…++きよしこのよる++…




きょうは

あなたと

一緒にいたい…








12月24日――AM10:34


リヴァイアス内の生徒たちは、大忙しだった。
平穏な艦内での、初めてのクリスマスを迎える。
当然と云う訳ではないが、
パーティが開かれる事になった。
やっぱりと思われてしまうけれど、昂治はそのパーティの
為に奔走、奮闘していた。

「昂治ー、これは何処に?」

「それは、リフト艦の方に持っていってくれないか?」

「ねぇ、ココが良くわからないんだけど、」

「ブリッジに資料が置いてあったから、ソコに行けば…、」

昂治は呼び止められれば、止まり。
聞かれれば、しっかり答え、頼まれれば…
何はともあれ、昂治は多忙の頂点を立つだろう。

「ふぅ…あとは…、」

「昂治、頑張ってるね!」

にこっと笑って、昂治の前にあおいが立った。

「あ、あおい…何かあったのか?」

当然だが、パーティに関する返しである。

「ううん、ないよ。それより、知ってる?」

急な事で首を傾げる。
あおいは昂治を覘きみた。

「花交換。」

「あ…ああ。自分が持ってる造花を、相手に渡して
受け取ったら告白成功ってヤツか?」

「そう!それでね、昂治は誰に渡すの?」

ピタッと昂治が言葉に詰まる。
その困ったような昂治の表情に、
あおいは気分を良くしたように微笑んだ。

「ぜったい成功しなさいよ、」

「…あおい、ごめん。」

「やめてよー、まだ私は諦めてないんだから。」

棘々しい口調でない。おだやかなモノだ。
二人は付き合っていなかった。
その事実を知る者は、まだいないが、近いうちには
皆に知られるだろう。

「あとでね、」

「ああ、」

手を振り、二人は別れた。










好き。

好き?

その感情は何から生まれるのだろう。










12月24日――AM11:05


連絡が来て、昂治は廊下を走っていた。
ちょうど角に曲がった所で、

「あ、ブルー!」

ブルーに会った。
艦内で彼に会えるのは稀かもしれない。
昂治にとっては稀ではないけれど。

「……」

「そろそろ、はじまるよ。パーティ。」

「……、」

何も言わず、じっと見ているブルーを見上げた。
背丈の差が、かなりある。
けれどあまり見上げなくてもよかった。
ブルーが少し身を屈めてくれているようである。

「少し、」

「なに?」

「疲れている…ようだな、」

無表情に云う様は、脅している感じだ。
だが、ブルーの瞳の揺らめきは優しげなもので、

「そんなに疲れてないよ、ありがと。」

「ああ、」

昂治は微笑んで礼を言う。
瞳を閉じて、ブルーはソレを返した。

「…じゃ、俺行くな。」

そう言って歩き出すが、ふと昂治は振り返った。

「あのさ、ユイリィさんが探してた。ブリッジにいるよ。」

笑みを向けて云えば、ブルーは軽く唇だけで笑った。

「…あ、祐希がケンカ売って、ごめんな。」

「気にするな、」

「じゃぁ、また後で会えたら。」

IDの呼び出し音がして、昂治は慌てて走り出す。
それを静かにブルーは見送った。

「…あいかわらず、変わった奴だ、」

それは穏やかな表情だった。










この感情は

ダメ?

そう思うのは何故だろう。









12月24日――PM1:40


パーティまで時間がない。
直前になって、トラブルが起こるのは、もう当然だった。
引っ張りダコになっている昂治は何とか解決していく。
時間がないので、
ゼリー状の栄養ジュースは昼食代わりに摂取した。

「お兄さん、大変そうですね、」

頼まれた装飾電球を運んでいた時だった。
ダンボールを抱えたカレンと会う。

「そっちも大変そうだね、」

「そんな事ないですよー、これ軽いし。」

気前のいい笑みに、昂治も笑みで返した。
ダンボールは確かに軽そうである。

「いつも祐希がお世話になって、わるいね。」

「そうですか?お兄さんに甘えてると思いますよ」

カレンの返しに、昂治は困ったような笑みを向ける。
そう言えば最近会っていないと、今更ながら思い出した。
前会ったと言ってもすれ違い程度だけれど。

「ホント、祐希、お兄さんの事ばっか言ってるんです。」

「悪口とかだろ?」

苛立つ事はなく、落ち着いた調子で昂治が言う。
カレンはダンボールを持ち直して、昂治を見た。

「心配してるんだと、思いますけど、」

「そんな事ないよ、」

「…うーん、私ってバカかも。なに応援してるんだろ、」

「え?」

へらっと笑い、何でもないと返した。
ちょうど別れるトコまで着く。

「じゃあ、頑張って。」

「はい、どうもです…あ、お兄さん!」

離れていく昂治に、
ダンボールを置いてカレンが駆け寄った。

「これ、忘れちゃダメですよ。」

そういってワイシャツの胸ポケットに花を刺された。
ピンク色の可愛い造花である。

「…あ、これ…、」

「役員でも、花交換には参加しないと!」

「うん…ありがと、」

にこっと笑い、カレンは軽い足取りで去っていく。
その後姿を見て、そして胸ポケットに刺された花を見た。
息をつき、昂治は歩きはじめる。










たしかにソコにある。

けれど

許しはしない。











12月24日――PM5:00


クリスマス・パーティ開催。
夜通しで繰り広げられる事になっていた。










許しはない

感情はソコにあるまま

それでいいのかもしれない。










12月24日――PM6:54


パーティが始まって、少しは忙しさが落ち着く。

「こおじぃ!!」

会場であるリフト艦で、昂治は呼び止められる。
手にたくさんのプレゼントを持ったイクミだった。

「…サンタでもやるのか?」

「うーん、ちょっとそれも考えて…じゃなくて貰ったデス。」

大半は女の子からだと容易に想像がつく。
プレゼントを床に置いて、改めてイクミが顔を向けた。
笑みが浮かべられている。

「あのさー、昂治…、」

「悪いな、これからブリッジに行かないと。」

「まだ何も言ってないです…ヒドイ!昂治!!」

泣きまねをするイクミに昂治は呆れた表情をする。
そして軽く謝罪した。と言っても棒読みだったが。

「ふぅ、忙しいのね…こうじぃ。」

「ああ、悪いな。暇になったら来るよ。」

「そっか、」

じっとイクミが昂治を覗き見る。
ちょっと身を引いて、何事かと相手を見返した。

「疲れてるみたいっすね、」

「え?そうでもないけど…、」

イクミは少し俯いて、ポケットの中から造花を出した。
そして昂治の目の前差し出す。

「イクミ?」

ニッコリとイクミが笑って、造花を握らした。
ますます昂治は顔を顰める。

「残り物なんですよー、捨てるの勿体無いしょ?」

「そうだな、で?」

「昂治にあげる!俺さー、花とか似合わないし!」

眉を少し昂治がひそめる。
それは言い換えると、

「俺が花が似合うって言ってるのかよ、」

「あははー、まっ、それは置いといて。どーぞ!」

「なんだよ、まったく。」

そう言いながらも、昂治は造花を受け取った。
そして、そのままポケットにいれる。
イクミはニコニコと笑い、昂治を見た。

「あ、もうこんな時間だ…じゃ、行くから。」

「んにゃ、この辺にいるからさー。終わったら来てね∨」

「ああ、」

手を振って、昂治は歩いていった。
それを見送って、見えなくなる頃イクミは下へ俯く。

「……、」

ゆっくりと笑みはなくなり、自嘲げになった。

「…これで…いい…、」

花交換。
受け取れば、気持ちを受け取ってくれたと云う意味で。
たとえ昂治がそんな気がなくても。










いつか消えゆく感情

それは

感情は何処へ消えゆくのだろう。










12月24日――PM10:09


夜も更けてきたが、パーティの盛り上がりは
衰えるどころか、盛り上がっていく一方だった。
何とか昂治も役目は終わり、一息がつけるようになる。

「…やっと終わったな、」

かと云って、すぐパーティ会場に行く気が起こらなかった。
何人かに云われたように、
自分は相当疲れているのかもしれない。
不思議と体は重くないけれど。

「……?」

それでも、パーティ会場が見渡せる、二階通路にいた。
ほとんど人がおらず、だからだろう。
手すりに腕を置いて、立っている人影がすぐ目に入った。

「…ゆ…うき、」

声が洩れたようだ。
立っていた人影はゆっくりと昂治の方を見る。
祐希だった。

「…なに見てんだよ、」

「いや、別に理由はないけどさ、」

「へっ、なら見るな。」

そう言って、祐希は昂治から目を逸らした。
昂治は歩み寄って、祐希から少し離れた所で止まる。
そして手すりに手を置いた。

「パーティに参加しろよ、」

「人の勝手だろ、命令すんじゃねぇ。クソ兄貴が、」

その悪い態度に昂治は苛つかない。
軽く昂治は笑い、祐希を見た。

「カレンさん…探してると思うよ、」

「干渉するな、」

「ああ、しないよ。」

キッパリと昂治は云った。
だからだろうか、それ以上祐希は何も返してこなかった。
静まりかえる。
少し経って、祐希が話し出した。

「誰が考えたんよ、」

「え、なに?」

「花だ、バカじゃねぇか、」

「花交換のことか…おまえな……まぁいいけどさ。」

昂治が手すりから手を離した。
盛り上がるパーティ会場を見て、祐希を見る。

「少し参加してこいよ、楽しくなかったら帰ればいいし。」

「…うるせぇ、」

「花も強制的じゃないしさ、」

そう言って、昂治は歩き出した。
祐希を過ぎ、そのまま去って行こうとする。

「強制的じゃねぇんなら、何で渡されるんだ。」

「渡される?」

昂治は振り返る。
よく見れば、祐希の服の胸ポケットに造花が刺さっていた。
その造花を取って、ずかずかと祐希は昂治の前に立った。
大きくなった弟は見上げなければ、目線はあわない。

「はっ、てめぇみてぇな奴がお似合いなんだよ!」

そう言い捨て、造花を昂治に押し付けた。

「おい、祐希!」

身を翻して、祐希は去っていく。
押し付けられた造花を見て、昂治はため息をついた。
捨てるワケにもいかない。
昂治は造花をポケットにいれて、祐希とは逆方向へ歩き出した。

「……」

祐希が立ち止まって、その行動を掠め見た。
ぎゅっと祐希は目を瞑り、そして開き歩き出した。










消えゆく感情。

何処へ?

また生まれてくる













12月24日――PM11:47


誘われるような、そんな感じで昂治はリフト艦と本艦を
繋ぐ通路を歩いていた。

「こうじ、」

小さな声が耳に届く。
振り返れば、ネーヤがいた。

「ネーヤ、」

にっこりと微笑む。
トコトコと近づいてきたネーヤはじっと昂治を見た。

「たくさん、つれてきたね。」

「なにを?」

「キモチ、」

やわらかく笑うネーヤの頭には造花が刺さっている。
真ん中に目立つように刺さっているので、髪飾りにも
ならない。昂治はその花を取った。

「ネーヤ、花はそうやってつけないよ。」

「…あげるヨ、その花。」

「俺に?」

「うん、こうじにモラッテ欲しい、」

穏やかな笑みを深くし、
昂治はその花を胸ポケットに刺す。

「…ありがと、ネーヤ。」

そして自分が持っていた造花をネーヤに差し出す。
ネーヤは首を傾げた。

「くれるの?ネーヤに、」

「ああ、」

「……イイの?」

コクンと昂治は頷き、
それを見てネーヤは花を受け取った。

「こうじ…キモチあたたかくて…痛い、」

そっと手を伸ばし、昂治の頬に触れる。
温度のない手が頬を撫で、下ろされた。

「うけとっても…渡さナイのね、ドウシテ?」

「…ネーヤ、俺は……、」

ゆっくりネーヤは昂治を抱きしめた。
すると少しづつ昂治から力が抜けていく。

「疲れてるヨ…スゴク。」

「はは、気づかなかったよ。」

「うん…」

昂治の瞳がトロンとしてくる。

「ネーヤ、俺…。」

「うん、大丈夫だよ。」

ゆっくりと目を閉じるのに合わせるように
ネーヤは昂治を強く抱きしめる。

「……ごめん、な…ネーヤ。」










生まれてくる

何度も

一つの想い










12月24日――PM11:43


パーティ会場の片隅に祐希はいた。
盛り上がっているのを、流すように見ている。

「あらー、おひとりぃ?」

ふざけた感じの声がかけられる。
イクミだ。
無視をした祐希に構わず、イクミは隣に来た。

「参加しないデスか?」

「…関係ねぇだろ、」

「ま、あね。関係ないね。」

ふふっと笑い、後ろで手を組んだ。
上を仰いで、祐希を見る。

「お花、どーしたの?」

「…さあな、」

「昂治にあげたとか?」

少し動揺する自分に祐希は舌打ちをする。
笑みを佇んだままで、イクミは言った。

「俺は昂治にあげたよ、」

「そ…それがどーした。」

冷たく言うつもりが、声は微かに震える。
見透かすように笑っているイクミだが、
翠の瞳は揺れていた。

「どうも…しないデス。祐希クン。」

「……」

どうにもならない。
二人は睨みあうように、見合った。

「ソバニ…イタイ、あなたの…、」

声がし、見れば目の前にネーヤがいた。
微笑んで、祐希とイクミの手を取る。

「ソバにいても、イインダヨ…ひとりは寂シイもの。」

そして手を引いた。









あなたのソバにいたい。

きょうは

あなたと一緒に…










12月24日――PM11:54


ネーヤは人ではない。
その力も並大抵のものでなく、祐希の抵抗も効かない。
つれてこられたのは、薄明かりの個室。
そこには、

「一緒…ダヨ、」

床に布が敷かれ、その上に昂治が横になっている。
寝ていた。
そっと何かを胸に寄せて眠っている。
三つのピンクの造花、それをやわらかく包んで。

「なに、寝てやがっ…、」

怒鳴ろうとした祐希の唇に、
ネーヤの人差し指が当てられた。

「そばに…いれるよ?」

「…っ…、」

「祐希、相手はネーヤさんだよ。全部わかっちゃってる。」

イクミはネーヤに笑いかける。
ぎこちない笑みだが、満面に相手は笑みを返してきた。

「そう、ソバにイタイ。ずっと…一緒ニ。」

二人に胸に添えられていた造花を差し出す。
その花は他の造花よりキレイだった。
否、本物のようだった。

「想いは…叶うモノダカラ。」











そばにいたい










12月24日――PM11:58


ネーヤは寝ている昂治の横にいた。
祐希は壁に寄りかかるように座っていた。
イクミは少しうずくまるように座っていた。

昂治は静かに寝息をたてる。









笑いたい

あなたと

この感情はなんだろう










12月25日――AM12:00


ネーヤは微笑む。
祐希は眠る昂治を見ている。
イクミは眠る昂治を見ている。

やさしいキモチ。

寝顔はやわらかな笑みを浮かばせていた。


きよしこのよる

せいなるよる

あなたと一緒の

クリスマス。


――メリークリスマス。
あなたが目を覚ますまで、このコトバはとっておこう。






(終)
キモチ的にはネーヤ×イクミ×祐希×昴治……ダメっすかね?
こう連結でき…げふげふげふ。

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