…**赤く嘲笑う**…
〜あいばこうじ〜
ねぇ、こんなにボクって汚いんだよ
知ってた?
じとりとした熱さの中、俺は目を覚ました。
見れば机の上に、本や辞書、ノートが広がっていた。
「寝て…た…?」
障子から入る陽はまだ明るい。
時間は昼過ぎだろうか。
俺が親戚の家ではなく、本家に身を移してもう数週間は過ぎたと思う。
一度、此処を出た俺に用意された身分は『使用人より上、相葉家の者より下』というものだった。
それくらいが、ちょうどいい。
自分が気にしなければ、身分などないとアイツは言っていた。
学校は勿論行けず、自宅学習。
外出も制限されて……けれど前より充実しているように思えるのは相当、アイツが好きなのだと思う。
キレイでありたいと思う感情の中で、沸々と浮かぶ暗い感情をきっと祐希は知らないだろう。
襖が開いた。
「あ?お邪魔っすか?」
入ってきたのはイクミちゃ…じゃなくて、イクミだった。
「全然、邪魔じゃない。ちょうど休憩してたトコ。」
「そっか、じゃあちょうど良かったvえへへー差し入れv」
人差し指をたてて、秘密だよと囁く。
使用人の子であるイクミは、けれど俺や祐希の前では本来の姿を見せてくれるのが嬉しかった。
「えっと、凛呼堂のキンツバですー。」
イクミは一つは机の上に置き、残りの二つはお盆に乗せたまま畳に置いた。
お茶も同じくそう置いて一息つく。
机の上に置いたソレが気になって首を傾げると、イクミはニッコリと笑った。
「祐希クンの分。来るでしょー、此処に。」
意図のない一言だと思うが、そう取れて恥ずかしくなる。
赤くなりそうな顔を振って元に戻そうと努めた。
「えへへー、昴治ってばカワイイv」
「…からかうなって…。」
ニッコリとイクミは笑った。
俺が外出できるのは土日。
する事と言っても祐希やイクミと一緒に散策に出たり、あの場所に行ったり…。
駕篭の鳥のようだと廊下にすれ違った使用人が陰口をたたいていた。
でも俺は束縛はされていないと思う。
昔に比べれば、現当主の祐希に比べればないに等しい。
それに俺は一度、此処を逃げた奴だし。
祐希に嫌われちゃうのは…や…
思えばあの時から決まってたと思うと、やはり気恥ずかしくなった。
熱い頬を手で扇ぎ、机にコテンと顔を置く。
祐希が此処に来るのは夕方や深夜、朝であったりと統一性はない。
あのどんな病気にも効く薬を手に入れる為に訪問する者との会合、俺の知らない儀式、
そして…
叔父とのアノ行為と欲深き者への戒め。
アノ行為は減ったとアイツは言ってたから聞かない。
最近は殺してはいないと言っていたからそう信じている。
追求すれば、俺はどんどん汚くなる気がした。
何だかんだ言って、祐希はキレイだと思う。
流れる空気が、本当にキレイで自分は汚くて醜いと実感させられる時があった。
キレイでありたい。
それはイイワケなんだろうと思う。
カタッ
物音がして、襖が開いた。
白の寝着に近い反物を着た祐希がいる。
「まだ終わってねぇのか?」
「え?ああ、」
襖を閉めて、中に入ってきた祐希は俺の横に座った。
遠い記憶の彼と重なって何だか笑みが零れる。
「なに笑ってんだ?」
「なんでもないよ…そうだ、えと…イクミがさ、これ差し入れだってさ。」
机の上に置かれたキンツバとお茶を小さなお盆ごと祐希の方へ移動させた。
少し不機嫌そうな顔をするが、じぃっとキンツバを見る。
イクミの言葉を思い出し、説明を付け足す。
「りんこどうって所のキンツバだって言ってた。」
「凛呼堂か?ふーん…」
発音から、多分『りんこどう』とはどんな店なのか知っているんだろう。
確か前にイクミの口調や態度が気に喰わないとか言ってたが。
「有名なのか?そのお店。」
「キンツバじゃ、一番マシなもん出す所だ。」
あまり文句も言わず、食べている所を見れば嫌いではないと思う。
静かに食べている祐希を横目に止めていたペンを動かし始めた。
お茶を飲み終えて、弟はじぃっと俺を見てくる。
「結構、遅いな…計算とか、」
「悪かったな。」
「あとどれくらいで終わるんだ?」
そう言って、肩に手をまわしてきた。
袖から覗く白い腕は細くけれど、しっかりと筋肉はついていて嫉妬を覚える。
絡み付いてくる感じは背筋にゾクリとした感覚を感じさせた。
「ゆ…祐希、」
声が裏返った。
それに祐希は笑みを浮かべたようで、耳元に唇を寄せてきた。
「馬鹿やろっ、やめろって!」
「なにを?」
ふっと耳に息を吹きかけられて、俺の体が震えた。
「まだ…終わってないから、離れろよ。」
「い・や・だ、」
「云う事きけって。」
手が舞うように動いて、俺の下肢にズボン越しに触れてくる。
明らかに反応しだしているのが、解ってしまう。
「ん…いやだ、やめろっ、」
「兄貴、」
囁かれて、体がビクついた。
首を左右に振って、何とか理性を保とうとする。
動く手を止めるように手首を俺は掴んだ。
「まだ終わって…なっ…」
「後で教えてやる、だったらいいだろ?それとも嫌か?」
「……」
ブツリと理性が切れた。
少し強張っていたらしい体の力を抜いて、祐希に負担にならない程度に身を預ける。
片方の腕を首に回したまま、片方の手はズボンのホックを外して、中に入れられた。
「ん…ん、んん…」
ズボンのチャックが下りて、下着ごしに祐希の手の動きが見える。
目を逸らせばいいものを、逸らせずに見たままだ。
「声、我慢してんのか兄貴。」
我慢している。
けれど俺は首を左右に振った。
するとザラリと耳を舐められ、耳朶を噛まれる。
「ふあっ……ぁ…やだ…」
「もう達けちまいそうか?」
「…ん、」
動きは制限されるものの、激しくなってるのが解る。
「う…い、やだ…っ、やめっ…汚れっ…」
「汚しちまっていいぜ、」
「ンあっあっ…ふうぅ…くっ、」
呆気なく吐き出した。
離れた祐希の手は俺に液を見せびらかすように目前まで上げる。
トロリと糸を引くように垂れる液体に熱が上がっていくのを感じた。
「汚れちまったな…」
贖う手を払って、それを舐めとりそのまま後ろの方へ引く。
畳の上に倒しながら、ズボンと下着を脱がされた。
裾からスラリと伸びる素足が、それをのけるように後ろにおいやった。
覆い被さって、俺の頬に髪がかかる。
艶やかな黒髪はくすぐり、ゆっくりと唇が寄せられた。
「ん…、」
「っ…んぅ……」
少し苦い味がして、罪悪感が募る。
それを消すかのように、舌が絡んできた。
生温かい感覚に頭の思考は痺れてくる。
「なぁ…兄貴…、」
「ん…、」
思考が溶けて上手く言葉が紡げない。
「変えちゃって…いいか?」
「はぁ……え?」
頬を両手で包み、顔を近づけられた。
何…言っているのだろうか。
「俺…じゃねぇとダメな体に……、」
すぐに頷きそうになって、俺は左右に首を振ろうとする。
けれど祐希が俺の頬を包んでいて動かせなかった。
オマエじゃないとダメな体。
つまりそれは……
「……兄貴、顔真っ赤だぜ。」
「っ……ば…ばかやろ、揶揄うなよ……」
「あァ?マジだぜ…何て云うんだろ……調教ってヤツか?」
その言葉に俺の体は震えた。
恐怖と未知なものへの興味と。
「兄貴、いいか?」
「嫌に決まって……」
否定しようと思ったが、その言葉は咽喉に絡む。
見つめる強い眼差しは、密かに揺れていた。
それは心細い光で。
ああ、捕まえられたと思った。
俺は目を逸らして、ゆっくりと目を瞑る。
「…痛いのは嫌だ…。」
くつりと祐希が笑みを浮かべた。
それに体が震える。
恐いワケじゃなくて、これは……。
俺の上に乗った祐希が俺に覆い被さるように顔を近づける。
裾が捲れて祐希の足が見えた。
「…祐希?」
手裾に手を入れ、何かを出す。
機械の小物?
「バイブ。」
「ば…ばっ……」
白くて柔らかそうなカタチだった。
初めて見るソレに俺は焦る。
俺に見せびらかすように目前にやり、ペロペロとソレを舐め出す。
「ゆ…ゆうき…っ…」
「まだ舐めろとは言わねぇから…安心しろ、」
「あ…ちょ…っ!?」
ヌラヌラと光ってるソレを下に移動されて、一気に入れられた。
痛くはないけど…
「んっ、くぅぅ!?」
「俺のより小さいから…痛くねぇだろ?」
「い、やだっ、やっ、あ…う、うう、」
頬に口づけされ、内部に入れられた、ば…バイブをもっと奥に入れられる。
少し芯のある柔らかい感じは似ているけれど、やはり祐希のとは違う。
「兄貴…どうした?」
「っ、い、やっ…ぬ、抜い…てっ…んん!?」
抜く所か、もっと奥へ入れられた。
逃げようとする体を押さえ込んで、祐希が見つめてくる。
艶やかな表情はドキドキするけれど、やはり恐い。
異物が内部にあるのが、まざまざと感じられてキモチワルイ。
「これ、動くんだぜ……回転する感じにな、」
「っ!?いやあああっ!!!あああ!?」
カチッと音がして、中で予想できない動きでかき回される。
「いやあっあああ、ああ!?あ、んぐっ、んんんーーー!!!」
口を押さえられて、そのまま体を擦り付けられる。
祐希が肌に触れる感じは好きだけれど、内部のものは嫌だ。
「声、大きい…いいのか?コレ。」
「んんーー!んぐっ!!んんーーー!!!!」
首を左右に振ったけれど、嘘をついているように俺のは大きくなっていた。
何だかすごく自分に嫌悪する。
祐希以外のを入れて、喜んでいるような錯覚が湧き起こって――
イヤダ、こんなのイヤダ。
祐希が俺を見下ろしている。
もしかしたら、そう誤解しているかもしれない。
確かに俺は根が固いから、こういう事苦手で、でもホントはもっともっと
祐希がって思って。
これじゃあ、叔父とあまり変わらないとか。
男のクセにとか。
見下ろす祐希が祐希じゃなくてもいいんじゃないか。
そう思われるような気がして嫌だ。
そう思われるような反応を返す自分が只々、くやしくて。
涙が零れた。
「……兄貴、」
耳に囁かれて、内部に入れられたバイブを抜かれる。
それにため息を零して、ヒダがヒクついているのが俺自身にも解った。
「今日は此処までだな……。」
「ゆ…んっ!?」
少しの痛みと歓喜の声。
祐希が中に入ってくる。
中に入ってくる。
祐希が、俺の中に。
「っ、んんんっ!」
一気に突き入れられて、震える腰を掴んで祐希が動く。
苦しいけれどキモチガイイ。
口に出せないその感覚を教える為に、俺は畳につく祐希の腕を掴んだ。
それで一層、動きやすくなるのを俺は最近知った。
「あっ、あ、あっんぅん…んっ!あぁ、あっ、はやっ、」
早く動けるようにしたのは俺。
「あにき…兄貴…いいか?」
「んぅ、んっ、ふぅぅ、あっ!あ!」
声をあげる俺。
俺さ、こんなに汚い。
俺さ、こんなに醜くなってる。
幼い頃、母に言われた通りだ。
あの赤く咲く場所で俺が醜くなったのは幻影なんかじゃないんだ。
「くぅんっ、奥、奥…奥ぅ…あたって、くるし…いっ!」
「苦しくなんかねぇだろ?」
俺は何も知らない。
けれど、もう調教なんかしなくたって…体は欲している。
言えないだけで。
恐くて言えないだけで。
「くるしっ、よ、あっ!んんぅ!?やっ、やああっ!?」
俺のを掴まれ動きに合わせて擦られる。
もうダメだ。
思考が霞む。
「ゆ、ゆうき、ゆうき、ゆうき、」
「はぁ…ぁ…いいぜ、達って…」
「んんっ!?」
許しと共に解放された。
胸から下腹部まで精液が飛び散る。
数回、祐希が俺の内部に打ち付けて――
「はぁ、あ…」
息を零し、
「っあ……んぅ……ん…」
俺の中に熱い祐希の精液を注がれた。
障子から陽がさしこんでいる。
橙の色は夕焼けを示していた。
祐希のと俺のとでベトベトになった体をそのままに畳の上に寝そべっていた。
虚ろな視線に祐希が映る。
少し泣きそうで、けれど笑みを浮かべる顔は昔と変わらない。
そっとダルイ躯を叱咤して手を伸ばすと、細い器用そうな手が心細げに握る。
捕まえた……
俺は今、笑っているのだろうか。
力のあまり入らない体は疲労で思考を鈍らせる。
けれどこれだけは解った。
オカシイのは
狂っているのは
祐希じゃない、俺なんだと――
視線の先で赤が明滅し、青が溶けた。
赤く嘲笑う〜あいばこうじ〜(その後・昴治編)
(終)
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