+++げんじつのなかで
あたりは暗くて、自分と昂治がいる。
――弟のくせにっ!!!
昂治が叫んで、
――あんたなんか、死んじまえっっ!!
そう、祐希は叫んだ。すると、一瞥するように睨んでいた昂治は見違えるように笑う。
――わかった
静かに昂治が言う。
ピタリと体が止まり、崩れるように倒れた。
祐希は距離を縮め、兄の体を起こした。
――あ…兄貴っ!
赤黒い血が、右肩から止めどめなく溢れてくる。
この血の量では、出血多量で死んでしまう。
溢れる赤黒の血は、滲み祐希をも染め上げていく。
死ナナイデ
誰の言葉か、祐希は昂治の体を揺する。
――お前が望んだことだろう……
薄く昂治は笑った。
目を覚ます。
汗はぐっしょりかいて、身体は重い。
軽い嘔吐感。
「……。」
血を流していない昂治が、のぞき見ていた。
「何か用かよ。」
「何もないよ。」
目を伏せて、昂治が言った。
怒りも諦めもない、落ち着いた表情である。
祐希は体を起こし、額を抑えた。
「あんたなんか、大キライだ。」
「…ああ。」
軽く言葉を返し、昂治は祐希から離れていく。
祐希の言葉など、一切、響く事はないかのように。
ベットから離れようとする昂治に、祐希は抱きついた。
微かに震えたが、昂治はじっと弟の腕にとどまる。
「あんたなんか―――……」
体の冷たさに、祐希は身を震わす。
顔を上げると、微笑む兄がいた。
目前にいるのは、もう昂治ではなかった。
兄は、こんな風に笑わない
あのとき、
兄は自分が言ったとおりに、死んでしまったのだろう。
何かが死んで、
昂治を微笑ませているのだろう。
そうでなきゃ……
こまる…んだ、兄貴―――
自分に本当の笑顔を向けていると、錯覚してしまう。
否定した現実の中で。
(終) |