**雪月の海**






それは冷たく

凍てつく

きっと触れれば

壊れてしまうのだろう






空に滲んでいく

白い月

海に沈んでいく

赤い雪










いつからだろうか

もう随分前からだとイクミは思う。

色々あって

自分はココで生きていて

そして生まれた感情。

「…はぁ、本当にダメダメじゃぁーない?」

ペシペシと頬を叩く。
今まで大丈夫だった。


だからこれからも大丈夫。






このキモチは知られてはいけない。












スープをスプーンでかき回している昂治を見る。
平凡と云う言葉がぴったりの容姿。
実はそうでなく、整ってキレイな顔だちをしている。
誰にでも優しく
誰にでも微笑む

壊シタイ

ふるふるとイクミは首を振った。
流れる闇に呑まれてはいけない。

「あのさ、何じーっと見てんだよ、」

スープをかき回していた昂治が顔を上げた。

「え、昂治クンってキレイな顔してるなーと
思ってさぁ、見惚れてたのv」

「何言ってんだよ、」

「えへへ、」

イクミは笑い、パンをかじる。
ため息をつかれたようだ。

「どーしたんですか?ため息なんかついて、」

「あ…別に何でもないよ。」

「ホントに?」

「イクミを呆れてただけ、」

そう言って昂治は、またスープをかき回した。
その昂治をイクミは見つめる。


そんな日常
そんな毎日


いつまでも続くといい。


壊シタイ
壊シタイ

壊せない







通路は静まり返っていた。
別に何かがあったワケでもなく、ただ人通りがない
ただそれだけである。
イクミの歩調も自然にゆっくりになった。
穏やかに流れていく時間は自分を眠らす。
自分を穏やかに眠らしていく。
中にある何か

もう知っている闇

1人になると考える事が深くなって、
自分と向き合う。

想いが立ち込めて
全てを
壊そうとする。


「…ドウシテ?」


無機質な通路に無機質な雰囲気が纏う。
チリチリと自分を触発させるような嫌な感覚は、
奥底に鎮めた自分が味わうモノ。

「ドウシテ、同ジナノ?」

「……ネーヤさんだっけ?」

ココロを映し出す鏡。
反射したその想いを彼女は考える。
イクミはゆっくりと顔を向けた。

「うん…ネーヤ…、」

「俺に何か用でもあるんすか?」

「深く、深く、深く…沈む、沈ム。」

ネーヤの言葉を理解するのは、ある意味難しい。
けれど、それは自分のココロを口に出しているのは
よくわかった。

「ドウシテ、同じなノ?」

イクミは静かに彼女を見る。

「……君ハ昂治ガ好キナノ?」

赤い瞳は純粋な輝きで、


何ガ言イタインダ?


イクミは目を逸らして、そしてネーヤを見る。
相手は向無垢な表情のまま見ていた。

「見え、ナイ…ドウシテ、隠スノ?」

「隠すって、何でしょ?」

「……ココロ、」

すっと手が伸び、ネーヤに腕を掴まれた。
あまり気分がいいものではない。

自分の闇で汚している気分

少女の姿にも関わらず、強い力でイクミを引く。
何処かへ促そうとしているようだ。
離れそうもなかった。

「あのー…尾瀬クン、早く帰りたいんですけど。」

「尾瀬…イクミ…、」

立ち止まった所は部屋のドア前だった。
引き込むように中へ押しやられる。

中は真っ暗で何も見えない

腕を掴んでいたネーヤの手も離されていた。
イクミは落ち着いて、周りを見る。

「ネーヤ…昂治、好キ…でも、違う。」

「……」

「アナタと違う…昂治の隣り…傍、イテイイ?」


傍に?
昂治の?


いていいよ、昂治が微笑むから

いるな、昂治が微笑むから


一瞬だった。
空気の雰囲気がぶあっと変わる。
暗かったソコは、明るくなり――





一面が海で、上は薄い青空が広がる。

――なんで?

少し混乱したが、海面の上に立っているネーヤを見て
彼女がやったのだと予測する。

「コンナニ綺麗ダヨ…アナタを包む…ココロ、」

「……」

「こうじの…カタチ…、アナタのココロ」

「……」

「ドウシテ、闇と同ジだと想うノ?」

イクミは笑った。
その笑みにネーヤは悲しそうな顔をする。

「ほっといて、くれないか?」

「ドウシテ……?」

ネーヤは浮き、ふわりと姿を消した。
息をついて、周りを見る。

青い海
青い空

こうじのカタチ

――俺のココロをカタチにしたって事か…

海はキレイ
空はキレイ

――確かにキレイだな、

けれど、とイクミは思う。
ココには波の音もない。
ココには生というものを感じない。
足の膝までかかる海水は“海水”でない。



ドウシテ、闇と同ジだと想うノ?



くつくつとイクミは笑う。
他愛のない戯言だと言わんばかりに。
イクミは上を仰ぎ、

バシャンッ

海面に背中から倒れこんだ。
少し沈む身体は、すぐ浮く。

――俺は…わるい子なんですよ…


壊れろ
壊れろ
壊れろ

誰にでも笑う昂治なんか

壊れてしまえ


上には白い月。
昼間に垣間みる、あの白い月。
それが薄く見えた。


静かな場所

波に自分は漂って

沈む

闇は


ココに胚胎しつづける


想いは





「…昂治…好きだ……」





知られてはいけない。
知られてはいけない。

知らなければ、傍にいられる。
手間のかかる友人として
こんな想いは相手を傷つけるナイフと同じ。
こんな想いは相手を汚していく闇と同じ。


イクミは月を眺め、ゆっくると目を瞑った。
浮く体から力が抜けていく。



闇は消えない



――…真っ暗だろ…だから同じっしょ



目を瞑ったイクミに冷たい結晶が降り注ぐ。
イクミに触れては消え、
海面に触れては消え、
降り注ぎ続ける、冷たい結晶。



けれど、その雪は

皓ではない。






赫かった。








皓い月は眺め
赫い雪が降り注ぐ。



何もかも錯覚のセカイは



アナタを鎮めるのだろう。








海は

広く

青色に輝いて

月は白く

雪は赤く

想いを消そうとする









空に滲んでいく

白い雪

海に沈んでいく

赤い月










ぼんやりとした空間。
浮き足でココにいるような――そんな感覚を味わう。
人の感情など、不確かなモノで理解しようとするのは、
無理に近いだろう。
どんなに想っていても、消えない境界線はあって

――けど…気になるんだ…

だから、昂治は姿の見えないイクミを探していた。
こんな行動力を出す自分に驚きながら、
歩き回っている。








不意に感じられた違和。
それはもう日常茶飯事になりそうだった。
気づけば、イクミは自分を見ている。

時に優しげに
時に痛々しげに
時に自嘲げに

身震いするほどの恐怖と歓喜を感じた。
気持ちの良いものでない。
けれど、

――嬉しい…

自分を見ていてくれている。


このキモチは……



走っていた足を止める。
何も変哲のない部屋の扉が、やけに気になった。
元からアテがあるワケではない。
昂治はその扉を開けた。

「…誰も…いない、か…」

部屋は薄暗く、何も置いていない。
昂治は肩を落とし、その部屋を去ろうとした。
踵を返そうとした体はある方向に向く。

「!?」

視線の先にはイクミがいた。

「イクミっ!!」

その体は宙に浮いている。
昂治は慌てて、駆け寄ろうとした。



ザザァァァーーン



青い海



青い空



白い月




絶句してしまった。
一瞬にして、その場所は一面の海景色になったのだ。
膝まで海につかり、しっかりと水の感触が伝わる。

――ネーヤ…?

この景色に何となくネーヤが関係していると、
昂治は思った。
そして不思議なのは、空から降ってきている雪だ。


皓でなく赫


体に触れれば、その雪は溶けて消える。
雪だ。
ただ、色が違うだけの雪。
昂治はひとまず、イクミの方へ行く事にした。
波をかきわけ、彼の元へ辿りつく。
海をベットのように寝るイクミは
死んだようにキレイだった。
少し身震いをして、昂治はイクミに呼びかける。

「おい、イクミっ、イクミ!イクミ!!」

閉じられていた瞳はすぐに開く。
薄っすらと輝く翠は青を認識した。

「…こうじ…?」

――どうして、ココにいるんだ?

「何してんだよ、
それよりココはどうして海なんだよ」

浮かせていた体をイクミは起こした。

「えー、よくわからないんですけど、ネーヤちゃんがね
何か出してくれたみたいっすよ。」

「へぇ…でも雪が赤いんだけど、」

昂治の言葉に、イクミは雪が赤い事に気づく。
見上げれば、青空からはらはらと赤い雪が降っている。





昂治の血




イクミは目を瞑った。
この感情を抑えつける自信はある。
けれど、

「何かあったのか?」

この前の人はその自信を噛み砕く。

「何もないっすよ。」

微笑んで、そして少し心配そうな顔をする。
錯覚を味あわすのだ。

「何かあったんならさ、教えてくれよ。
少しは役立つと思うし…嫌ならいいけど。」

――何か?

昂治ヲ壊シタイ
自分ノ手デ
自分ダケノモノニ

「何もないからさ…ホント、」

「そっか…でも、」

――抑えてるんだから、やめてくれ

その心配を
その自分に向ける瞳を

――俺のモノだって錯覚するから!

「気にすんなよ、昂治クン」

笑っていうイクミに、昂治は眉を寄せる。
右肩を撫でて、そしてイクミを見つめた。

「気になるから、ココにいるんだ。」

嘘のない瞳が向けられる。

「だからさ、俺なんか気にしないで下さいよ。」

揺れる瞳は抑えている感情を溢れ出させる。
自分は昂治が好き。
自分は昂治を愛している。
自分は昂治をこの手で抱きたい。
抑え込んでいると云うのに、前の人はそれを知ろうとも
しないで、イクミの感情を溢れ出さそうとしている。
怒りが込み上げてくる。
焦りに似た憤怒。

「気にしたっていいだろ、イクミ。」

「気にするなよ、」

昂治がイクミに近づいてくる。

「そんなの無理だ、現にココにいるだろ?」

――やめて、昂治!!

「気にするな、ほっとけよ!」

声はだんだんと大きくなり

「かまうなよ!!!!」

叫び、拒絶をしめした。
泣きそうに揺れる瞳を次の瞬間に見る。
そして、その表情は長くは見られなかった。

「っ!?」

ガクンと昂治の体が下へ消える。
浅いハズのソコに沈んでいく。

「こうじ?」

「イクっ…ミ…かはっ…!?」



ドポンッ



海の中へ
沈む。

「昂治…?」

何をしているのだと、
何の冗談だと、
けれど昂治は姿を見せない。
ぶくぶくと気泡が見え、それがやがて消えた。

「…こう…昂治、昂治!!」

周りが暗くなる。

雪は白に
月は赤に
海に沈み、滲んでいく。

一歩前に出た途端に、
ソコは思いの他に深くなっていた。
深い青色に煌く海中が目に映る。

――昂治っ!!!

深く、深く
底を知らぬような海水の中。
下へ、下へ
沈んでいく昂治の姿。

きにしないでよ
ほっといてよ
かまわないでよ



俺ヲ見テ下サイ
俺ダケヲ見テ下サイ



水を掻いて、
青を掻いて、
昂治の姿を追う。

――昂治!!

腕を掴んで、上へとあがる。

「ぷはっ、」

新しい空気が肺に入った。
ぐったりとしていた昂治は、海水から出るのだが
また沈みそうになる。

「…ごほっ…かはっ…」

濡れた体が、イクミにしがみついた。

「…昂治…、」

しがみつく昂治の体は冷たく熱い。
赤だった雪が白になっていて、
月は赤く染まっている。

「…ごほっ…ほっとけるわけ、ないだろ、」

咳き込みながら言う昂治に、胸が熱くなる。
抑え込んでいた感情が溢れ
細い体を抱き返した。

「……」

折ってしまえたらと思うくらい、昂治の体は細い。
濡れた体は染み込むようで

――昂治…昂治…

抱きしめる腕に力をいれた。

答えなくていい
受け入れなくていい

ただ、壊したいだけだから

答えなくていい
受け入れなくていい



「昂治…好きだ、愛してる…」




……




海が
雪が
月が

その言葉を聞く。
その小さな言葉を


「…え?」


イクミには聞き取れなかった、小さな囁き。
しがみついていた昂治がゆっくりと顔を上げた。
困ったような顔で、頬が赤くなっている表情は何を
表しているのか一目瞭然だ。
けれど、イクミは待った。

「だから、俺も好きだ!!」

色気のない怒鳴り声。
ぽーっとするイクミに昂治は拗ねたような表情になった。

「何だよ、その顔は!」

「え?いや…その…」

深かったソコは、一瞬にして浅くなった。
海の水は二人の足の数センチくらいにまで浅くなる。

「…え、昂治、ホント?」

「信じてないのか?」


信じてないワケじゃない
ただ

――俺を昂治が想ってくれるんですか?

感情が溢れてくるのだ。

「昂治、」

「……苦しいのか?辛いのか?痛いのか?」

「なに、言ってるの、」

「俺には、そう見えた。
俺はそうなイクミを見たら、胸が痛くなるよ。」

そっと昂治はイクミを抱きしめた。
包み込む体は海の波。
優しげな青は海の色。
透る肌は月の光。

「心配してる、気になるしさ…これって、違うか?」

――好きだって事と


知られてはいけない
壊してはいけない
身に潜め
溶け込んでしわまなければならない
この想い


「…違うよ、昂治」

抱きしめる腕に力をいれた。
自分の内部にある黒い何かを伝えるように
乱暴に抱きしめた。

「それは…」

――同情だ。憐れみだよ。

「あのさ、イクミ…苦しい、」

「……」

身体をゆっくりと離す。
服に染み込む海水が肌の温度を下げた。
視線を少し泳がせて、昂治がじっと見つめる。

「こう……」

イクミの唇に昂治の唇が重なる。
それは軽いモノで、すぐに離れたけれど

「…これでも…か?」

顔を真っ赤にさせて云う昂治に、驚きとともに
暖かい感情と衝動が満たす。

「キス、してくれたんですか?」

「え?ああ、そうだよ…」

「俺に昂治が?」

「そ、そうだよ。」

イクミは微笑んだ。

「何、赤くなってるんだ?昂治からしてきたクセに、」

「っ!い、イクミ!!」

真っ赤になって怒る昂治をイクミはまた抱きしめた。
強く強く抱きしめて、現実を実感しようとする。

「昂治…昂治、昂治…」

「イク…ミ?」

海水が引いていく。
イクミは昂治を抱きしめたまま、少し水がはるソコへ
押し倒した。栗色の髪は海水に揺らめき広がる。
濡れた体が合わされば、じわりと熱が伝わった。

「……昂治…受け入れるの?」

その全てで

「ねぇ、逃げてよ…」

黙ったまま昂治は見ている。
微かな笑みと
瞳の揺らめき。
その揺らめきは怯えだとイクミには解った。

「壊すよ、全部…俺は昂治を、」

目を伏せ、昂治はイクミを抱き寄せた。



「もう、壊れてるよ」




囁きと熱はゆっくりと響く。







月は赤く。
雪は白く。
海は青く。
空はゆっくりと眺めている。

「…あ、あのさ、」

ぱしゃっと水飛沫を少しあげて、昂治は身じろいだ。

「なに?」

前ボタンを外しながら、イクミは応える。

「まさか…ココで?」

「…そうだよ、壊すって言ったっしょ。」

前を開かした。
白い肌は雪のようで、掠めるふうに降る雪が
触れては消える。

「イクミ…誰か来たら、どーすんだよ、」

「来ないよ…」

「何だよ、その断定…っ…」

喉に噛み付いた。
身じろぐ体が波紋と飛沫を作る。

――求めていい?

壊せ
壊せ

――抱いていいですか?

「なに…っ…ん、」

戸惑う声は甘く、耳を刺激する。
首筋を舐めているだけなのだが、昂治の反応は
おもしろいほど返ってきた。
もともと感度がいいのかもしれない。
見える右肩にキスをする。

「…っ…」

くぐったさに眉を寄せる昂治が、そんなイクミを見つめる。
傷跡は消えない。

「…イクミ、大丈夫…だから、」

優しい声は、自分を癒す。
そして衝動を味あわす。

傷跡を舐めながら、胸に手をそえた。
女の乳房に触るような手つきに、昂治の体が動く。

「俺は、女の子じゃな…い、」

開く唇をくわえ込むように唇をあわす。
歯列をなぞり、口腔をくすぐる。
下の体はビクビクと跳ねて、水の音をたてた。

「ふぅ…ん、んん」

声が漏れるのは、イクミが胸に触れているから。
舌を絡めながら、胸の突起を指でつまんだ。

「んっ!」

唇を離し、赤く頬を染める昂治を見た。

「あ…やめっ…」

体の中心を辿って、乳首を唇で吸った。
バシャンっと昂治の体が跳ねる。

「あ、んぅ…ん!!」

目をぎゅっと瞑り、声を押し殺そうとする。
そんな昂治は可愛くて、壊したくて。
体を優しい手つきで撫でながら、乳首を噛んだ。

「ひぁ!?痛っ…痛い!」

「…痛い?」

噛み方に強弱をつける。

「やっ…だ…やあ!!」

「…ごめん…」

多分、優しくは出来ない。
衝動が
闇が
本当の自分が

彼を壊そうとしているから

「イクミ、」

不安げな声を聞きながら、イクミは顔を上げた。
欲に濡れる瞳が、昂治に映る。
恐怖と
別の何か
浸る海水は温かく、浮くような感覚を味あわす。

「…俺を感じて、
受け入れなくていい…。
今から、昂治を壊す…俺が昂治を壊すトコロを感じて」

昂治の両の足を片手持ち上げて、空いている手で
ズボンを素早く脱がす。
抵抗をする前に、下半身の衣類を全て剥ぎ取り、
体を折り曲げさせる。

「いや…やっ…ああ!!」

戻らないように、腰を体で支えて
昂治のモノを口に含む。

「んっ…や、あっああ…」

ばしゃばしゃと水音が響く。
重量の増すモノは、感じている証拠で、
壊そうとしている現実が暗い歓喜を味あわせた。
同時、胸が切なくなるほど痛い。

「…ひゃあああ!!」

モノを口に含みながら、
誰にも触れさせていないであろう穴に指をいれた。
痙攣しだす体は、恐怖と混乱を滲み出している。

「やぁ…やめ…いた…いた、い!」

「それだけじゃ…ないでしょ?」

含むモノに微妙な刺激を与える。
キツく締める穴から指を抜き、海水をすくう。

「あっ…や!!」

水の所為で身じろぐ事もままならない昂治は
震えを大きくさせた。

「…くぅ…はぁ、やだ…やめっ…」

生理的なものか、それとも感情的なものか。
涙が濡れた頬に混じるように流れる。

――昂治…ごめんね…


壊すよ


「ぁ…んぅ…やだっ…!」

口の中のモノが限界を知らす。
耐える理性を崩すように、強く扱くように吸った。

「やぁあああ!!!」

悲鳴を上げ、呆気なく昂治は達する。
苦く広がる精液に、イクミはうっとりした。
そして、そんな事をする自分を嘲た。

「や…やぁ…」

残さず飲み干して、イクミは口を離した。
穴にいれている指は、内部の熱を感じさせる。

「…っ…い、いくみ…」

涙が滲む瞳で見つめられる。
イクミは目を伏せ、自分のズボンのチャックを下ろす。

受け入れなくていい。
そう思うのは事実で。
拒否をされたくない。
そう思うのも事実で。


「っひぁ…!!!」

悲鳴はあまりの激痛で喉から出なかった。
喉が渇いたような掠れた悲鳴。

「…昂治…好きだよ…」

自分のしている浅ましい行為。
犯している。
壊している。
実感する喜びの中の切なさ。
イクミは目を瞑ったまま、体を押し進めた。
だが、そんなイクミに昂治が手を伸ばす。
しがみつくように回される腕は逆に自分が包みこまれて
いるように思わせた。

「っ…っ…」

痛みで声が出ない。
けれど必死に言おうとする昂治の表情は、
笑みが浮かんでいる。

「ぁ…好き…だ…」

掠れて、小さい声。
けれどしっかりとイクミの耳に届く。
イクミは動きを止めて、昂治を見つめる。

「さっき…言っただ…ろ?」

「こうじ…」

「…痛いコト…す…るから、」

恥ずかしさと不安と恐怖は
イクミを拒絶しているのではないと。

「こうじ…こうじ、」

「…た…頼むから、ゆっくり…して、」

震える体がイクミに縋る。
実際はイクミを包んでいると昂治は気づかないだろう。

「痛い…いたっ…いんだ、」

イクミはそっと下肢を見た。
太股には赤い血が伝っている。

「っ…こうじ、」

「はぁ…はぁ…イクミ…」

昂治を抱き返し、体をゆっくり進める。
根元まで入ると、昂治の体がびくりと震えた。

「っ…はぁ…っ」

息を吐き出し、すぐに突き動かしたい衝動を抑えた。
内部は狭く熱く。
キツク締め上げるソコは、
イクミに少しの苦痛を与えた。

「ふぅ…ん、んぅ…」

痛みに歪めている顔にキスをし、萎えたモノに
手を添えた。快楽を呼び起こすように。

「っ…んあ!」

痛みと快楽が混乱を招く。
理性と心が矛盾を招く。

「あぁ…いたっ…いた、いっあああ!!!」

ゆっくりと動き出すイクミに昂治は必死にしがみつく。
その腕の強さにイクミは瞼が熱くなった。

「や、やぁ…ん、ひぎゃっ!?」

過度な反応が返ってきた。
感じる場所なのだと、イクミは気づく。
モノを扱きながら、そこを重点的に攻めていく。

「あ、やぁ…いくみ、いくみ!!」

ぐちゅ、

いやらしい音が二人の聴覚を刺激する。

「くぅ…やっ!そこっ!」

「はぁ…ココ?」

「ふぅん!!」

首を振り、水飛沫をたてる。

「はぁ…や、ん…あぁああ!!」

「こうじ・・・こうじ…こうじ!」

「いくみ…!」

名を呼び、言葉は染み込む。
互いにキスをねだる。
足りない。
これだけでは足りないと言わんばかりに。

「あ、もう…んぅ!はぁ…」

「こうじっ」

熱が
吐息が

「っ…ひゃああああああ!!!!」

嬌声を上げ、

「んっ…」

声を漏らす。



波の音のしない海。







空には月

降っているのは雪



静かに押し寄せる海の波。








空に滲む



海に沈む



青に輝く――










海は空間を越えるように広がっていた。
二人は浅い水面に浮かび、ただよう。

「……昂治…」

「ん?」

虚ろな返事は、情事の激しさを物語っているようだ。

「ごめん…」

瞳だけ昂治は向ける。
嗜めるような瞳はイクミを不安にさせた。

「後悔…してるのか?」

――していないと言えば嘘。

昂治を壊した。
昂治を汚した。

「…してない…」

でも、歓喜が体を満たしたのは事実だった。

「そっか…」

雪はあいかわらず降っている。
赤から白へ

「キレイだな、」

雪は薄く色づいていた。
花のような桃色に。

「これさ…イクミが思ってる風景なんだろ?」

「…わかんないです。」


ココロのカタチ


少女の声が耳に響く。
イクミは昂治を見つめた。

「こんなにキレイな海…初めて見たよ。
こんなにもキレイな空も、月も…こんなにキレイなのは」

やわらかく微笑む表情。

「…青色…好きなのか?」

「え?」

「すごく…煌いてる…」

見つめる瞳は深い青。
昂治は気づいているだろうか。

「うん…青…好き、」

微笑む昂治に手を伸ばした。
水に濡れながら手が握られる。
あたたかい熱。

「キレイだね、」

「うん…そうだな、昂治。」












アナタの瞳。


キレイな青です。









海は広がる

月は白く

雪は薄く色づいて

海は包む

ワタシの躯を

海は見守る

ワタシの想いを

アナタは包む

その青で





「キレイ…キレイだよ、」

闇ではない

その想い


「アナタ、ココロ…キレイ」





人を想うのは

ステキな事なんだ


海よ

月よ

雪よ




青は翠

翠は青




(終)
分かれてたんですが、これもまとめました。
イクミはある意味子供ですが、ある意味、大人ですよね(わけわからん)

>>back