

「誰に言ってる、」

二人は一言話して、同時に上昇した。
触手が束になって二人を捕まえようとする。

「碧爪、」

イクミが腕を交差させ、

「蒼牙、」

祐希は刀を振り上げる。

「「龍帝封殺陣っ」」

相反する二つの切り裂く波動はしかし、重なり一つの疾風となる。
黒鬼蜘蛛をその疾風は貫く。

「シャァァァァーーー!!!!」

苦しみの咆哮。
貫き、拡散して粉々に黒鬼蜘蛛の身体は飛び散った。
解放された昂治の身体は地に触れる事なく、祐希とイクミの腕におさまる。
後は何事も無かったように、おだやかな風が流れた。













その戦闘を住宅の屋根上に立っている者が見物していた。
青い髪を揺らし、頬に傷。
先ほど昂治がぶつかった青年だった。

「……紅白椿…か、」

呟き、身を翻した。
躯は空気に溶け込むように消えていった。














「ん……あれ…?」

「にゃはーーー、おめざですかぁ???」

昂治が目を覚ます。
周りの風景は揺れながら進んでいた。
近くに聞こえるイクミの声に、昂治は目をパチパチさせる。

「俺……あれ???」

「道端で貧血起こすんじゃねぇ、食い倒れみてぇだぜ。」

混乱している昂治に横を歩いている祐希が冷たく言う。
むっとして、身を前へ出そうとした。

「あーー、あんま動かにゃいでくださいねぇ。落ちちゃうです、」

「え?…あ……」

自分がイクミにお姫様だっこをされている事に昂治は気づいた。
驚きワタワタとする昂治にイクミは情けない声をあげる。

「はにゃーー、暴れないでぇーー。」

「な、な、なんでだ?」

「うるせぇ、本屋行くんだろ、」

「え…まぁそうだけどさ……でも…イクミ、下ろしてくれないか?」

「だーーめです。まだ体力が回復してないですから、」

「はぁ???」

事実を知らない昂治は状況が呑み込めず、ただ混乱するだけだった。














ひらひらひら……
















庭の櫻が夜光に照らされる。
淡く光る花びらは咲きつつも散っていた。
池を泳ぐ鯉は水音を鳴らし、静かな夜を過ぎさせていた。
部屋の飾り障子を開け、昂治は寝巻きを着つつ庭を眺めている。
今日買ってきた格闘雑誌をそこそこ読んで、夜の庭に目を奪われた。

(相変わらず…綺麗だな…)

前、そう呟いた。
その時、これは全部アナタの物だと莫迦にしながら
弟が云ったのを昂治は思い出す。
館主であると言う、確固たる認識をしていない昂治はその事実を受け止めてはいない。

(普通が……いいな、)

眺める櫻は綺麗なまま。

(眠くなってきた……ん?)

庭だけを見ていた昂治が空の綺麗さにも気づいた。
小さな星が瞬き、そしてまん丸のお月様。
淡い白銀の光は月のものだ。

(……眠い…な…)

眠さにけれど、内部は熱くなっていくような気がした。
昂治は敷いた布団の所へ行かず、その場に倒れる。
そのままゆっくりと昂治は瞳を閉じた。



















スタスタと祐希は日本刀を布に包みながらも、持ちながら歩いていた。
縁側に面する廊下を歩くと、昂治の部屋を過ぎる。
閉まっている筈の障子は全開になっていた。

「……」

溜息をついて、祐希は部屋内を覗いた。

「障子くらい閉められねぇのか、莫迦が、」

悪態をつく。
けれど悪態を受ける人物が見当たらなかった。
目を顰めて、祐希はその場から走り出そうとした時である。
横から何かがぶつかり、いきなりの事で祐希は体勢を崩して倒れた。
前髪を掻き分け、ふわりと圧し掛かってくるモノを見る。

「…何しやがる、」

「うるさいな、」

昂治だった。
外からの淡光が肌を照らし、産毛がぼんやりと輪郭を光らせていた。

「障子くらい、てめぇで閉められねぇのか……どけよ、」

「うるさい…うるさいよ…」

「うるせぇのは、アンタだ…んっ!?」

かぶりつくように昂治が祐希の口を塞いだ。
吃驚している祐希はなすがままに口腔を犯される。
唇が離れ、薄暗い部屋で昂治は微笑んだ。

「黙っててくれる?雰囲気が台無しになるじゃないか……、」

「……っ!?」

祐希は目を見開き、昂治の肩に手を置いて身を起こす。
外は咲き続ける櫻に白銀の満月。

「蜜月っ、」

「どうした……童貞ではないだろう?」

微笑む彼の表情は昂治であって“昂治”ではない。
祐希に絡みつくように抱きつく彼はもはや別人だった。

「カマトトか?でも、もう……こんなになってる……」

祐希の首に腕を回し、昂治は下半身に手を触れさせた。
焦っているらしい相手に昂治は笑みを浮かべるだけだ。

「……こんな俺、嫌?それなら……」

軽く昂治は祐希にキスをする。
先ほどの余裕さえ見える表情が消え、不安げに揺れる瞳を見せた。

「……祐希…お願い……、」

「!?」

硬直している祐希に昂治は眉を寄せた。
その表情は初々しく、“昂治”に近いモノである。
祐希の瞳が少しずつ煌き、昂治をゆっくりと抱きしめた。
肩口に顔を埋める弟に昂治は笑みを浮かべる。

「祐希くーーーん、何処ですかーーー?」

生温い空気を変える、間の抜けたような声。
祐希はすぐ昂治から離れようとするが、昂治は絡みつくように抱きついていた。

「服を早く洗濯に。あ、やっぱ此処にいまし……みゃああ!?」

ひょっこりと顔を出したのはイクミだ。
けれど半ば昂治に押し倒されている祐希に、オーバーなほどイクミは驚く。

「そ、そ、そういう仲だったのですね!!!ううーーー、不潔ですぅぅぅ!!!」

「ば、バカやろっ!!蜜月だろ!!」

「蜜月…え、嘘?蜜月は明日じゃ、」

後ろをイクミは見て、空に浮かぶ満月に目を見開いた。

「鬼が出たから、月の変化がって…うわっ!?」

バタンッ

イクミは昂治に腕を引かれて倒れる。
倒れた拍子にめくれたスカートの間を昂治は指で辿った。

「……いつものように…して……、」

「あのですねーー、えっとぉーーー、昂治さまぁ?」

昂治は祐希を引き寄せ、二人の下半身を同時に触れた。

「俺を満足させてくれたら…返してあげるからさ、相葉昂治を。」

ゆっくりと妖艶に昂治は微笑んだ。




















白銀の光が三人を照らす。
祐希とイクミのスカートはたくし上げられていた。
黒のパンストはガーダーベルトで止められ、祐希もイクミにも似合っている。
たくあげたスカートから覗くそそり立つモノを昂治は手と口で慰めていた。
彼は昂治であって昂治ではない。
ある特定の時期に表へ出てくる昂治だ。
性の悦楽を求める昂治は別人そのものだが、身体は昂治のものである。

「んふっ…ん…はぁ…ごめんな、口が二つあれば…いいのに、」

片方は口で出来るものの、片方は手でするしかない。
他人から施されるソレはキモチイイものだが、やはり口の方が些かイイモノである。

「ん…う、」

「もう…出る?」

声を漏らした祐希に昂治が聞く。

「まだ、」

「そう?……イクミの方は…?」

「え…そのぉ……」

昂治は笑みを浮かべた。

「いいよ、かけて……顔に、たくさん…」

「「っ!?」」

ほぼ同時に祐希とイクミは精を吐き出す。
べとりとつく白濁の液に恍惚とした表情を昂治は浮かべた。

「ああ…あたたかい……ねぇ、俺にも触って、」

寝巻きをゆっくりと昂治は脱いでいく。
白い柔肌はぼんやりと光る。
膝を開いて体を少し倒し祐希とイクミに真実を見せつけた。
男性の性器もあるが、その下に女性の性器に似たモノがある。
カタチはどちらかと言うと、成人の花弁ではなく少女の割れ目に近かった。

「…昂治はね……此処触るの恐いんだ、でも俺は好き…」

所謂、両性具有だ。
祐希とイクミの腕を引いて、昂治は愛撫を強請る。
二人の瞳はやがて獣にも似た光を帯びてきた。

「んっ…はあ、あ…ぁ…ダメだって……やさしく…んぅ!」

イクミはモノを口に含み、蕾をほぐす。
祐希は割れ目に舌を這わせ、乳首を手で抓んだ。
鳥が餌を貪るように見える光景は淫らでも妖しく綺麗だった。
メイド服を着たままの二人の背から羽根が生えてもおかしくない。
それほど何故か清らかにさえ見える。

「乱暴にしちゃ…こわれ……はむっ!?」

祐希とイクミは身体を移動し、己のモノを昂治の唇に押し付けた。
スカートにより視界は遮られ、快楽が増す。
モノを大きく口をあけて二つ入れようとする。
だが些か口が小さい為、先端部分しか入らなかった。

「ふぅ、ん…はぁ、ああ!いっちゃ……んぅぅ、ふぅ!!」

ぐちゅ、ぬぷっ、ぴちゃ

粘着質な音が外へ漏れる。
ビクビクと震える昂治の身体を見て、
祐希とイクミは同時に指をそれぞれの穴に突き入れた。

「ひゃあぁあああ!?」

ガクンと腰が浮き、そして沈む。
吐精し、愛液が溢れ出た。
虚ろな瞳のまま、昂治は唇にあるモノに少し歯を立てる。

「……ちょうど…いいな、」

呟き、息を乱している祐希とイクミを向かい合わせに座らせた。
その間に昂治は膝たちをする。

「そうだな……今日は…祐希の方がいい子だったから……」

「うっ!?」

じゅぶっ

祐希の方を向き、割れ目の方に祐希のモノの先端を入れた。
後ろへ倒れるようにし、イクミを引き寄せる。

「イクミは…こっち……でも、後でたくさんキスしてあげるよ…好きだろ?」

ずぶっ

イクミのモノを後ろの蕾に入れた。
少し苦痛に顔を歪ませながらも二つのモノを内部へと入れていく。

「…ん、動く……ね、」

笑みを浮かべて、昂治は動き出した。
ゆっくりとした動きはけれど、快楽をもたらす。
頭を振り、顔を悦楽の涙でボロボロにしながらも腰を上下に動かした。

「はぁあっ!あ…あ、あぁ…ん、」

「っ…ん、う…」

「はぁ…ぁ……」

祐希とイクミからも喘ぎが零れる。
それに昂治は満足そうな表情を浮かべた。

「いいね……犯されてるのに…俺が犯してるみたい…、」

震える腕が昂治を抱きしめる。
イクミは乳首を抓み弄び、祐希はモノを掴み扱く。
二人とも肩口に顔を埋め、首筋に舌を這わした。
馨る昂治の匂いは甘く、二人を支配していく。

「くぅ!?ああっはぁ、ダメっ…そんな、早くは、ひゃああ!!」

じゅく、ずぶっ、じゅぼっ

音が激しく接合部分から漏れる。
昂治の表情は余裕めいたものから、切なげな表情へ変わった。
祐希とイクミが腰を動かしはじめたのだ。
上に乗っている為、深く昂治を犯す。

「ひゃあ、ああっぁああ!!あ、ああっ、」

嫌々と首を振っているのだが、抱きしめる腕たちに指でたどる。

「ひはっ!?」

速い動きに昂治は鳴く。
けれど何処か笑みを浮かべているようにも見えた。
そして昂治の瞳に紅白の椿が映る。

狂いにも似た宴は始まったばかりだ。
















「…ここ……何処だ?」

何処かに漂っている。
そんな感じを昂治は味わっていた。
重い、けれど熱い感覚が身体を取り巻いている。
視界は散る花しかなかった。

「夢…?」

手を伸ばすと冷たい感触が伝わった。
見えれば、花弁の厚い椿がふたつ乗っている。
赫と皓のソレは、

「祐希と…イクミのに似てる…な、」

髪飾りの椿に似ていた。
綺麗な花は、昂治はあまり好んでいない。
ボトリと落ちる花は何故か恐怖を覚えさせた。

「……此処は何処だろ…」

花を抱きしめて、周りを見渡した。
変わらず花びらが散っている。























小鳥の囀りと障子の隙間から零れる朝陽に目を覚ます。
見慣れた部屋に昂治は首を擦りながら、布団から起き上がった。

「夢か…やっぱ……って、俺…布団かけたっけ?」

布団を引き寄せ、障子の隙間から見える外を見た。
相変わらず櫻が咲き誇っている。

(身体がダルイ……)

溜息をつく。
するとふわりと何か匂いが鼻腔を擽った。
それは良く知った者の馨。

弟のと、友人の……

「……」

何故か笑みが浮かび、胸がしめつけられた。
昂治はそっと布団を抱きしめる。




























塞ぎこみ、昂治は寝込んでしまった。
君主の失踪。

優しくはなかったが、昂治にとっては父だ。
そして突如とも云える、弟と友人の自分への忠誠。

裏切られた

何故かそのような思いが昂治の内部を交錯していた。

「……まだ目、覚まさねぇのか?」

「うん、ショックっしょ…やっぱ、」

二人の声が朧げに耳に届く。
意識はない。
けれど音だけが眠っている昂治に入り込んでいた。

「えっ!?」

「…おい、何やって!?」

(誰か…いるのか……?)

驚愕にも似た二人の声。
そして身体が重く、熱くなっていった。
開こうとする瞼は開かず、ただ音が断続的に響く。





「欲しかったんだろ?俺が…。違うとは言わせない、」






声が静かに聞こる。

(誰……っ!?…)

笑い声。
花が散って目の前の視界を鮮やかになって

(あああああーーーーーーーーーー!!!!)

激痛が、身体を引き裂くような痛みが自分を貫いた。
そして何処かへ堕ちていく感覚。
鮮やかな視界は歪み、そして昂治は瞳を閉じた。





苦しみの中、何故か歓喜が包んだ















「なぁ…キモチイイだろ?相葉昂治、」

その声は聞き覚えのある、遠い存在。












(続)
誰かが振られるの可哀想だと思うんですよ。
特に祐希とイクミの二人は。
互いに深い想いがあるからさ……なんて。

>>back