**水中ノ花**









透明な水

水の中







――聞コエテクル

   感ジル

   想イ



ワタシ、そのココロの意味ヲ知らナイ



――きこえてくる

   きこえてくるよ




ふと目に映ったのは、昂治と数名の男。



――何ヲシテイルノ?


「何もできねぇくせに!!」

一斉に昂治に殴りかかる。
昂治は何も云わず、ただ蹲って耐え続けていた。

「弱いぜ、こいつ!」

「腑抜け!」


――ドウシテ、殴ルノ?


たすけて

たすけて


――アナタの叫び?

   アナタの想い?



「うぐっ…」

きり傷ができ、痛みに昂治が唸る。
けれど、静止の声も悲鳴もあげなかった。
それが面白いのか
それとも見下しているのか
数名の男たちは尚も殴り続ける。


たすけて

たすけて


――たすけて…って何?


ネーヤはその光景を見据えた。


ころしてやる

だめだ

そんなことに

コレヲ、ツカイタクナイ



――ニードルガン。



「これで特権階級だぜ。」

「はっ、嘘だろ?何かの間違いじゃねぇの?」

「違うって、こいつさーきっと…」

気絶寸前まで殴られ続けた昂治は
2人の男に腕を掴まれ、無理矢理立たされる。
痛みで生理的に出ている、微かな涙。
滲む瞳はある意味、中性的な艶を出していた。


閉鎖的な空間の中で
溜まる
暗い感情
それは溢れ出さんばかりで


「体使ったんじゃねぇの?」

昂治の瞳が見開く。
それは無抵抗だった彼に宿る、反発の感情。

「あ、こいつ怒ったぜ!」

「図星ってヤツ?」



ちくしょう

ちくしょう



――ムカツクンダヨ。




でも

おれは

なにをしたいんだ



――ドウシテ、そう思うノ?



「でも、こんなヤツの体使って意味あんのか?」

「おまえ知らないのかよ。案外、いいもんだぜ
……それにこいつ、いい顔してんじゃん。」

「はな…せ、」

掠れた声が上がる。
怒りにも嘆きにも似た声だ。

「楽しませて貰おうぜ、」

「マジで?」

「やらないんならいいぜ。」

声を上げようとした昂治の腹に
一人の男が拳を入れる。
呻いて倒れそうになった。


やめろ

はなせ

きもちわるい


たすけて

たすけて


――たすけてってナニ?

   ドウスルコト?


倒れそうになった体を二人が支え、
片方が無理矢理、顎を掴み上向かせる。


「気持ちよくなるぜ、」


「はなせ!!やめっ…んぐぐ!!!」




たすけて

――ドウスレバイイノ?

たすけて

――痛イ、痛イ…

たすけて




昂治の口を開かせ、中に何かピンクの液体を
男は入れた。
吐き出そうとする昂治の唇を抑え、
そのまま床に押さえつけた。




たすけなんて

くるわけない




――ドウスルノ?





たすけて

だれか


たすけて!!




――っ!?





「なんだ、おまえ?」

男の一人が昂治の上に乗りながら云った。

「ヤメテ…、」

無垢な表情はカワイイものだ。
ネーヤの出現に昂治は気づく。
押さえつけられながらも、口を動かそうとする。


オレじゃあ

まもれない

にげろ

にげろ


――心配。


「ちょうどいい、その子もかわいがってやろうぜ。」

にじり寄ろうとする男の足を昂治が掴む。
転びそうになるが持ちこたえて、
掴んでいる昂治を睨みつけた。

「なにすんだよ、てめぇの面倒もちゃんと見てやるさ。
安心してまってな!」

鈍い音がする。
昂治の頭を男は踏みつけた。


にげろ


――痛い


「早く、逃げろ!!」


ガッ


床に顔を叩きつけられた音。
そのまま数名の男が圧し掛かり、昂治の衣服をはいでいく。
残りの男たちが、ネーヤに近寄ってくる。
昂治は手を伸ばそうとしたが、その手を別の男が踏みつけた。

「っ!!!」

声にならない悲鳴を上げた。


――痛い、痛い、痛い、痛い、痛い


「やめて。」


――痛い、痛い、引き裂かれるよぉぉ…



すっとネーヤは手を差し出す。



――ソノ意味ワカラナイ

   デモ

   アナタガ痛イノハ嫌ダ





「やめて、ヤメテ、やめて…」





――怒りに満チテイク




近寄ってきた男が壁に叩きつけられた。
ネーヤは何もしていない。
いや、ネーヤは動いていないだけだ。



「ヤメテ。」


昂治の上に乗っていた男たちも
吹き飛ばされるように壁に叩きつけられた。


そして辺りは静かになる。


男たちは気絶していた。
ネーヤは昂治に駆け寄る。

「…っ…」

何かを云おうとしたようだが、
すぐに昂治も気を失った。


「コレが"たすける"ってコトなの?」













沈ンデイク

ソコハ何処?











「…ん…」

昂治が目を覚ますと、その場所は倉庫だった。
ひんやりとした空気が心地よかった。

「…痛イ…?」

自分の体は地に横たえさせられていた。
起きようとしたが、
走る激痛に顔を顰め起き上がる事ができなかった。

「君は…ネーヤだったよね…」

「そうだヨ。」

「……助けてくれたのか?」

「ワカラナイ。でも…タスケタってアナタは想う。」

昂治は苦笑いをした。

「情けないな…ごめん、ありがとう。」

「ドウシテ痛イノ?」

そう言ってネーヤは昂治の隣りに横たわった。
何かを言おうとしたようだが、急に昂治の体がビクつく。

「っ…!?」

そして小刻みに痙攣しだす。

「どうしたノ?」

「くぅ…はぁ…はぁ…」

昂治の目が熱で潤みはじめた。
記憶を辿れば、先程の男たちに何やらピンクの液体を
飲まされた事を思い出す。


からだが

あつい

あつい



――アツイ?



「もう…大丈夫…だか…ら、」



くるいそう

くるしい

あんぜんな

ところへ

いってくれ



――苦シイ…痛イ…イヤダヨ。



「…コウジ…ドウシタノ?大丈夫じゃナイよ?」

「んん、はぁ…変な薬飲ま…されたみたい…
だから…早く、どこかに…」

昂治が苦しげに息を荒げながら、ネーヤに言う。
じっとネーヤは見つめ、離れる事なく寄り添った。

「イヤダ…たすけて、たすけて…聞こえる。
ワタシ、アナタが痛いの嫌ダヨ。」




はなれて

よごしてしまう


――ヨゴス…ヨゴス?





「…はぁ…あ…」

昂治の瞳が虚ろになっていく。
上半身を起こし、ネーヤは相手を覗き込んだ。

「苦シインダネ…どうすれば痛くナイノ?」



――胸が痛いヨ…このキモチは何?




「…コウジ…」

ネーヤは昂治の上にそっと乗り、
胸の中に倒れこんだ。

「トクン、トクン、トクン…」

左胸に耳を寄せて、目を瞑る。




はなれて





――アナタの想いは何処?




「ぁ…」

ピクンとネーヤが震えた。
そろそろと体を起こし、昂治を見る。
頬を上気させ、熱い息を吐き出していた。
瞳は虚ろで何も映していないようだった。

「アツイ…くらくらするヨ…
だから、ヨゴレルノ?」

昂治は応えず、目を瞑った。
辛そうな相手を慰めるように、
ネーヤは額に唇を寄せた。

「っ…!」

震える。
それは怯えているかのように思えて。
ネーヤは顔を上げ、昂治の唇に唇を寄せようとした。

「…ダメ、」

ぐったりとした手が唇を覆う。
制すような光が、昂治の瞳にやどる。

「ドウシテ…?」

「…こういうコトは…気分…まかせで…
しちゃ…ダメなん…だよ、」

「…でもアツイよ…アツイ…」



だめだよ

だめだよ




――でもアナタが痛いのは嫌なの



だめだよ



――アナタが辛く想うのも嫌ダ




昂治が瞳が哀しげに揺れる。





――これがヨゴスってコト?

   さっきのヒトがしようとしてたコト?


「…コウジ苦しいの…止めたい。
たすけるってこういうコト?」

「…ネーヤ…」

「たすけさせて…こうじ。」

昂治は目を瞑った。
瞳の奥からじわりと熱を感じる。
誰にも見せていなかったモノ。



それがすっと流れる。

「こうじ…」

ネーヤの瞳からも涙が流れる。
それは昂治の感情に伴った所為だ。



たすけて

もとめるだけじゃ

だめなんだ


――アナタは想う



ネーヤは唇を寄せた。
そっと柔らかく昂治の唇に触れる。


――あたたかい



「ツライ…アツイ…」

「んっ…」

そっとネーヤは昂治の服を脱がしていく。
痣ときり傷が多く刻まれている。

「傷…ドウシテつけるの?
痛いダケなのに…どうして…」

「…っ…いっ…」

「痛い…」

ネーヤは傷口を舐めた。

「ひゃぁ!?」

「ん…っ…コウジ…?」

性など無関係であるネーヤには
それが愛撫だとは知らない。


――もう痛くナイ?

   キモチイイ?







たすけてくれるの?

もうたすけなんていらない

いらないんだ

いらないんだよ







ペロペロとネーヤは傷口を舐めていく。
舐めるたびに、昂治の体がピクピクと反応した。
理性が残っていないのか。
瞳は何も映していないようだった。

「あ…う、ぅあっん、」

「はぁ…はぁ…何…コレ?」

昂治の感情を受けているネーヤにも影響が起こる。
頬を紅潮させながら、ネーヤは体を下へ移動した。

「…はぁっ…ああ…こうじぃ…クラクラするヨ」

下を見ると、下半身が膨れているのに気づく。

――苦シイ?

窮屈そうに見えたのか、ズボンをネーヤは脱がした。
昂治は甘い声を上げたままで、抵抗をしない。


――ドウスレバイイノ?

モノは質量を多くし、ヌラヌラと先端が光っている。
ネーヤには血のようにも思えて、
そっと手でモノを包み、先端に唇を寄せた。

「ふああっ!?」

ピンクの液体の所為で全身が性感帯のようなもの
になっている。触れただけで昂治は声を上げ、
背を反らせさせた。

「ふぅ…ん…」

ネーヤは震えながら、昂治のモノを咥えてみた。





あたまが

おかしくなる



――オカシク…ナリソウダヨ…





「あ…ぁ…んう、あっ」

声を上げる昂治を見ながら、ネーヤはモノをしゃぶる。


――痛イノガ、消エテイク


「んん…ふう…んっ……」

ネーヤは口に含みながら声が漏れた。



痛みが消え
飲み込むほどの快楽。
瞳に映る昂治は涙を流していた。
何か冷たいモノを溶かすほどの
あたたかい涙。
そして哀しい涙。



「ひ…はぁ…あ、あっああーー!!」

「んふ…くはぁっ!?」

口内に受け止められなかった
白濁の液が飛び散りネーヤの顔に掛かった。

「こう…じ…」

昂治の上に倒れ、熱い息を吐いた。













「…ごめん…ネーヤ…」

「大丈夫ダヨ」

「ごめん…」

「こうじ…」




アナタガ痛イノハ嫌ナンダ





「こうじ…」



ダカラ

抱キシメテミル

想イガ

包マレルヨウニ



涙…




「ドウシテ泣クノ?」





わからない
















「ふぅ…大体終わったかな、」

カレンが席に寄りかかった。
ヴァイタルガーダーのメンテが
いつもより時間を要した。

「完璧か?」

イクミが聞くと、カレンは即座に頷いた。

「見直しもしたから、完璧よ。」

「そうか…祐希は?」

「…ああ、とっくに終わってる。」

操縦席から祐希は降りながら言った。
少しの思索の後、イクミも操縦席から降りる。
その時だ。

ふいにリフト艦の入り口に少女が立っていた。

「……」

ネーヤである。
無垢な表情なまま、そこに立ち続けていた。

「ここは関係者以外立ち入り禁止だ。」

冷たい口調で制すイクミをネーヤは見据える。

「消える…消エルンダヨ。」

「何言ってやがんだ、」

「まぁまぁ…あの、アナタはどうしてココに?」

カレンの問いかけた。
ふわっとした足取りで、一歩ネーヤは下がった。

「祐希、知り合い?」

「知らねぇよ…尾瀬の知り合いか?」

イクミは祐希の問いに首を左右に振り、
相手の言葉を待った。

「守ル…まもってくれる…の?」

「ああ、みんなを守る。
だから、君も指定された場所に戻ってくれ。」

ネーヤは目を伏せ、入り口の扉に手を添える。

「…たすけて、たすけて…だれか、たすけて」

ゆっくり瞳をあけて、イクミと祐希、カレンを見た。

「たすけるって…ワカラナイ。
でも、もう叫バナイヨって…だから消えてゆく。」

すっとネーヤは前に手を出した。

「たすけて、たすけて…もういわない…」

口調は誰かを彷彿させた。
そして
その誰かが叫んでいるように
ネーヤは言った。





「イクミ…ユウキ…たすけてくれ、」






ピーピーピー

呼び出し音が鳴り響いた。
一瞬、ネーヤから目を離す。

「…あ、いない…」

カレンの言うとおり、ネーヤはいなくなっていた。

「何しに来たのかなぁ?」

イクミと祐希はネーヤのいた場所を見る。
すぐに目を逸らし、祐希は舌打ちをした。
イクミはぎりっと奥歯を鳴らす。




その言葉は誰かを想わせて

そう

相葉昂治に想えて

























静かに昂治をベットに下ろす。
昂治の自室のベットで、向かいにはあおいが
自分の体を抱きしめるように寝ていた。

「おやすみ…なさい。」

ネーヤはそっと部屋から出た。












おれは

なにをしたいんだ

おれは

おれは…







――もう、アナタは想ワナイ

   たすけてって云ワナイ







おれは

わらいたいんだ







――ドウシテ泣カナイノ?

   こんなに、苦しいのに












そして続く

冷たい鉄。








水…

息デキナイ

モガイテ

咲いた


キレイ








アナタはいつまで咲いてるの?





(終)
最後まで書こうとしたが、書かなかったと思しきブツ。
理性が働いたんですかね??
今じゃ、きっと書いてるだろうが(おいおい)

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