++眩暈の碧
笑った
その、先に
深く沈む
「………」
いきなり、だった。
誰の差し金か、大体は解っていたが
本当に行われるとは思わなかった。
(ありえねぇ……)
少しは丸くなったと言われていたが、その才能なき者への
辛辣な言葉はなくなったワケではないし
性格は、やはりそのまま。
そんな自分の誕生日など祝ってなどくれないと考えていた。
だが、その考えは甘かったらしい。
VGチームの面々、ツヴァイの連中。
カレンとあおいとこずえ。
そして、兄と――
「皆様、面白いくらい潰れちゃいましたねぇ」
呑気な声で、言う兄の親友。
「……」
兄が、もう大丈夫だと告げていた通り
イクミは『前』と同じような明るさを戻していた。
それより、以前より昴治に甘えるようになり
「ふっふっふっふ〜二人っきりぃ〜♪」
祐希に接触するようになった。
軽い頭痛を覚えながら、拳を振るうが簡単にイクミは避ける。
「くっつくな、クズ野郎が」
「照れてますか〜? あははは」
「……兄貴にでも、引っ付いてろ」
「ん〜〜、そうしますと。
昴治クンにぎゅーってしますぅ。
俺、どっかの恋人さんに殴られます、ああ可哀想」
「……」
泣きまねをするイクミに、祐希はうんざりした顔をした。
それを楽しそうに見ると、イクミは祐希の横に座り込む。
「で、祐希クンに、ちょっかい出して
ぎゅぎゅっとしますとですねぇ……これまた一部に殺されんばかりに
睨まれて、そして、数時間、口聞いてくれないんすよ?
案外、ヤキモチ焼きのお兄様に」
「……は?」
素っ頓狂な声で、祐希は聞き返してしまった。
不機嫌そうな顔色を浮かべて、打ち消そうとする祐希に
イクミはニッコリと笑う。
「知りませんでした? 君、結構、愛されちゃってますよ?」
「な……なに、言って」
周りは、誰が用意したのか。
酒を飲んで、見事に酔い潰れていた。
話せる程度にいるのは、酒に強いらしいイクミと
あまり飲まなかった祐希だけだ。
「みんなね、ちゃ〜んと……君を見てる」
唇だけの笑みとなって
イクミは瞳を伏せた。
「思ってくれてるんですから………泣けちゃいますねぇ」
「……」
息をついて、祐希はイクミを睨む。
「テメェと一緒にすんな」
「あれ? 泣きませんでした?」
「泣くかよ」
「泣いたっしょ?」
「泣いてねぇよ、いつ泣かなきゃなんねぇんだよ」
「昴治の前で、君は泣くんだ。絶対に」
声色が変わる。
それに益々、祐希は顔を顰めた。
「テメェはクズ以下」
「はい、」
「いかれ野郎」
「そうですね」
「見境ない、大馬鹿」
「……貶してくれるのは、ありがたい。
感謝、するよ。相葉祐希」
明るい声とは違う。
厳格なる、権力を持った者の響きを匂わす声。
光に宿る、大きな闇が煌く。
「困るくらい、許されてしまうからね。
君みたいな、存在がいてくれて助かるよ」
尾瀬イクミという矛盾が、そこにいた。
挑発でもするかのように、イクミは余裕の笑みを浮かべる。
「そのままでいてくれると、此方は大変喜ばしい」
「テメェに喜ばれても嬉しくねぇよ」
「あらら、それは困ったねぇ。
ま、いいけどね。俺の考えでありますし」
イクミが瞳を瞬いた。
何事かと訝しむ祐希に、相手は瞳を細めて微笑む。
碧が、強く煌いた。
その、色は
嫌いでは、ない
「祐希、」
答える前に、イクミの手が伸びて
顎を掴まれた。
続いて、視界に碧が広がると唇に柔らかい感触が伝わった。
少し温度の高い、唇が
「……誕生日、プレゼント」
祐希の唇に触れた。
「なんちゃって」
いたずらっ子のような、そんな笑みを浮かべる相手に
祐希は言葉をなくす。
だが、すぐに停止しそうな思考を何とかフル回転させて
怒鳴りつけようと口を開くよりも早かった。
「なに、してんだ!!!」
怒鳴り声と、そして落ちる影。
「あ、昴治くーんv 起きたの?」
「オマエ、今、何した!」
「え? 昴治クンったらヤキモチ?
安心してよー。大事な弟センセはとりませんし?
俺の一番は、昴治クンですしぃー♪」
「むむーーーー、騙されないぞぉ
あーー、バカじゃないけどイクミのばーか」
酔いは覚めていないようだ。
言動が昴治ではない。
呆然としてしまった祐希に絡み付きながら、イクミのほっぺを掴んで
ぐいぐいっと引っ張る。
「ほうほえぇぇぇ、ひたひぃぃ」
「絡むな、このバカ兄貴!」
「やーーだ。や・め・な・い」
座った瞳で答えて、そしてニコニコと昴治は笑う。
強く抱きつく昴治の腕を掴み、前にいるイクミを見た。
言った通りだろう?
何もかも、見透かす瞳。
深く、碧が沈みこんだ。
その色も
嫌い、ではない
自分の意識に
祐希は軽い眩暈を感じた。
相反の同胞へ向ける、感情に
(終) |