…++Last monn++…
―Gluhendes Liebeband―
青々な草原
痛みを滲み出す
照らすは冷たく光る月よ
ワタシを照らせ
想いはココロに宿るだけで、
言葉で表す事などほとんど出来ない。
けれど言葉にしなければ、その想いの断片さえ
解らないのだ。
永遠に。
「はぁ…んぐっ!?」
こうじが祐希の上に跨り、腰を下ろす。
スフィクスの服は所々破られていた。
「あぁ…あ、あ…うっ…ん!?」
祐希のモノは引き裂くように内部へ埋没していく。
震えながらも快楽を受け止める小さな体を
祐希は静かに見た。
そして冷静な内面が自分に問う。
ドウシテ、コンナ事シテイルノ?
日々、疲れるのはもう仕方のない事だ。
少しの頭痛と眩暈を感じながら、部屋の扉に手を
やった時こうじが現れたのだ。
大丈夫か?
そう聞いて来たのだ。
その密かな響きの違う声に、内心踊りだしそうに
嬉しかった。
と同時に自分を追い立てる暗い感情が覆う。
心配そうに見る相手に自分は言った。
慰めろよ
それは行為への誘い。
こうじは静かに見据え、目を伏せた。
それは承諾でも否定でもない。
そんな相手の手を引き、部屋に入れた。
何度、こうやって部屋に引き入れただろうか。
狂ってる
狂ってる
オカシイヨ
だが飢えを満たすように
機会があればこうじを貪り抱いた。
「あ…む、無理…やだっ…」
半分ほど埋没した程度でこうじは言葉を吐く。
小さく思える体には少し無理だろう。
けれど祐希は昂治の腰を掴み、無理矢理内部へ
突き入れた。
「ひあぁあああ!!!」
目が見開かれ、ボロボロと涙が零れる。
固くなる身体を無視するように、祐希は挿入しだした。
「ん、はぁ!やっ!あ、あぁあ!」
悲鳴を上げ、後ろに倒れそうになる体をこうじは
祐希の膝に手を置く事で押さえていた。
その体勢は祐希のモノを内部の前立腺にダイレクトに
当てられる。
「あっ!あ!あ…うぅ、あ!やっ!!」
腰を回すように動かせば、内部は蠢き祐希のモノに
吸い付くようだった。
この触れている肌、服、こうじ全てが自分に吸い付く
ようにさえ思えた。
首を振り、艶のある表情でこちらを見る顔。
嫌がりながらも感じている証拠を祐希は掴んだ。
「はぁあ!?」
「いくなよ、俺がいくまで、」
「やぁあ!あ!…も、ダメ!!」
後ろに倒れ気味のこうじの身体を引き寄せ、
乱暴に腰を打ちつける。
「あぐっ!う!あ!裂け…ちゃ!!ああ!」
ベットが激しい動きに軋んだ。
「んぅ!あ…ぁあ!やっ!や、やぁ!
ねがっ…も…もう、」
縋るように見る瞳。
けれど自分に助けを求めているようには
思えなかった。逆に自分を包むような
そんな煌きがあった。
タスケテ
祐希は舌打ちをし、こうじのモノを快楽を与えるように
動きにあわせて扱きはじめた。
「あ、ぁあ!あ、ひぃあ!!あ…ゆうき!!」
「……」
彼が自分を呼ぶ。
そして自分は何も言わない。
言えない。
相手を抱きしめ、もっと強く突く。
昂治の身体がガクガクと震え出した。
喉が焼けるように渇き、痛い。
名を呼ぶ音が出ないのなら
それでいい。
俺はコイツが嫌いだ
ソレデイイノ?
沈みこむのは黒い渦。
夜。
ひとりココで何をしているのか。
それさえも解らず、ただ一人立ち尽くしている。
空には相変わらずの月。
その光りさえ今では眩しい。
「…何処?」
草原に一人、祐希はいた。
歩く事も知らないかのように、ただそこにいる。
「……」
誰もいない。
もとから誰もいない。
けれど誰かを待っていたような気がした。
ソノ人ハココニ来ナイ?
果たして自分はココにずっといたのか。
前はもっと違う場所にいた。
「…もっと別の…」
寒い場所。
暗い場所。
月も星もこの草原もない場所。
ソコヲ一人歩イテタ。
しかし今は歩いていない。
歩こうとも考えない。
道がないから。
周りの草は自分を傷つけ、空の月は
自分を刺すようだ。
痛くはない。
ただ悲しかった。
目が覚めれば、やはり誰もいない。
ぼんやりとする思考は出来事を嘘に思わせた。
身体を起こし、この何とも言えない心境は何か
把握しようとした。
すると、前にも同じような事を味わった気がした。
朝起きてアナタはいない。
抱きしめた事がウソのように。
揺れるカーテン。
ちらつくは上弦の月。
そして欠けゆく満月。
誰かが叫んでいた。
アナタが叫んだ。
記憶を深く、深く見つめる。
「っ!?…く…」
頭を割るようなヒドイ頭痛がそれを止める。
自分の意思に反してのその痛みは、
何かが記憶を辿るなと言ってるようだった。
それは苛つかせる。
ギリギリと奥歯を鳴らし、頭痛に対抗する。
だが記憶に触れれば触れるだけ、
その痛みは増していった。
俺ハ何モデキナイ
アナタヲ助ケル事サエデキナイ
でも想いは残ってるヨ?
「!?」
直接響く声にビクついた。
そして周りを見渡す。
誰もいなかった。
いつのまにか頭痛はウソのようになくなっている。
祐希は息をつき、ベットから降りた。
支度をし、祐希は外に出る。
部屋には誰もいなかった。
呼びかける者。
それは自分の歩いた先にいる。
何故かそう思った。
煮え切らないモノがあるが、けれどその者に
話をすればこの痛みの理由が解るかもしれない。
――ネーヤ……、
ココロの鏡。
ふわりと降り立つ少女は、あわせたようだった。
祐希がココへ、自分の所へ来る事を知っていた
そう思わせるほど。
祐希の前に立った少女はこうじと同じく小柄だ。
その少女が強く、大きく思えるのは
ヒトではない事と計り知れない意志の所為だろう。
「ナニ?」
「どうして…」
無垢な瞳をネーヤは向けてきた。
その煌きは目を逸らさせようとさせる。
「どうして俺に呼びかけるっ」
声が大きくなった。
ネーヤは変わらず、虚無感さえ思える瞳を向けてくる。
「何が言いたいノ?」
「オマエは知ってんだろ」
この頭痛。
「知ってるんだろ、全テヲ。」
「俺の言葉を返すな、」
この痛み。
この苛立ち。
この煮え切らない思い。
全てアナタは知っている
「それは知らないんじゃナイヨ。
アナタが見ないダケ、」
見えないだけ。
隠されてしまったから。
一人だけ残されて
すっと手を伸ばされた。
その手は白く小さい。
伸ばされた手を見つめ、顔を見た。
無表情とも思えるその顔は、祐希を見抜くようだった。
「ドウシタイノ?」
「……」
「アナタはどうしたいの?」
額を手で抑え、ネーヤを見た。
「知りたいだけだ、」
この想いを。
あの痛みを。
音にならぬ声を。
そして
こうじ……、
「記憶は消えナイ、でも消えた。
隠せるカラ消えるッテ。」
手はヒラヒラと動き、ネーヤは自分の目を覆った。
「でもそれは見えナイダケなんだヨ。
気づかないノ?」
何を言いたいのか、何を言っているのか。
祐希には少し理解ができない。
目を覆った手を外し、ふわっとネーヤは浮き上がった。
「想いは消えナイ。」
アナタに残るもの。
アナタに残っているモノ。
待ってる。
望まなくとも、ココロの底で
「あいばゆうき」
「!?」
ネーヤは名を呼び、そして壁に溶け込むように消えた。
静かになった通路に祐希は立ち尽くす。
確実にネーヤは何かを知っている。
だが自分に教えてはくれない事がよくわかった。
「……」
あいばゆうき
相葉、相葉…
自分の名
そして
ゆうき、ユウキ
祐希…祐希!!
死にたくない…
激しい頭痛が担った。
急にリフレインする記憶は真実を告げている。
けれど朧でよく把握する事ができない。
触れてはいけないかのようだ。
「祐希!」
名を呼ばれる。
駆けてきたのはカレンだった。
顔をゆっくり向け、駆け寄るカレンを見る。
「また朝食抜いて、元気でないよ…と、その話は
置いといて――使者が来たの、」
「?」
眉を顰める祐希の手を掴み、
こちらへ来るようにカレンは引っ張った。
「IDカードで連絡されてる…って持ってないのね。
えっと、すぐにブリッジに集合なの!!」
「敵か?」
「それだったら、リフト艦でしょ。
イプロマーターの使者が来たのよ、」
頭で考えを整理している内に、カレンに手を引かれ
ながらブリッジ前につく。既にツヴァイと
ヴァイタルガーダーチームの集まりが出来ていた。
その中心に政府の使者とスフィクスのこうじがいる。
カレンは祐希を掴む手を離し、目線をそちらへ向けた。
「……あ、相葉君。」
ユイリィが祐希に気づく。他の視線も向けられた。
「連絡したんだけど、応答がないからカレンさんに
様子見てきてもらったの。取り込み中だったかしら?」
「いつでーも暇よん♪」
黙ったままの祐希にイクミが集まりの中から顔を
出しながら言った。
睨みつける祐希に動じる事なく、イクミは笑う。
「あのね、イプロマーターの整備が終わったの。」
「はい、お世話になりました。
ご迷惑をかけてすみません。」
使者と思しき男が言った。
隣りのこうじは微笑みを佇ませた穏やかな顔を
この場にいる人に見せていた。
「すぐに起動の方をしなければならないので
慌しくて申し訳ないんですが、
スフィクスを向かえに来たんです。」
男は早口で言った。
それは急いでいるのがよく解らせる。
「こうじ君とお別れだから……」
それが収集の理由だった。
「――では、そろそろ」
「お世話になりました――、」
男がお辞儀し、
続いてスフィクスであるこうじもペコリと頭を下げた。
来た時もそうであったが、帰る時も感慨などなく
サッパリしたものだ。
「来たばっかりなのに…」
「残念ですね、」
「もっといれないのか?」
ユイリィ、ヘイガー、ルクスンなど口々に
別れを惜しむ言葉を言った。
「可愛がって頂けたようですね。
よかったな、こうじ。」
「はい、」
男がこうじに言う。
その光景はヤケに祐希をイライラさせた。
「では、航海の安全を――。」
「さようなら、」
こうじはそう言い、男に手を引かれ去っていく。
ココに集まった者たちは別れの言葉を口にしていく。
立ち尽くしたままの祐希にイクミは近づいてきた。
「いいんすか?行っちゃうけどー、」
「いいに決まってる、」
冷たい声にイクミは肩をひょいっと上げ、
そしてこうじの後姿を見た。
「さっきお話したんですけどー。
やっぱこうじ君…知ってる人かなぁと思うんすよ。」
「……」
「こうじ…君の事も心配してましたよ?」
覗き込んでくる碧の瞳から目を逸らすと、
隣りにいたカレンが見てきた。
「お別れの言葉くらい言わないと。」
カレンが笑みを浮かべながら言う。
そっと敢えて逸らしていた瞳を前へ向けた。
男に手を引かれ去っていくこうじ。
「……」
ココから去っていく
想いは残る
記憶ガ見エナクトモ
想いは残るものだから
ココからアナタは去っていく
――あの日……
初めて会ったスフィクス。
けれど、その姿を射止めた時
涙が零れた。
無意識にそれは溢れた。
何故?
何故?
祐希…
足を動かす。
立ち尽くしていた体が動く。
頭痛が記憶を辿る事を否定した。
「祐希?」
カレンの呼びかけに応えず、祐希は歩き出した。
他の者を掻き分け、去っていく後ろ姿へ向かう。
死にたくない
歩みは次第に駆け足になった。
相手を呼ぼうとする。
喉が焼けるように痛い。
頭が痛い。
痛みが自分を取り囲んでいく。
――こうじ…じゃない、
祐希が呼ぼうとしている彼。
傍にいたい…
祐希は手を伸ばした。
もう一度、口を開く。
「っ……」
喉がひゅっと鳴った。
生きたい
痛みをも凌駕していく何か。
それが内から沸き起こった。
死にたくない
生きたい
生きていたい
死にたくない
死にたくないよぉーーーーー!!!
「兄貴ぃーーー!!!」
祐希の声は通路に響いた。
スフィクスのこうじはその声に応えるように振り返る。
そう
アナタはワタシの好きな人
アナタはワタシが愛しているヒト
アナタはワタシの兄
相葉昂治
「…なんだい?君は??」
男の手を払い、祐希はこうじの腕を掴んだ。
そして自分の方へ引き寄せて走り出す。
「おい!!」
こうじの手を引き、呆然とする人の合間を走り去る。
「相葉君!!」
「祐希!」
「どうしたんだ!!」
声をかけられるが、無視をした。
あれほどひどかった頭痛はなくなっている。
ないと想っていた記憶が甦る。
「祐希…」
イクミが微笑んだようだった。
彼を通り過ぎ、それでも祐希は立ち止まらない。
後ろから人が追いかけてくる。
この手を引いているこうじをココから連れて行く為に。
――許さない、
「ゆうき…離して、」
こうじが言う。
その言葉を聞き流し、祐希は周りを見渡す。
「ネーヤ!!!」
祐希が呼ぶとネーヤがふっと現れた。
ネーヤは祐希と目が合うと、またふっと消える。
すると同時に祐希が歩いた後、隔壁が閉じられていった。
「離して、ゆうき。」
「……離さない、」
「離して、離して、」
「離さない、」
「ゆうき、離して!」
隔壁が降り、そして辺りは
もう誰の声も聞こえなくなっていく。
閉鎖された場所になる。
振り放そうとするこうじの手を強く握った。
「離さない、離さない!!」
「離して!…はなし…離せ!!」
「離さねぇ!!!」
穏やかだったこうじの表情が変わる。
「離せ!!!祐希ーーーー!!!」
それはこうじではない。
昂治だった。
瞳を伏せ、祐希は昂治を引き寄せた。
小さな体はすっぽり自分の体に納まる。
「離せ!」
「兄貴、」
ビクっと昂治の体が震えた。
その体を強く祐希は抱きしめる。
「ぼく…俺は…兄貴じゃ……」
否定しようとする昂治の肩口に顔を埋める。
「どうして…どうしてなんだよ、
兄貴、兄貴…アンタの存在を消したんだ!!」
「…俺は……」
「兄貴じゃないなら、振り払え!!」
強く抱きしめる祐希の腕を昂治が触れる。
小さな手は腕を掴むが、振り払う事なかった。
「どうして……」
死にたくない
「どうして、」
生きたい
「どうしてだ……」
生きていたい
死にたくない
胸が熱い。
強く抱きしめている祐希が震え出した。
「…俺はスフィクス……」
「そんなの聞いてんじゃねぇよ!!」
ワタシはアナタに何て言った?
大キライ
「……ゆうき…ゆうき?」
嗚咽が聞こえてきた。
聞き違いかと想われるそれは事実だった。
「…っ…く……」
祐希は震えながら泣き出した。
それは自分への憤怒。
また兄を守れなかった自分へのやれ切れなさ。
静かに泣く祐希を昂治はそっと触れる。
馴染むように熱が溶け込んだ。
「…やだ…泣くなよ…なぁ、泣く…なよ…」
「…あに…き……っ…」
昂治の肩に祐希の涙がしみこんでいく。
震える体を昂治は抱き返した。
「泣かない…で…ゆうき…祐希…、」
互いに縋るように抱きしめあった。
息が重なり、熱は溶け込んでいく。
胸は締め付けるように切なく熱くなった。
「…っ……」
涙を流す祐希の背を撫でる。
昂治は祐希の肩に自分の顔を埋めた。
「……俺は…オマエを泣かせてばかり…だな、」
その声は静かに響いた。
満ちる月
千切れてまた欠けるか
赤から金へそして皓
燃えるは焦がれる想い
ワタシを照らせ月よ
「タダアナタノ為ダッタノニ…」
(続)
|