**神の花嫁**

07:夜舞宴曲















色々な言葉

色々な映像

俺の頭にフラッシュバック

そして明滅する光に包まれ

映るのは……



















「はぁ…疲れました……」

寮室に戻れたのはいつもより数時間遅かった。
部屋は暗く、同室の祐希は寝てるのかと思ったが

「ただいまを云う相手もいなーい…なんちゃって、」

祐希は不在だった。
一人でボケツッコミをし、脱力しながらベットに倒れこんだ。
体が布団に沈み、心地よい。
今日は色々あったとイクミは思い起こした。

鳥の死体
手紙
祐希
忠告

そして昂治とのキス

「はふ…」

枕を引き寄せ、顔を埋める。
思い出そうとすればまざまざと思い出される唇の感触。


赫の血は
アナタにも流れているだろうか
あの人と同じ赤いのが…

「……ダメだぞ、ダメっすよ…尾瀬イクミ、」

ふるふると首を振ってイクミが起き上がった。
その時、コンコンと扉がノックされる。

「はいはーーい、ドナタでしょか?」

ノックするのだから祐希の筈はない。
イクミはスタスタと行き、ドアを開けた。

「やーーん、イクミまだ制服だぁ、」

「アンタ着替えないで寝てるの?」

「……あのこずえさん、あおいさん…何しに来たんでしょか?」

私服姿のあおいとこずえだった。
イクミは頬を掻いて、二人を眺める。

「祐希はいないの?」

「いないというか…帰ってないというか……」

「ダメでしょ!!ちゃんと面倒みなさいよ!!」

「あのーー、何しに来たんすか?叱りに来たならドア閉めますぅー、」

「キモチ悪い喋りしないでよ。あのね頼みに来たの。」

ほらっと言いながらあおいがこずえの背を叩いた。
こずえは前で指をもじもじさせながらイクミを見上げる。

「一緒に学園校舎に来て欲しいの……」

「え、なんで???」

「あのね、キャンベル先生に呼ばれて…その……、」

「先生?こんな夜中というかまだ8時すぎだけど…ホントっすか?」

「そう。急で吃驚しちゃった。でもホントなのこずえに電話が来て
で、女の子だけで校舎行くのも不安だから頼みに来たの。」

「にゃるほど…ボディーガードって事っすか?」

「そういう事、」

「いいよね?」

「もちろん……」





夜、学園に入るな







ブルーの言葉が頭で反芻する。

「うーん……」

「ちょっと他に頼む人いないから尾瀬に頼みに来たのよ!」

「…わかりましたー、行きまっしょい!」






もう随分昔に
忠告を破ったコトがある

破るコトは

慣れてる


























空は星が明滅し、月は淡く三日月に光っていた。

「……数が多いわね、ゾクゾクしちゃうわ……」

「だが多すぎる、」

ちょうど東校舎の3階、理科室にファイナとブルーがいた。

「多い方が昂治に迷惑かけなくて済むわ。」

クスクスとファイナは笑う。
ブルーは無表情でそれを見た。

「……さぁ、いらっしゃい…甘美な時間を味わいましょう――」

ファイナが手を差し出す方、部屋の隅に何か蠢く物が充満していく。
それは粘着質な音を立てて広がっていった。

































「やっぱ恐いぃぃーー、」

「それにしても、どうして呼ばれたんすか?」

こずえに腕にしがみつきられながらも、あおいにイクミは聞いた。
生徒玄関ではなく、客人用の中央玄関から校舎内に入る。
無論、上履きはないのでスリッパを拝借した。

「あのね、何か大事な話があるからって。」

「そうなんですかー…」

呼ばれたという事実は本当だろう。
廊下は職員室へと案内するように電気が灯っていた。

「ホント不気味だね…夜の学校って、」

「あのー押さないでくれないっすか?」

「ほら、早く行く!!」

あおいはイクミの後ろに周り、イクミの背を押した。
新しい方の校舎だが、その雰囲気が古く感じさせている。
漸く職員室について、扉を開けた。

「失礼しまーす、」

イクミが入り、背に隠れるようにあおいとこずえが入った。
明かりのついている職員室の隅に先生が立っている。

「あの…大事な話って何ですか?」

こずえがイクミの腕を掴みながら言った。
先生はのそり、のそりと云った感じで近づいてくる。
あおいもイクミの腕を掴む。

「いやー来てくれて嬉しいよ。
しかも思ったとおりに来てくれて…こちらも手間が省ける。」

「せんせ……?」

「待っていたよー…尾瀬イクミ!!!」

「っ!?」

イクミの体を引き寄せようとした手を交わす。
先生の手はドロっと形を崩し、黒いアメーバ-のような物体になった。

「「きゃぁあああーーーーー!!!!」」

あおいとこずえは叫び、イクミにしがみつく。
アメーバのような物体は臭気を帯び、もの凄い速さで迫ってきた。
二人の手を引き、イクミは職員室から出る。
そして扉を閉めた。

「あ…あ…なに、なんなの…」

「いくみ…恐いよ……」

「まず落ち着きましょ、多分、外に出れば…」

ガターーンッ

扉を破壊し、アメーバ状の物体が出てきた。
あおいとこずえは尻をつき、恐怖に震えている。
だがそちらへ行かず、イクミの方へ寄ってきた。

「…蓬仙にこずえ、学園から先に出ててくれ!」

「いくみはぁ……」

「コイツ、俺を狙ってるみたいだから!!」

イクミは走り出した。
案の定、そのアメーバ状の物体はイクミを追いかける。

「イクミーーーーーーーーー!!!!」

叫びが木霊した。














これは罰
これは罪



これは愛
















走りにも持久力にも自信はあった。
けれどそんなに走り続ける事はできない。

――何で追っかけてくるんだ?

アメーバ状の物体。
感じからして、自分に害する物だとは解る。
イクミはそっと後ろを見た。

――ありきたりだけど…

イクミは加速し、横道にぱっと曲がった。
アメーバ状の物はそのまま曲がらず、突っ切っていく。
息を吐き、イクミはそのままその道を走った。

コツ、コツ…

誰かが歩いてくる音がする。
窓からの光ですぐに誰なのか把握できた。

「祐希、」

「……」

イクミが名を呼ぶと、相手は嫌そうに顔を顰める。

「君、どうしてココにいるんすか?」

「気づいたら夜になってただけだ、」

「何じゃそりゃ……」

「アンタこそ、何でココにいる?」

「えーっと…それより早く外に出ましょ!!」

祐希が目を細める。

「何で、」

「変な物が追いかけてきてるんす!」

「あれか?」

指差した方はイクミの後ろだった。
イクミが振り返って見てみると、大量の黒い水のようなモノが流れ込んできている。
慌ててイクミは走り出した。
だがその物体が迫ってきても祐希はその場に立ったままだ。
こういう状況の場合、見捨てていくのが本能だ。
しかしイクミは戻り、祐希の肩を持ち引っ張った。
迫りくるう謎の物体を避ける為に横の教室の扉を倒して中に突っ込む。
ガタンっとイスや机にぶつかり、床に背を打つ。

「……何すんだよ、」

「何って…あのな!」

抱えている祐希を怒鳴ろうとした時、ぴちゃっとした音がする。
すぐに抱えている祐希と一緒に起き上がると、
イクミのブレザーの裾に黒い液体がこびりついている。
それは蒸発し、服を焦がすように溶けていった。

「!!」

イクミはブレザーを脱ぎ捨てる。
じわじわとブレザーは溶けていった。

「……あのままにしておけば、俺はこうなってたのに、」

イクミから離れた祐希が云った。

「何…云ってるんだ!!この反抗期中の目つき悪い子ちゃん!!」

「うるせぇよ」

「あのねーー、感謝してくれません?
俺のブレザーがこうなちゃったんすから!」

「だからあのままほっとけば良かったんだって言ってるだろ、」

死に急いでいるような口調にイクミは顔を怒りに歪ませる。

「死ぬ、死なないってのは勝手だけどな。
逃げる為に死ぬのは甘ちゃんが考える事なんだよ!!」

「んだと?」

「死は、死は!!」







どうして…

ワタシたちは…姉弟なのかしら……










ガシャンッ

窓ガラスが割れる。
そして黒々とした大きな手が中へ入ってくる。

「「っ!?」」

祐希を弾き飛ばし、イクミの首をその手は掴んだ。
引き千切るかのように強く握られ、イクミの体はそのまま宙へ浮かされた。
人の手ではない。
掌は首から上半身まで包んでいる。
手、手首、腕。
黒くそして所々に赤い眼球のような物がつき、ドクドクと脈打ちが聞こえる。

「ぐっ……」

何とか逃れようとするが無駄な足掻きである。

「見ツケタゾ…」

手の持ち主だと思われる相手が見えた。
顔は変形し口は大きく牙がはえ、角が4つついている。
イクミは視線をめぐらした。
打ち所が悪かったのだろう、弾き飛ばされた祐希は教室の隅で気を失っている。

――死ぬのか…ここで?

イクミはぼやけてくる視界で異形の者を見た。

――ワケもわからず……

「サァ…行コウ……」

――何処へ










愛してるわ





姉さんの所?







行けるわけない

行けるわけないじゃないか!!


















「ナニ!?」

イクミを掴んでいた手が切り刻まれる。
そして白い光が灯り、その異形の者は雄叫びと共に消えた。
一瞬の出来事でイクミの体は光に包まれ、そっと地に寝かされる。

「……」

首をしめられていた。
その所為で酸素が行き渡っていない。
朦朧とする意識の中、誰が自分を助けたのかイクミは把握しようとした。

「平気?痛い所はない?」

優しげな声。

――誰……

そっと伸ばされる白い綺麗な手。
そして純白の羽根が飛び交っている。

――天使……?

その温かい雰囲気はとても知っていた。

「姉さん…姉さん……」

そう呼ぶ。
呼んだ名に相手は微笑み、自分を包んでくれた。
和毛が体をあたため、そして浄化してくれるようだった。























視界は真っ暗になった。
何処かを漂っているのか、体は浮遊している感覚がある。
暗いのは何故か目を瞑っているからだと思い、イクミはそっと瞳を開いた。

「はは、何やってんだよっ」

そこには微笑む昂治がいた。
制服ではなく、白いパーカーにハーフパンツを着ている。

――え?

「ばかっ、やめろって…水かけんなよ、」

イクミは動いてはいない。
だが前の昂治は誰かに水をかけられていた。
周りは見たことのない海だ。

――俺じゃない…?

「やったなーー、お返し!!」

バシャンっと視界に海水が広がる。
そして笑っている昂治が尚も水をかけた。

「どうだ!わ、ちょっと待てってば…!」

無邪気に笑って、水をかけあいをしている。

――誰?

「ふっ…あははは、ははは、」




見ナイデ





――え?





「ちょっとは加減しろよなー…それ!」






見ルナ
見ルナ

コレハ自分ダケノモノ


――誰だ?



渡サナイ



「うわ、口の中入ったー、本気で行くぞ!」

微笑む昂治は自分の知らない昂治。
水に反射する光は昂治を綺麗に映す。






誰ニモ

渡スモノカーーーーーー!!!!





――っ!?







さざ波が耳に残り、
チリンっと小さな鈴の音が耳をくすぐった。






























「――くみ、いくみっ!いくみ!!」

次に視界に広がったのは心配そうに覗き込むこずえだった。
イクミが起き上がると、そこは保健室だった。

「あ…あれ…、」

「もう具合悪いんだったらいいなさいよ、いきなり玄関で倒れるんだもん、」

「ほえ???」

あおいの言葉にイクミは首を傾げる。
横を見れば同じく祐希が目を覚ましていて、のんやりと天井を見ていた。

「あ、あのワタクシ、倒れたんすか?」

「そう、で二人で先生呼んで運んだんだよ。
そしたら相葉クンも倒れてて、」

こずえが嘘をついてるとは思えない。
しかも溶けて消えたはずのブレザーも着ている。
イクミは軽く笑みを浮かべて俯いた。
奥からキャンベル先生が来る。

「大丈夫か?」

「え…まぁ、大丈夫っす。」

身を案じる言葉に軽く受け答えをし、イクミは息をついた。

――夢か…変な贈り物来たし…疲れて……

はらりと何かが落ちる。
それは純白の羽根だった。

「っ!?」

――夢じゃない??

そっと隣りの祐希を見る。
相手は無愛想な表情だったが、瞳が軽く揺れていた。

――夢じゃ…ない、

ポケットの中の鈴が小さく鳴る。
それは思いを確固たるものにさせた。























明滅しながら映るは
彼の日の記憶
彼の日の想い


表される現象は一つの焔

















(続)
イクミと祐希のどつき?みたいな会話、
上手い下手は別として書くのは好きです。
ある意味、義兄弟(爆)

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