…++新月が哭く++…

―笑顔―





ふと見れば月

千切れて

なくなった

手を伸ばしながら

ここは

ただ寒い、恐い、暗い














暗い部屋。

「……、」

目を瞑る昂治の上に、祐希が折り重なるようにいる。
祐希の静かな吐息があたり、

サラッ

昂治の髪が音をたてた。



最後に見たものは






アナタノ笑顔。













闇だった。

「くぅ…むぐっ!?」

黒い帯状のモノは増殖し、昂治の身体を犯していく。

「ひぎゃっ!!!」

無理に秘部に入る黒い帯。
ぎちゅ、ずちゅ
黒い液体を昂治にかける。
太股には赤い血がしたたった。

「一つになろう。完全になるんだよ、」

コウジは微笑み、

「最悪だな、アンタ。」

祐希は罵る。

「はぁ、あうっ!!い、やぁ!!!」

本来なら嫌悪するものだ。
実際、この黒い帯状のモノは、鳥肌がたつくらい気持ちが悪かった。
けれど、昂治は感じていた。
慣らされた体。
自身、汚いと思う躯。
痛みから逃れようと、まるで絶望から逃れようと快楽へ繋ごうとしている。

「…ゆ、ゆう…き…あぅ!!」

「呼ぶな、キモチワルイ。」

白い肌が黒く染まっていく。
あれだけ残っていた右肩の傷も、膿のような黒いモノに消されていく。

「一緒になろ。苦しいだけさ、ツライだろ?痛いだろ?
どうせ、汚いって醜いって思ってるんだろ?」

視界が歪む。
涙は出ない。

「祐希は嫌いだって、キモチワルイって言ってるよ。」

瞳に映るのは冷たい眼差しの祐希。
笑うコウジ。

――俺は……、

祐希が好き
どうしようもない
止まらない
堕ちた
祐希を愛してる
たとえ自分が苦しくても
このキモチは変わらない
傍にいたい
ずっと共に生きていきたい
生きていたい
死にたくない
死にたくないよ

デモ、祐希ガ苦シムノハ嫌ダ

俺がいるから
祐希ハ苦シム
俺がいるから
祐希ハ痛イ
俺がいるから
祐希ハ高イ所ヘ行ケナイ
俺がいるから
俺がいる所為で
祐希ハ堕チタ
飛ベナイ

「違う、キミが堕としたんだよ。無理やりね。」

コウジの言葉が耳に入る。
そして浮かぶ思考。

自分ガ、イナケレバイイ

死ンジマエ

涙は出ない。
何故か出ない。
悲しいのに、出なかった。

「くぅっ…ううあっ…、」

霞んでいく視界。
呑みこまれる。
呑みこまれる。


ふと冷たく見ていた祐希が近づいてくる。

――祐希…?

近づいてきた祐希は黒い帯――闇を引き千切り、
昂治の手を引いた。

祐希、祐希、祐希


「俺さ、言ってなかった事があんだよ、」

何かと問う前に、昂治の髪を乱暴に掴み自分に引き寄せる。

「っ…」

目を顰めながら、相手を見る。

「何でアンタなんか、抱いてたかって理由をさ。」

「…ゆ…うき…、」

「手ごろだったんだよ、アンタさ。兄弟だからな、傍にいても
変じゃねぇし。ま、もし周りにバれたら、アンタが言い寄って来た
って言えばよかったしな。」

瞳が揺れる。
青い瞳の光が弱まる。

「それにしても、ちょっと優しくしてやれば、
アンタさ縋ってくるだろ?あはは、惨め過ぎて面白かったぜ。」

嘘、嘘だよな…

「嘘じゃねぇよ、」

「嘘じゃないって、昂治…ボクと一緒になろ?」

バタンと、地に祐希が昂治を叩きつける。

「くはっ!!」

「好きじゃない、アンタなんか誰が愛すかよ。」

尻を掴み、双丘を割る。

「かわいそーだからな…抱いてやるよ、」

「…ひ、っあああああーーーー!!!」

ずぷぷっっ

逃げようとする昂治の腰を掴み、祐希は突き入れる。
そして一息つかずに、律動をし始めた。

「うう、ひっ!!あ、ああ…あぅ!!」

昂治の肌は桃色に染まっていく。

「感じてんのか?強姦まがいなのによ…やっぱ、アンタ淫乱じゃねぇの?」

「はぁ…ぎゃ!!」

モノを軸にして、昂治を前に向かせる。

「アンタなんか大嫌いだ、」

「…あ、ああぅ…ああ、」

キライ、キライ、キライ、嫌い、大嫌い。
オマエなんか誰が愛すものか。
あまりに惨めだから愛してるマネしてやってんだよ。
それくらい、解れよな。
淫乱野郎。

声が昂治の耳内に響く。
青い瞳が黒く染まっていく。
暗くなっていく。
クスクスとコウジは微笑みながら、二人の情事を見た。



俺なんか愛されない




――こう…じ




祐希は俺が嫌い




――こうじ…!




じゃあ…あの祐希は




――こうじ!こうじ!!




全部、嘘…




――ダメだよ!こうじ、こうじ!!




――イヤだよぉぉぉーーーーー!!!






少女の声が鳴り響く。
昂治の瞳に光が宿る。
それは優しいものでも、冷たいものでもない。

ただ強い光。

朦朧とする意志の中、昂治は周りを見る。
そして浮かんだ考え。

ここは、何処だ?

そしてすぐに答えが出る。

「ねぇ…一緒になろう。そうすれば、完全になれる。」

「…ふあ、ああああーーーーー!!!」

精を吐き出し、昂治は達する。
ずるりと祐希はモノを出して、服を素早く整えた。
そして嘲るように見る。
まるで、今の情事に感じなかったと言うように。

「昂治…いっしょに…、」

「…っ…いやだ…ココは…ココは、俺のセカイだ!!」

そう、浮かんだ答えを言葉にし、昂治はふらつきながら立ち上がる。

「おまえらなんか、知らない!知らない!!知らない!」

昂治が仄かに光りだす。
そして言葉を吐いた。



「死んじまえぇーーーーーーーーーー!!!!」




コウジが掻き消えた。
祐希は倒れた。
闇は広がり、自分は淡く光を纏う。

青白いヒカリ。

そろそろと昂治は倒れた祐希に近寄る。
息をしていなかった。
あたたかくなかった。
鼓動が聞こえなかった。
倒れた身体を昂治は抱きしめる。

「…こうじ、こうじ!」

少女――ネーヤが淡く金色のヒカリを纏って降り立つ。
昂治は祐希を抱きしめながら、ネーヤを見た。
そして俯く。

「こうじ、早く…こうじ、」

「…ネーヤ…俺…祐希、殺しちゃった…、」

声が震え、掠れている。
ネーヤはふるふると首を振った。

「ちがう、違うヨ。ソレはアイバユウキじゃない…ユウキは、」

「…でも…でも…っ、」

言葉がつまり、そして昂治は泣き出した。

「うう…うわあああーーーーーん!!」

幼児のように泣き声を上げる。
ネーヤは近づき、昂治の前に膝をついた。

「泣かないで、泣カナイデ…こうじ、イヤだよ!」

「ああ、わあああーーーん!!」

「泣かないで……、」

昂治が纏うヒカリが強くなる。

「こうじ…こうじ…、」

名前を呼ぶ事しかネーヤにはできない。

青白いヒカリ

あの赤い月と同じ。

何故か青白い光


何人の情念も寄せ付けない、苛烈なヒカリ


ネーヤは瞳を閉じる。





こうじ、ソバにいても

いいんだよ

あのヒト待ってるヨ





死にたくなかった

生きていたかった

けれど

傷つけてしまった

ほら

行くことを許されない

愛しい者の処へ






「おやすみなさい……、」

瞳を閉じた昂治をネーヤは抱きしめた。
昂治の胸に、祐希はいない。
つぅっとネーヤの頬に雫が零れた。



ああ、ワタシは何も救えなかった――













ふと祐希は瞳を開いた。

「……、」

展望室で、ベンチに座ったままうたた寝していたようだ。
何の夢を見たかは覚えていない。
けれどその夢は、現実より楽しいものだと解る。

「あらー、祐希クン。おサボリでちゅかー?」

にゃはっと笑い、イクミが歩いてきた。

「……、」

無視をする。
肩を軽く竦めて、イクミは祐希に近づいた。

「もう20っしょ!少しは愛想良くしてた方がいいっスよ。」

「うっせぇよ、干渉すんじゃねぇよ…、」

「うにゃー、彼女できないよ?そんな性格ですとー。」

祐希は立ち上がり、スタスタと歩き出す。

「ありゃ、逃げるデスか。」

トタトタとイクミは祐希に近づいた。
そのまま歩調を合わせ、共に歩く。

「ソバに寄るな、キモチ悪ぃんだよ。」

「いやーん∨捨てる気?」

ギロリと睨めば、イクミは愛想笑いをする。
そしてその笑みは、ゆっくり自嘲めいたモノになっていった。

「…言っとくけど、俺さオマエの事、好きじゃないデス。」

イクミは翠の瞳を向ける。

「けどね、嫌いじゃない。どうしてだろうな…、」

「てめぇと、馴れ合うつもりはない。」

「俺だってないっすよ。ただね、オマエだけ…俺と同じだからさ。」

笑みは消え、狂気にも似た光が宿る。

「何か失った。何かを失った、そう思ってるだろ?」

祐希は答えず、瞳を逸らした。
何かを失った。
それは漠然的に失ったと感じている。
大切な、大事な、かけがえのない何か――、
その何かは解らないのに、ソレは大切な…と思う。
忘れたのか、もともと知らないのか。
何かを失った。
それだけ、シコリになって心の中に残っている。

「まあ、みなさまは笑って飛ばしますが…ほら少年時代の感傷
とか言われちゃってさ……でも、祐希、オマエは違うな。」

「だから、なんだ…よ、」

ふふっとイクミは笑う。

「まあね、近くにいれば解るかなーって思ったワケよ!」

何も言わず、祐希は前を見た。
通路奥から誰かが歩いてくる。

コツコツコツ

靴音が響く。
祐希の歩みは止まっていた。

「祐希クン?どーしました??」

止まったままの祐希の目線を追い、イクミもソレを見た。

黒い拘束具のような服。
さながら、その姿はネーヤと似ている。

「……、」

少し俯いているだけで、その歩いていた人の顔は見えなかった。
二人の前に少し離れて立つ。
小柄だが、少年である事は解る。
ふっと、その人は顔をゆっくり上げた。

青い瞳。
白い肌。

イクミは凝視した。
眉を寄せ、何かを言おうとした時だ。
隣にいる祐希から、ひゅっと音がする。

「…祐希?」

顔を向けてみれば、イクミは思考が止まった。

泣いている。

止めようがないかのように、頬に雫が筋をつくっている。

「祐希、どうしたんだっ、」

自分が泣いている事に気づいていなかったらしい。
慌てて祐希はごしごしと目を拭く。
けれど、涙は止まらなかった。

「どうしたんだよ、泣き虫だったのか?」

「知らねぇ…よっ…、」

すっと手が伸び、祐希の涙が拭われる。
その手を辿ってみれば、離れて立っていた少年だった。

「……、」

涙が不思議に止まる。

「知り合いか?」

「知り合いじゃねぇよ!!」

声が掠れる。
問い掛けたイクミの瞳も何か泣きそうに揺れている。
祐希は自分の頬の涙を拭っている少年を見た。

「…オレは…山吹のイプロマーターのスフィクスだよ、」

「スフィクスさんですか…、」

イクミは微笑んで返すが、その笑みはやはり泣きそうな物だ。

「そう、こうじ…こうじって名前…、」

“こうじ”と名のったスフィクスは、祐希の頬から手を離した。

「泣かないで…泣かないで、」

微笑むこうじに、祐希は俯く。

「大丈夫か?祐希、」

どうして?
どうして?
哀しいんだよ…
胸が痛いんだ?

「…祐希…、」

こうじから、その言葉が発せられる。

「少しのあいだ、ソバにいていい…?」

「…っ…、」

顔を上げた祐希の頬には、また一筋の涙が伝う。

こうじは慰めるかのように微笑んで、

その微笑みは



どこか、さびしそうな笑みだった。









ふと見れば月、新月は鳴り響き…

欠けました、苦しみながら

痩せていきました、泣きながら


あとは月のない夜が来るだけです



アナタはあのヒトの

ソバにいたかった

ただ

それだけ

それだけ

なのに


イインダ、ソレデモ



…愛しい者の処へ、来れたのだから









見えますか?


見えてますか?



凍てつく、それでも癒そうとする、青白いヒカリ



今夜の月は金色です。

今夜の月は金色……


赤い月は消えました。






last moon 続
BADEDヴァージョン。
次のlastmoonに続きます。
その後な展開なので、祐希は20です。
すぶた的には、こっちが真EDだったりする(おいおい)

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