**神の花嫁**

03:瑠璃色の囁きの中















浮いて

沈んで

「神様…お願いします」

ココは

「お願いします…叶えてください」

何処?

「叶えてっ…」

誰?

泣いてるのか?




頭がガンガンする




「あああーーーーーーーーー!!!!!」




悲鳴

誰?誰?ダレだ?




ガシャンッッ






何か壊れたような音





「神様なんていないんだ」





ダレ?
















目を覚ませば、先生の声が聞こえてくる。
机の上に広げられた教科書やノートを見て、
改めてイクミは今は授業中だと認識する。

――あちゃー…眠ってた?

頬をさすって、黒板を見た。
結局の所、さきほどのステンドグラスが割れたお陰で
昂治に会いにいけなかった。
大怪我をしないまでも、手や頬にたくさんのかすり傷が
出来てしまった。
イクミはちらっと横を見る。
盗み見た先には、祐希がいる。
机に突っ伏している彼は寝ているようだった。

――なーんかねぇ……

浮かぶ疑いにイクミは嘲笑する。

――ま、怪我も軽かったし。
   昂治クンの事でもーー……

昂治の姿が頭の中で映れば、脈拍が早くなる。
そして顔に笑みが浮かんでくる。

「……」
 
その笑みはにやけたモノだったのだろう。
隣りの祐希が目を細めて見ていた。
しかもバカにでもするような視線だった。

――あーバカにされて……

それは急に流れ込んできた感じだった。



何も変哲のない道路
信号機

断片的な映像が頭を駆け巡る。


人の波


誰かが叫び……



「来ちゃダメだよ、」




ガタンッ

イクミは席から立ち上がった。
忘れているが授業中であって、視線が集まる。

「どうしたんだだね?尾瀬君。」

「え、あ、いえいえ…」

笑いの的になったが、イクミは軽く笑って誤魔化した。
隣りの祐希はと言うと、また腕を枕に寝ていた。










午後、掃除をそこそこに終えて。
イクミは廊下を走っていた。
階段を下りて、渡り投下を通り過ぎて。

――うにゅー…どきどきします…

制服のネクタイを緩めて、ドアに手をかけた。
旧図書館である。
ゆっくりとドアを開けると、中からひんやりとした空気が
流れ込んできた。
中に入り、周りを見渡した。
洋館を思わせる、中の造りは時代を重ねた所為もあり
重々しく感じさせた。

――あっv

奥の方に昂治がイスに座っていた。
トコトコと近づけば、相手もすぐに気づく。

「…あ、イクミ。」

「へへ、来ちゃいましたv」

微笑む昂治に頬を染めながら、イクミは隣りに座る。
テーブルの上にはレポートでも纏めているのか、
多くの本が置かれていた。

「お勉強?」

「…イクミ、」

微笑んでいた昂治の表情が一変して、
哀しげなモノになった。

「あ、え?なんですかー?」

「どうしたんだ、この傷!」

「いやー…たいした事ないっすよ。
昼休みにステンドグラスがね…
ちょいと落ちてきまして。」

「えっ……」

昂治の瞳が驚きに揺れる。

「ステンドグラスが…?」

「うん、やっぱ西校舎まで事は響かないっすね。」

「大丈夫なのか?」

「昂治に会えたから、元気りゅんりゅんですv」

にぱっと笑いながら言うイクミに、
昂治は苦笑いをした。

「本当に大丈夫?」

「ああ、それに大丈夫じゃなかったら、
ここにいませんよ!」

「…そっか…よかった、」

そのまま目を伏せ、広げていた本を見た。

「それなに?」

「あ、レポート…」

「へぇ…」

じーっとイクミは見る。
そして広げられた本の場所を指した。

「ココはこれを利用して、こうすれば?」

「え?ここを?」

「そうそう、で、この図を参考にして…」

「でもそれじゃあ…」

違う本を引き出し、イクミはパラパラとめくる。
そして広げて、5行目あたりを指で指した。

「この文面を生かせば、大丈夫っしょ。」

「……すごい、頭いいんだな。」

微笑み、

「ありがと、あとは自分でするよ。」

お礼を言った昂治にイクミは胸の高鳴りを覚える。
そして内心でため息。

――はぁ…ときめきしちゃいますぅ…

微笑む昂治にイクミは苦笑いをした。
少し下心のある自分に罪悪感を覚えながら。













数十分経って、一段落を終えた昂治は用事があると
言って、旧図書館を出る。イクミを続くように出た。

「ごめんな、教えてもらちゃって。」

「いえいえ。役立てて嬉しいっすよ。」

イクミは上を仰いで、昂治を見る。

「あのさー、明日もココにいる?」

「…つーか、大抵ここにいる。」

「そうなの?じゃあまた来ていい?」

その言葉に一瞬哀しそうな顔をし、
そして喜ぶような複雑な表情をした。

「待ってるよ。」

「……えへへ。」

「じゃあ、またな、イクミ。」

「はい、またねv」

手を軽く振って、二人は別れた。
イクミは離れていく後姿を暫く見つめて、
軽い足取りで歩いていった。

「……」

イクミの姿が角に曲がった頃、昂治は振り返る。
目を伏せ、廊下の壁に寄りかかった。

「怪我…ヒドイじゃないか…、」

「ケガ人は出たと言っただろ。」

いつのまにいたのだろうか。
ブルーが昂治の後ろにいた。
廊下は夕日で橙に染まっていく。

「…尾瀬イクミ、やっぱりそうなのか?」

「まだ解らん。」

よりかかるのを止め、ブルーの方に顔を向ける。
ブルーの表情は無表情に近かった。

「ブルー…俺はっ!」

「……」

責めるではない。
咎めるでもない。
そんな強い視線に昂治は目を伏せた。

「時はまだ満ちない。」

静かにブルーは言った。
それを苦しげに昂治は聞く。
陽が沈むのに、そんなに時間は要さないだろう。
















イクミは教室に向かう。
窓からは校庭で部活を行っている生徒の声が
聞こえてきた。
廊下には誰もいなくて、
あとは自分の靴音が響くだけだ。

ヒドク落ち着くのは…

肩をひょいっと上げ、浮かぶ考えに嘲笑する。

――ダメだな…陽が沈みはじめると暗くなっちゃうな…

静かな廊下。
その音は急に聞こえてきた。

「ピアノ…?」

何の曲かは解らない。
けれど哀しい音色なのには変わりはなかった。
夕日で染まる廊下を歩き、音のする方へイクミは行く。
まるで誘われているようだった。

――誰が…弾いて…

人の気配を感じ、イクミは振り返る。
だが、誰もいなかった。

ピアノの音は廊下に響き
音色は凛とし
澄んで
耳に染みる。







神サマナンテイナインダ…

タダ罪トシテ存在スルンダ

僕ガ…








「え?」

少女の声が聞こえた。
イクミはキョロキョロと周りを見渡すが、誰もいなかった。

――なんだ…ちょっとキモチワルイ、

精神的な不快感。






ジャーーンッ







ピアノを叩きつけるような音がし、
音色はピッタリと止まった。

「…止まっちゃった……」

誰が弾いていたのか、気にならないワケでもないが
問い詰める程でもない。
イクミは教室の方へ歩き出した。











「マジで?」

「……」

前にも言っただろう。
この学園は家からの者と寮生活の者がいる。
寮はそこらのアパートより、数段設備の整った
生活のしやすい所である。
イクミは一応、寮生活の方だ。
大抵、寮室に限りがあるので、二人相部屋が普通だ。
昨日までは他クラスの生徒と同室だった。
なのにだ、
帰ってみれば、その同室のヤツの荷物はキレイに
なくなっていたのだ。
代わりとでも言うように、祐希が立っている。


「てめぇかよ、」

見下す物言いに、イクミは内心ため息をついた。
まさか、祐希と同室になるとは思わなかっただろう。
先生の計らいか、
それとも押し付けか。
何にせよ、現実にイクミは疲労感を覚えたのだった。



















夜空に星が煌く。

「……今日は大丈夫かな…」

昂治は校庭の真ん中から、校舎を眺めている。

「……」

何も言わず、ブルーが横に立っていた。
少し強めの風が吹き、
青い髪が揺れ、茶色の髪が揺れる。
ブルーは昂治の細い肩に手を置き、自身に引き寄せた。
ちょうど吹く風から昂治を守る形となる。

「ありがとう……」

肩を抱かれながら、昂治は空を見上げた。
黒か紺か瑠璃色か。







「まだ…来てはいけない。」








風が止む。
夜空には満面の星々。
ただキラキラと煌いていた。














来チャダメダヨ……














(続)
副題、何か秘密が含まれているのですが……

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