***White・Sweet








ココロがアナタでいっぱい

溢れていく

アフレテイク…






俄かに賑やかなリヴァイアス艦内。
今日はホワイトデーである。
ヴァレンタインのようにパーティがあるワケではないが
賑やかなのには変わりはない。
中には女の子にたくさん貰い、お返しに困っている
男もいたりする。
平和な艦内だ。









ACT,1


「あ…どうしたんだ?」

人通りの少ない通路。
気配を感じ、昂治は振り返った。
空気に馴染むように、静かにブルーは立っていた。
振り返る前から、その気配を彼の物だと昂治は分かって
いたかのようだった。

「……」

黙ってブルーは近づいてくる。

「ブルー?」

「やる、」

「え?」

渡されたのは小さな箱だった。
甘い匂いがほのかにし、
お菓子が入っているのが分かる。
昂治は受け取りながら、首を傾げた。

「えっと…今日は誕生日じゃないけど、」

「貰ったからな…、」

「貰った?」

「そういう物はお返しをするらしい、」

昂治は少し考え、じっとブルーを見る。

「ああ、ヴァレンタインのか?
あれはあげたの内に入んないよ。
きっと揶揄われたんだ、ごめんな。」

確かに人に教えて貰ったような物だ。
ブルーは目を伏せる。

「…でも、ありがとう。
受け取って…いいよな?」

「ああ、」

微笑む昂治にブルーの唇が密かに綻んだ。
トクトクと脈拍が速くなるのを感じながら、
ブルーは頬に触れる。

「ブルー?」

「………」

目をパチパチさせて、昂治は見つめ返してくる。
そっと撫でて、ブルーは手を離した。
昂治の反応が示される前に、ブルーは身を翻す。




気ヅカナイフリヲスル




そのまま反対方向に歩いていった。

「どうしたんだろ…?」

去っていく後ろ姿と貰った箱を見比べ
小さく呟いた。









ACT,2


昂治は用意した包みを渡す。

「へぇ、昂治にしてはセンスいいわね。」

紺の包装紙に包まれた箱はシンプルで、
中は生チョコが入っている。

「どういう意味だよ。」

「そういう意味よ、」

にこっと笑うあおいに、昂治はため息をついた。
幼なじみなだけあって、全てお見通しなのかもしれない。

「悪かったな、センスなくて。」

「もういじけないの!」

「いじけてないって、」

本当なら、このような行事にあおいと共に
過ごしていただろう。
けれど関係が終わり、変わった今。
こういう行事の出会いはすれ違う程度だった。

「そうそう、これ和泉に。」

「わかった、渡しておくね。」

こんなにキレイに切れた。
思いは続いて、いるのに昂治は気づかないだろう。

「ありがと、じゃあ、リフト艦に行くから。」

「うん、しっかりやるのよ。」

「わかってるって、」




ソレデイイノカモシレナイ




あおいは去っていく昂治に手を振りながら思った。








ACT,3


振り返り様、昂治は後ろから抱きしめられた。
巻きつく腕を払おうとしながら、
その抱きついた本人を見る。
ニコニコと笑っているイクミだった。

「やっと…見つけましたぁー、」

「苦しいんだけど、」

「いいじゃん♪」

きゅうっと抱きついてくる仕草は甘えているようで
縋っているような…そんな気にさせた。

「何か用か?」

抱きついたままのイクミをそのままにし、
昂治は通路を歩き出した。
そんなに力のない昂治でも引きづるようにして歩けるのは
イクミがあまり体重をかけないように
凭れかかっている所為だろう。

「もうね、朝から探してたんすよー。
起きたらもういないしぃ。」

「おまえが遅いからだろ、ちゃんと起こしたし。」

「で、起きたイクミ君は艦内を探し回ってたですよ。」

そして肩にため息が掛かる。
くすぐったくて、昂治は少し体を震わした。

「そしたら今日はホワイトデーじゃん。
お返しをーって言われて、てんてこ舞い…、」

「そりゃ、大変だな。」

「あー今の言い方、本心じゃないっしょ。」

しくしくと泣きマネをして、イクミは昂治から離れた。
そして持っていたらしい紙袋をごそごそと探る。

「はーい、どうぞv」

「え?」

青い包装紙に花をあしらったリボンで飾りつけされた
箱が渡される。

「あの…これって、もしかして……、」

「そ・の・もしかしてぇーvお返しだよん。」

「お返しって、俺…おまえにあげてな、」

人差し指を立て、ちょんと唇に添えられた。
昂治は驚き、イクミをじっと見る。

「夜にホットチョコ、ごちそーしてくれたっしょ?」

そう言えば、トリュフを全部食べられてしまったので、
イクミにあげる事が出来ず、駄々らしき事をした彼に
仕方なく即席のホットチョコをあげた覚えがある。

「あれは…おまえが、」

「まぁ、受け取ってよv」

昂治は差し出された箱を受け取った。

「…ありがとな、」

微笑みながら言う昂治に、
イクミは満面の笑みを浮かべた。

「どーいたしまして。」



想ウ事ダケハ許シテ下サイ




翠の瞳が煌く。
それはキレイな煌きだった。








ACT,4


リフト艦の入り口に気だるそうに壁に寄りかかりながら
祐希は立っていた。

「……」

兄弟の仲は修復したワケではないが、
以前よりはマシだ。
昂治は顔をあげ、こちらを見る祐希に笑みを向ける。
相手はゆっくりと近づいてきた。

「…なんだ、それ、」

「それって?」

目の前に立ち、祐希は昂治の手に持っている物を
指差した。それは先程ブルーとイクミに貰った物である。

「…貰ったんだよ、」

見下すような瞳を向けられ、多少の怒りが込み上げる。
それはすぐに消えてしまう怒りなのだけれど。
ムッとした顔を昂治は向けた。
軽く祐希は目を伏せ、少し体を屈ませる。
何事かと考える前に

ちゅっ

そういう音が響いた。
音同時に感じる頬に柔らかい感触。

「っ!?」

頬を押さえ、昂治は祐希を見た。

「な、な…なにすんだよ!」

「…別に、」

揶揄うような笑みを向けられる。
それはもう何年も見ていない無邪気な物で、
混乱を忘れてしまうほどだった。

「別にって、キスするか?」

「バカ兄貴が、」

「なんだよ。その言い方は…」

目を顰め、呆れたような声をかけられる。
祐希は鼻で笑い、踵を返した。




伝ワラナクテイイ、傍ニイレルノナラ




去っていく祐希に昂治はため息をつく。
昂治の疑問に応える者は多分いないだろう。











Last――


リフト艦に入るなり、ふわりとネーヤが舞い降りてきた。
他には誰もいなかった。

「こうじ…待ってたヨ。」

「あ、ごめん。待たせたかな?で、する事って何?」

「ううん、こうじは何もしなくてイイヨ。」

「え?」

ネーヤは昂治の手を引き、リフト艦の中央につれていく。
手をゆっくり離し、聞きたげな昂治に顔を向けた。
微笑んでネーヤは上を指差す。
つられるように昂治は上を見上げた。

「たくさん…受け取って――、」


ふわり

ふわり…


白い何かがたくさん降ってきた。
降ってきた物を昂治は手を広げて受け止める。
ふわっと優しく手に乗ったのは、
白いマシュマロだった。

「ネーヤ…これ…?」

「お礼ダヨ。」

雪のように降るマシュマロはキレイだった。
マシュマロを昂治は一口食べてみる。

甘く
口の中でとろけた

「…嬉シイ?」

「ああ、ありがとう…普通は逆なんだけどね。」

苦笑いをしながら昂治は言った。
留め止めなく降るマシュマロを昂治は眺める。

「キレイだな…」

「……こうじ、」

「何?」

「…この想い…アタタカイ…、」

「思い?」

ネーヤはゆっくりと昂治に抱きつく。
甘えるような仕草にそっと背中を
昂治はあやすように撫でた。

「ふわふわ…きゅっとなって…くらくらする…」

「そっか…」

「そうだヨ…」






艦内にマシュマロがふわりと降りそそぐ。
誰もがあじわう、甘くあたたかい感覚。






あふれる

少しでもアナタに伝わるようにと

想う

このキモチが

"好き"だと云うキモチ






あたたかくて

胸ガ痛イネ


Danzano in ciel le stelle...













(終)
きよしこのよる、ヴァレンチノ、そしてこれと
微妙に繋がっております。
このままでいたい、このままでいたくない。
感情が揺れ動く様を上手く書きたいっすね。

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