++彼と彼女の秘密










コレ、秘密。


そう…思ったノ





「ふぅ…」

息を溢しながら、昴治は医務室から出た。
溢した息は解放された事へのもので、

「はぁ、」

今度は目の前のモノに対する呆れを含んだため息だった。

「通行人の邪魔だろ、」

「…え、」

昴治の一言に、ぼんやりと立っていた者が顔を上げる。
途方も無く眉を下げた表情に昴治は目を顰めた。

「こ、昴治!!」

(なんだか…なぁ、)

声をかけられ、自分の存在に気づく相手に呆れる。
表情が明るくなり、自分を待っていたのかと思わせた。
だが、待っていたのなら出てきた瞬間に気づくだろう、普通は。
そう昴治は考える。

だが、目の前の相手。
どうやら普通では収まらない。

「大丈夫っすか?大丈夫?大丈夫?大丈夫???」

「あのなー、耳元でうるさいぞ。
つーかオマエ講義はどうした?」

「受けましたよ。受けろって昴治が言ったっしょ」

「俺が言ったから出たって感じだな」

目が伏せられ、何処か遠くを馳せているように相手は微笑む。
昴治はため息をつき、相手の肩を叩いた。

「別に此処で待ってなくてもいいのに」

「少しでも早く昴治クンに会いたいにゃ、と思いまして」

そう言って彼は腕を絡ませてきた。

「大丈夫なんすか?」

「軽いリハビリと検査。どうって事ないだろ」

「……」

小さな子供のように寄り添う彼に昴治は目を細める。

「イクミ、」

「は、はい。なんでしょ?」

響きの違う呼び方に少しだけ彼は肩を震わす。
おずおずと言った感じに見る様は昴治の目を益々細めさせた。

「診察結果を聞きに行かなくても大丈夫だからな、」

「…あの、何でそんなコトをおっしゃるんですか?」

「今、そう考えてただろ。オマエ」

「……イヤン、丸解かりっすか?はずかしぃ!」

ふざけるように言い、彼はもっと寄り添ってきた。
昴治の視線が鋭くなると、肩を軽く上げる。

「行かないよ。昴治が大丈夫ってホントに言うなら」

「ウソは言ってない」

(オマエは言ってるんだろうけど、)

「じゃあ、行かない」

ニッコリと彼は笑った。
そのまま昴治と共に寄り添ったまま歩く。
そのままであるかと思われたが、通路の人通りが多くなると
さすがに歩みが止められる。

「……ひっつくなよ」

「うえぇぇぇえぇぇ、」

「変な声出すなよ…」

昴治は冷たく返すが、相手は至ってそのまま。
益々引っ付いてくるばかりだ。

「イクミ、」

「俺的スキンシップっすよ。
若気の至り?でしょ。
これくらい大目に見てやって昴治クン」

「オマエが言うな、バカ」

手を払うように離させると
口を尖がらし、彼は不服そうに見る。

「意地悪っすね」

「意地悪って、オマエがオカシイんだ」

「うん、オカシイっすよ。
だからー引っ付かせてぇ」

「認めた上で引っ付くな!」

寄り添ってくる彼を引き離そうとする様は
昴治は嫌がってるものの傍から見ればじゃれているようにしか見えなかった。

「こうじ、」

そこに割入ってくるように現れたのは、
このリヴァイアス艦のスフィクスだった。

「あ、ネーヤ。
こんにちわ…かな?」

「コンニチワ。
会いたかったヨ」

「ありがとう」

微笑む昴治に彼女も小さく微笑んだ。
ふわりと浮き上がる彼女は羽のように柔らかく昴治の首に腕を回す。

「……」

甘えるように、それは抱きしめている。

「むっむむーーーー!」

ぶんぶんと彼が手を振った。
それに昴治は目を顰める。

「挙動不審だぞ、イクミ」

「挙動不審とは失礼な!
何すか!それはーー!」

指が差し示しているのは、抱きついてきている彼女へだ。

「俺には引っ付くなって言ってるのに!
ネーヤさんは良いんすか?
ヒドイすぎるぞ、昴治!!」

「ネーヤは甘えてるからだよ、」

「甘えてるノ」

棒読みで言う彼女に彼は昴治の腕を取る。

「じゃ、俺も甘える」

「オマエは甘えすぎだって。
つーか公衆の面前で引っ付くなよ」

「公衆の面前だったらネーヤさんも一緒っしょ。
つーか女子が良いって言うんすか?
やらしいですぞ!」

「…オマエに言われたくないな」

少しの憎まれ口にも、昴治は差ほど動揺を見せなかった。
それは日頃、揶揄いまくられているからだろう。

「むむむむーーーー!」

「何だよ、それ…」

抱きついているネーヤの頭を撫でながら、昴治は彼を見た。
ムッとしたような表情はさながら、拗ねている子供である。

「…たく、」

ため息を溢し

「ほら、これでいいか?」

彼の手を握る。

「……」

それだけで、彼は花が咲くような笑みを浮かべた。
それに昴治は困った風な体を見せ、けれど、頬は少し赤く染まる。

「行くぞ」

彼女と彼を引き連れて、昴治は止めていた歩みを再開させた。
数歩のち、彼女と彼の瞳が合う。
互いに深い瞳の色だった。

(君は、俺を知ってるね)

瞳が閉じられる。

(ホントは知られたくないんだけども……
でも、いいかなって思ってる)

瞬きをし、彼女は首を傾げた。

(俺も、君を知ってるから)

そう思う彼は目を閉じ、開いた時には
少し切なそうに笑む。
それは彼女も同様だった。

切なそうなその表情は
彼を映したモノか。
それとも彼女のモノか。

(…秘密…なんでしょ?)

コクリと彼女が頷けば、普段の表情に彼は戻った。

「ん?どうした??」

「…何でもないヨ、昴治」

「むむむ!くっつきすぎ!
離れてくれませんかぁ?ネーヤさん」

「ヤダ、」

「聞き分けのない!」

「オマエが言えた義理じゃないだろ…」

手を握っていただけの彼も昴治に抱きつきはじめ、
ネーヤと取り合うような始末。
そんなにイイモノなのだろうか。

(とりあえず…)

昴治は疑問よりも先に

「ケンカは止せよ。二人共」

子を嗜めるように言った。











これ、秘密。

知らない方が…幸せでしょ?きっと






君ヲ愛シテル
君ヲ壊シタイ程愛シテル





(終)
ことり様のリクエストでした。
ネーヤと仲良い?イクミ…ふふふ(危険)

>>back