+++葛姫+++

02:螺子人形






刻まれ続けるそれは

輪廻か夢か

ただ時は止まる事なく



















トランクケースの中には
小さく身体を縮みこませた人が入っていた。
茶色の髪に裸体は皓い。
少女のような雰囲気だが、煙が消えて見えるその姿は
骨格が少年そのものだった。
慌ててか、それとも反射というものか手で目を隠そうとしたイクミは
隣りの祐希を見て、その人物を眺める。

「嘘…人だよぉ…」

「アンタ、誘拐してきたの?」

あおいがじとーっと見ながら言う。

「ち、違いますよー。つーか言われた通りにケースをね…」

「あ、動いた。」

こずえが云うように、少年が起き上がり周りを見渡す。
身体は仄かに光っている。

「……ここ…」

「あーーー立ち上がっちゃダメよ!!」

あおいとこずえは目を手で覆う。
確かに裸なので下まで見えてしまう。

「もーー、どうすんのよ!」

「どうするって…えーーっとぉ、ちょいと祐希も考えてくださいよー」

「あァ?」

祐希はじぃっと相手を見る。

「…あ…」

「あ?」

「祐希……祐希!!」

少年は祐希に飛びついた。
いきなりの事で対処できなかった祐希は、その少年ごと床に倒れる。
打ち付けた痛みに顔を歪めながら抱きついてきた相手を睨んだ。

「祐希…良かった……祐希、祐希……」

「あーー、知り合いっすか?祐希クン。」

「知るか!てめぇ離れろ!!!」

腕を掴み引き離そうとするのだが、その腕の細さに祐希はビクつく。
動かない祐希に少年は眉を寄せてじっと見ていた。

「……祐希じゃ…ないのか?」

「俺は祐希だが、てめぇなんか知らねぇ、」

「お兄ちゃんだよ、昂治だ、忘れたのか?」

「だから知らねぇって云ってるだろ!!」

「何騒いでいるの?」

奥の方からファイナが歩いてきた。























「とりあえずー、そう云う事デス。」

椅子に座っているファイナにイクミはこれまでの事柄を話した。
ファイナは表情を変えず、イクミとそして祐希を見る。
部屋には3人しかいない。

「……祐希君、本当に知らないのね?」

「知らねぇって云ってるだろ!
それに…それに、アンタが一番知ってるだろ。」

己の素性は。

ファイナは目を伏せてデスク上の書類を前へ出した。
首を傾げて書類をイクミは取る。

「これは何でしょ?」

「今日届いた要求事項。昂治と名のる少年がいたら確保、
メインコンピュタープログラムと一緒に受け渡して欲しい。
それが向こうからの要求よ。」

「あ…こうじって…さっきの子っすか?」

「そうよ、偶然とはいえ良くやったわね。」

はにゃーっと笑うイクミはそのまま横の祐希を見た。
そしてファイナを見る。

「でもーさっきの子、祐希の事知ってるみたいだったんすけど。」

「知らねぇ!俺は!!」

イクミは祐希の肩をポンポンと叩き、ファイナの言葉を待つ。
指を組んで、ファイナは口元を隠した。
そして軽い笑みを浮かべる。

「ええ、解っているわ。彼の見間違いでしょう。
それより受け渡しの期日が明後日だから、しっかり警護するのよ。」

「らじゃー、」

祐希は目を逸らし、何も応えなかった。
そのまま祐希とイクミは部屋から出て行く。
出るなり、バタバタとこずえが走ってきた。

「何か云ってたぁーー?」

「みゃーー特には、」

「こうじ君はね、今あおいちゃんと一緒にいるよ。」

ボソボソと云って視線を奥へと流した。
その先にはあおいと昂治の姿がある。
白のキャミソールに黒のハーフパンツはあおいの物だろう。
女性の物にも関わらず、昂治には良く似合っていた。

「はう…結構カワイイですねぇ、」

祐希に聞こえる程度にイクミが云った。

「趣味悪ぃな、てめぇは。」

「あはは、」

「いくみぃ???」

にこにこ笑ってイクミは手を振った。
奥にいたあおいと昂治が気づき、ゆっくりと近づいてくる。
昂治はそのまま祐希の前まで近づいて来た。
目を細め凄む目つきに、昂治は軽く項垂れる。

「…ごめん…弟だと思ったんだ、」

「君の云う“祐希”って弟さん何ですか?」

「あ……うん……似てたから…。」

あおいに祐希の事を少し聞かされたらしい。
それが彼の記憶の祐希とは一致しなかったと推測される。

「真っ暗でさ…気づいたらココに、俺、どうやってココに来た?」

トランクケースの中に入ってた。
とこずえが言おうとしたが、イクミは口を抑えてにゃははと笑う。

「あのね、玄関に倒れてたです。」

「そっか……俺さ…行かなきゃいけない約束が…」

「あーー安心してくださいです。
約束している方が連絡くださいまして、明後日にお送りします。」

「そうなのか?そっか…よかった。」

ふんわりと云った感じでイクミの発言に笑みを浮かべる。
簡単に信じる様は幼く感じた。

「だから、ココにいてくださいです。」

「ああ…迷惑かけないようにするよ。」

そしてお辞儀する昂治に祐希は去ろうとする。

「あの、祐希…くん、」

「祐希でいい、」

面倒臭げに祐希は云って去っていった。
ふぅっと息をついて、昂治は視線を落す。

「どうしたの?」

「え…いや……やっぱり怒らせてしまったかな、」

「違うよ、祐希君はいつもあんな感じだよね。」

「そうそう気にしないでくださいですー。」

笑うイクミとこずえに軽く昂治は視線を上げた。

「俺は……どうしていたらいいかな?」

「うーん、じゃあさ朝食作るの手伝ってぇ。」

こずえは昂治の手を引き、台所の方へ消えていった。
残ったあおいとイクミは見合わせる。

「ファイナは何て言ったの?」

「えーっと受け渡しの時に昂治君も一緒にって、」

ふーんとあおいは返す。
イクミは腰に手を当て、あおいを見る。

「あの昂治君は何か言ってました?」

「うん、祐希の事なんだけど。
3年前まで一緒に住んでて、急にいなくなったから探してたって。」

「3年前……、」

「3年前はもうココにいたでしょ?
でね、その彼が云う“弟”の年齢を聞いてみたんだけど。」

「見事に歳が違ったわけっすね。」

コクコクとあおいは頷く。
イクミは腕を組んで上を仰いだ。

「まぁアレですかね。
地上には似ている人が最低7人はいるーってヤツ、」

暫くして朝食の準備が完了した合図が出された。
小さい窓がいくつもある居間は電気もつけずとも明るい。
木製のテーブルとイスにいつの間にか決まっている位置に
それぞれが座る。
当然のように昂治はどうしようかと悩んでいるようだ。

「えっと、昂治君はココね。」

「あ…ありがとう、こずえさん。」

波長が合うのか知らないが、昂治とこずえは仲良くなっていた。

「えっとね、その卵焼きとオニオンスープはね。
昂治君が作ったんだよぉー。」

こずえの言った事に昂治はにっこりと笑っている。
それは小さな子供が初めて料理をして、得意気に胸を張っているのに
とても似ていた。

「そうですかー、エライ、エライです♪」

微笑ましいそれにあわすように、隣りに座っているイクミは
昂治の頭を撫でて褒める。
この歳の青年が嫌がるだろう行為を昂治は嬉しそうに受け止めた。

「はふv」

ほぼにやけると言った感じの表情にイクミはなった。

「ちょっと、キモチワルイ顔しないでよ。」

「キモチワルイってヒドイですわー蓬仙さん。」

昂治はゆっくりとイクミの隣りに座っている祐希を見た。
祐希は既に食べはじめている。
視線に気づいたのか、相手はほぼ睨み返すといった感じに見てくる。

「…おいしい…?」

おずおずと昂治が問う。
それに祐希は口を開くがすぐに閉じた。
相手の表情は今にも泣き出しそうで、いじめているように感じさせる。

「祐希くーん、何か応えたらどうですぅ?」

横のイクミがにんまり笑いながら言った。

「……まずくはない、」

ぼそっと一言だけ謂う。
だが昂治はそれだけでとても嬉しそうな顔をした。





















外の花街特有なネオンが格子窓から入ってくる。
カチカチと祐希は床上に部品をばら撒きながら、小型拳銃の
手入れをしていた。
形的にはグリセンティによく似ている。

「まーた、改造してんですかー?」

シャワーを浴びてきたらしいイクミが頭にタオルを被りながら
部屋へ入ってきた。

「てめぇが作業が遅いからな、」

「だって俺、突撃系じゃないしぃ。」

イクミはガシガシと頭を拭いて、ベッドの上に座る。

「今度は何を上げるですか?」

「…殺傷力、」

「あーー、恐い恐い。」

揶揄う口調なのだが、無視するように手元を動かしていた。
イクミは上を仰いで、タオルを取る。

「イクミ君的には、ビックリでした。」

「あァ?」

イクミを見る事なく、祐希は聞き返す。
少し馬鹿にでもするような色が含んでいたが、
差ほど気になどしていないように言葉をイクミは続けた。

「昂治君、」

片膝をたてて座り、腕の上に顎を置いた。

「知らない場所にいて、すぐ馴染むのがさー。
普通、もの凄く警戒するもんじゃん。
しかもすぐ人を信じて、子供みたいに褒められても怒らない。」

「馬鹿なだけだろ、」

「……身体的年齢と精神年齢が違うのでは?
なんて思ったりするわけよ。」

「はぁ?」

トントンとイクミは自分の頭を叩いた。

「ここが、ね。少々ダメになってるのかなって、」

「ピヨってるって事か、」

「あら、汚い言葉。嫌われちゃうっすよー。」

にゃははと笑いながら言うイクミをジロリと祐希は睨んだ。
あまりその眼光も効き目がないらしく、イクミは後ろにばふっと倒れる。

「まぁ、とりあえず。依頼の事なんですけどね。
どうして昂治も一緒になのかなぁーと思ったワケよ。」

「関係ねぇだろ、そんな事、」

「そうなんですけどね…少し気になっただけですー。」

チャリ…

カードの形をしたペンダントを手で弄ぶ。

「そう云えば…君と兄弟だって言ってたですねぇ。」

「知るか、」

ペンダントは淡く光を反射して、イクミの顔を照らした。
ガチャガチャと音がし、視線だけ向ける。
祐希が改造を終えたのか、片付けはじめていた。
ペンダントを胸元へ落とし、イクミは欠伸を一つつく。

「おい、」

「んにゃ?」

片付けを終えたらしい祐希がベッドに上がった。
ベッドが少し軋み、のそりと四つんばいになって祐希が覗き込む。

「やるぞ、」

「ほえ?ほえ?何を???」

「……」

バキッ

イクミの頭を祐希が叩いた。
すぐに頭を押さえてイクミは相手を恨めしそうに見る。

「何するですかーー!」

「殴った、」

「むむーーー、」

「…それより、やるぜ。」

相手の顎を掴んで祐希が言う。
それにイクミは小さな溜息を零した。
祐希は眉を顰める。

「もうちょっと…さ。ねぇ、」

「あ?」

「雰囲気とか作ろうとか思わないですかー?
何かおっぴろげーって感じ?」

「うるせぇ、」

「……まぁ、Give and takeだから仕方ないっすかね。」

軽く笑うイクミは祐希の頭を撫でた。
不機嫌そうな顔をしながら、祐希は目を伏せる。
外から変わらずネオンが流れ込んできていた。








互いに唇をゆっくりとあわす。
戸惑いもなく、薄っすらと開く相手の隙間から口腔へ
熱い舌を入れる。

「ん…、」

「…っう…」

漏れる声は熱っぽい。
寝ているイクミの上に祐希が乗り、口付けを繰り返す。
相手の口腔を犯すほどの舌の動きは、息を奪わんばかりだ。

「ん…ふぅ……ちょいと苦しかったです、」

笑うイクミを祐希は静かに見る。
伸びた手は縛っているゴムをゆっくりと外した。
パサリと髪が下りて肩にかかる。

「今日はどうしましょうか?」

「……軽く、」

「了解です。」

反転させてイクミは祐希に覆い被さった。
押し倒されているのだが、相手の眼光は弱まる事はない。
頬を撫でて、シャツをたくしあげる。
細い体はけれど、しっかりと筋肉がついていた。

「…っ……」

撫でる指に祐希はビクつく。
笑みを佇ませたまま、首筋に唇をイクミは寄せた。

「ぁ…んん……」

口を噛み締めるように噤み、イクミの肩を掴む。

「声…我慢してるですか?」

「…うるせぇ……ひゃあ!?」

引っくり返った声に笑みを零して、シャツの裾をたくし上げる。
肌に手を滑らし、乳首を抓んだ。
すると祐希の身体はビクつき、瞳を少し閉じる。

「ここ、感じますよね、祐希君って。」

「何いってやが…っ…あ、…んぅ、」

「そう…その顔、結構カワイイですです。」

首筋を舐めていたイクミは、音をたてるように乳首へ唇を寄せた。
片方を吸い、片方を手で抓む。

「ぁ…あっあ…あ、あ…」

喘ぎの声には戸惑いなどなく、凛として響く。

「ん…でも……少し似てるかもね、」

「ふぁ?あ……」

「感じてる時の顔…ちょいと困ってる感じの昂治クンに。」

「バカ…か、てめぇは。」

「そうかもね、」

祐希の悪態も軽く返して、イクミは身体の中心を辿った。
くすぐったそうに震える身体はしっとりと汗ばんでいく。

「あ…ん、んぅ…」

脇腹を撫でて、カチャカチャとズボンを脱がしはじめる。
羞恥はあまりないようで、なすがままだ。
けれど顔を見てみれば頬が赤く、少し困ったような顔をしている。

――こういう時は歳相応の顔っすね…

思う事は口には出さなかった。

「あふ…ぅ……ん…ちゃんと…しゃぶれよ、」

「ふあーーーい、」

足を立たせ、その間に自分の身体を割り込ませた。
反応を示しだしているモノをイクミは口に含む。
少し広がる苦い味に笑みを浮かべながら、舌を絡めた。
筋肉がついているのにも関わらず、柔らかい太股がイクミの顔を挟む。

「はぁ…あ、下手…んぅ…ひゃあ!?」

モノを吸いながら顔を上下に動かす。
強めに吸い付いているのか、音が外に漏れなかった。
開いている手で秘部の方へイクミは指を伸ばす。

「あ、くぅ…んっ!あ、あ!」

少し苦悶の表情を浮かべて祐希は顔を左右に振る。
そしてイクミの髪をくしゃくしゃにするように掴んでいた。

「きもひいいでふか?」

口に含んだままイクミが喋る。
それも刺激になって祐希の腰がベッドに打ち付けるように何度も動いた。

「ぁあ、あ…あ、ん…っいた、」

「んぅ…はむっ……」

内部をかき回す指はいつのまにか3本に増えている。

「ひはっ!?」

ビクンとなり、裏返った声が響いた。
前立腺に指が触れたのだろう。
ちょうど第二間接が入った辺りである。

「んぅ、ん、あ、ああっ…!!」

「ふぅ!?……ん…ん……」

前立腺を軽く齧ると祐希の腰が跳ね、精を吐き出した。
イクミは目瞑り、それを全部受けとめる。
ゴクンと咽喉を鳴らして飲む仕草は相手へ羞恥をもたらすものだ。

「…ん?どうしました???」

それは祐希にとっても例外ではないらしい。
顔を上げたイクミから、ふいっと顔を逸らした。

「……別に…」

にっこりとイクミは笑い、まだ内部に入ったままの指を動かす。

「っあ!」

「……いい?」

「聞く…な、バカがっ」

「一応、今は“恋人”なワケだしぃ♪」

「脳ミソ…腐ったか、このクズっ」

「あーー、そういう事いう?いいのかな?この状況で、」

イクミの言い分に顔を顰める祐希だが、
すぐに何を意味しているのか把握したらしい。
何か言おうとした祐希だが、与えられた刺激に背を逸らした。

「ひっああぁあ!!!」

猛っていたらしいイクミのモノが祐希を抉る。
いきなりの侵入にビクビクと痙攣していた。
だがイクミは差ほど気にする風もなく、全部内部へ入れる。

「くぅ…ひあ!……」

「おイタする子はめっ!ですよ、」

「バカ…やろ……んあ!あ、ああ、…急にっ、あんっ!」

律動しだすイクミの肩を祐希が掴む。
浮く足は淫らに揺れていた。

「はぁ、ああ!あっああ!あ、んぅぅ、」

苦しそうな表情はけれど、快楽へと溺れていく。
パサパサと解けた髪が布団の上に広がった。
軋むベッドのスプリングは相手の動きの激しさを物語っていた。

「やぁあ…あっぁあ!ひぃ…あん、あ、あ…ああ!」

ふと切なそうな表情になり、眉を寄せながらイクミを見上げてくる。
あまり見ないその表情は迷子の子のように見えた。
笑みを浮かべたイクミは祐希に唇を寄せる。

「んぅ!んん、んっ!はぁ、はぅ…ふぅ!!」

舌を絡めて、唇を離した後も外で舌を絡めあう。
快楽が祐希の瞳を滲ませ、涙を流させる。
イクミはモノを扱きながら、動きを早く深くさせていった。

「っい、ああ!!あ!!…っっ!!!!」

「ん…!!」

これ以上入らないくらい深く突き上げられる。
内部に熱い迸りを受けた。
声にならない悲鳴を上げて、祐希の身体が弓なりに反る。
そしてイクミの手の中で精が吐き出された。
糸が切れたように力が抜けていく相手に、イクミは覆い被さる。

「ぁ…あ…あぁ…ん……」

半分意識が飛んでしまったようで、喘ぎのような声が祐希から漏れていた。






ゆっくりとイクミはずるりと内部からモノを出す。
音をたてて受け止める場所ではないと知らしめるように
白濁の液が出てきた。

「……下の口って……言うだけありますね、」

視線でその光景を見やってイクミが言う。
それに通常を戻し始めた祐希が見下すように見た。

「変態、」

「ヒドイ、感想述べただけなのにぃ。」

前髪を掻き分け、半身を起こしたイクミから目を逸らす。

「…あ、ちょっと恥ずかしがってます?」

「…何言ってやがる、この趣味最悪野郎っ。」

「あは、かーわいいv」

「うるせぇっ、殺す……、」

カタッ

何か物の音がして二人は視線を向けた。
音がしたのはドアの方で、ドアが半分開いている。
そこに
伺うように覗いているように昂治が立っていた。

「「っ!?」」

ばっと離れるというより、祐希が思いっきりイクミを蹴り飛ばした。
床に落ちたイクミを腰を擦りながら覗いている昂治を見る。

「あのー…ですね、これにはワケがありましてですね…」

「……」

見苦しいな、と思いつつイクミは理由を言おうとする。
だが昂治は訝しむ事なくじっと見ていた。

「……何してたの…?」

「何って…ナニを…」

正直に言うイクミの頭を脱がされら服を着用しながら
祐希が殴った。
そして昂治を睨む。

「何処から見てた、覗き野郎が、」

「あ…えっと……何か下のヤツ入れてる所から、」

「濃い所から見てたワケね、」

首を傾げて昂治は二人を見ている。

「何してたの?」

まだ問う昂治に祐希は前髪をくしゃりと掴みながら
相手を睨んだ。

「セックスしかねぇだろ、」

「…せっくす?それって何??おもちゃ?」

「「はぁ?」」

真顔で聞く相手に祐希とイクミは一瞬思考が止まった。
目を顰めて何か言おうとした祐希をイクミが止める。

「あのー、つかぬ事お聞きしますが。
子供ってどうやって出来るか知ってます?」

「そんなの知ってるよ。
コウノトリが運んでくれるんだろ、」

少し得意気に言う昂治に祐希は射抜くような視線を向けた。
それに昂治がビクっと震える。
落ちたイクミはベッドの上に座ってポンポンと祐希を叩いた。

「やっぱ…ちょいと障害持ちのようっすね、」

「ピヨってるのかよ、」

「汚い言葉ぁー……で、昂治クンは何の用ですか?」

覗きこむようにしていた昂治が控えめに二人に姿を見せる。
手には白いタオルが持たれていた。

「眠れないんだ…、」

「外少しうるさいですからね…部屋変えるっすか?」

ふるふると昂治は首を振る。

「あの…あのさ……」

口を数度開き、そして昂治は俯いた。
何が言いたいのか苛々している祐希を宥めて、イクミは微笑む。

「ちょうど、ココのベッドさー広いんだよね。
しかもココあんまうるさくないし…ちょっとイクミ君寂しい時ですし。」

「何言ってんだ?てめぇは。」

「まぁまぁ…えっと、良かったら一緒に寝ます?」

そうイクミが言うとパっと明るい表情になった。
どうやら一人では眠れないようである。

「ざけんな、ただでさえ狭っ…、」

がしっとイクミは祐希の口を塞いで、人差し指を唇に当てた。

「でも約束してくれますー?」

「約束?」

「はいなー、今見た事をさ誰にも言わないって約束。」

「そうしたら、ココで寝ていいのか?」

にっこり笑ってイクミは頷いた。

「ああ、約束する♪」

「じゃあ、おいでv」

不本意らしい祐希は昂治を見て、イクミを睨み溜息をついた。
溜息というよりは舌打ちに近かったが。
タオルを引き摺って中に入ってきた昂治は
腕を広げたイクミに抱きついた。

「……なんか…ベトベト…」

「べとべと?……あ゛、」

まだ処理をしていなかったのにイクミは気づく。
何か言おうとしたイクミだがペロペロと昂治はソレを舐め取った。

「はうっ…ちょっと萌え……」

バキッ

ベッドの上で胡座をかいている祐希が肘を付きながら
イクミを叩いた。

「ちょっと何すんのー、ちゅーかヤキモチ?
裏返せば、祐希クンのしょ。このベトベトはー、」

「ばっ…」

真っ赤になる祐希に昂治はゆっくりと近づく。
そしてじーっと祐希を見た。

「な、何見てやがんだっ」

「ベトベト、」

「あァ?」

そう言ってイクミと同じように身体についていた
情事の名残を昂治は舐め取る。
チロチロと擬心地のない舌の動きはイクミの言う通り
ある意味“萌え”的な要素を含んでいた。
頬を真っ赤にして、舐めさせたままの祐希をジトリとイクミは見る。

「萌え萌え真っ最中っすか?」

「違うっ」

否定するには些か頬が赤すぎた。
深いツッコミは止める事にしたのか、ポンポンと昂治の頭を撫でる。

「まぁ、とりあえず寝ましょう♪」

とは言っても、情事の処理を祐希とイクミは行って
昂治と共に布団を被った。
キョロキョロしている昂治に欠伸をしながらイクミは見る。

「どうしました?」

「…どっちに寄った方がいいかなって、」

「あーー、じゃあ祐希クンの方に寄ってくださいな。」

「おい、勝手に決めんじゃねぇよ!」

祐希の反対の声も聞かず、イクミは昂治を祐希の方に向かせて
後ろから抱きしめる。
そして少し離れていた祐希を引き寄せた。

「昂治クン、細いですねぇ、」

「おいっ!何で俺が、こんなヤツのっ」

「いいじゃないの、ねぇ。」

密かに覗くイクミを睨み、昂治に目を向けた。
イクミに抱きしめられている昂治は控えめに祐希の胸へ頬を寄せている。

「あのさ……誰にも言わないから、今度さっきの“せっくす”を
俺にもやらせてね。」

昂治には楽しそうに見えたようだ。
単純な言葉はけれど、想像を掻き立てられ何とはなしに
祐希とイクミは真っ赤になった。
寝息をたてはじめた昂治に二人は溜息を零す。

「にゃはは…らしく、ないっすね、」

「バカが、」

包むぬくもりは、二人をゆっくりとあたためていった。




















何処かの施設だろうか。
灯りのない夜の廊下を二人の青年が歩いていた。

「プログラムチップを獲られたようですね、」

神経質な面持ちの青年が言った。

「俺が獲ってやったのによ、」

野生という雰囲気を持つ、
力がありそうな青年が腰に手を置きながら言った。
片方はヘイガー、もう片方はフーと名のる者である。

「ゲームは楽しんだ方が宜しいでしょう?」

「…まぁな、で、どうすんだ?」

「少し待てば、すぐ楽しめますよ。」

フーは息を吐き、早く体が動かしたいのかブンブンと手を振った。

「慌てずに、ほら…螺子人形なんかは螺子を回す時間を要します。
それと同じ事です。」

「そう…だな、まぁ楽しませてもらうぜ。」

すっとフーはその場から消えた。
笑みを浮かべたヘイガーは窓の外を眺める。
星が煌く綺麗な夜空だった。
















動く人形

セルロイドの肌に硝子の瞳

瞳を閉じて見つめるは

光なき夢






(続)
私、祐希受の人じゃないですよ?
と言い続けている……。
隠しだった、イクミ×祐希を入れておきました。
何故か、上手だねと褒められた記憶が
忘れられません…祐希受じゃ、ないですよ……がふっ

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